第三七夜★『戦火の夜明け』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
その夜 城壁の外では兵士たちが
野営をし大掛かりな陣営が築かれていた
パチパチと爆ぜる焚き火が
そこかしこで灯り
ガシャガシャと鎧の音が混ざり合い
物々しい 闇夜を私は見ていた
何十年と続く
人と人との覇権争いは
いよいよ終わりを迎えようとしていた
この夜 数万と集まった兵士たちは
互いを鼓舞し合う者
神に祈りを捧げる者
開戦を待ちきれず 大声を上げる者
焚き火に耽る者
さまざまであった
中でも 二十歳もいかぬ若者がいた
落ち着きのある眼差しで
夜空を見上げて ただ 時が過ぎるのを
待っているようだった
私は一つ瞬いてみせると
若者はそれに気づき 私に語りかけてきた
『星よ 我々の愚かな争いを
なげいているのだろう
わかっているさ 人と人が争い
多くの命が失われる
そんな愚かなことを何十年と
繰り返してきている
わかっているさ…』
『しかし 我々の営みは争いなくして
平和の世が作れないのだ
動物や昆虫 全ての生命と同じなのだよ
だから僕は この星に生きる生命として
生命たる業にこの命を捧げるまでだ』
彼の魂の語らいは
どのくらいの時間が過ぎたのか
わからなかったが
なんとも この若者は生命の営み
在り方をこの若さで理解し
己もその身を捧げる
覚悟までできているのか
私は人の生命の営みの複雑さを感じていた
それと同時に 彼の瞳からは強い意志
生命の灯火を強く感じた
若者は真っ赤なマントを翻すと
同じマントを纏った六人の若者と合流し
兵士たちが集まる陣営の登壇に立った
きっと彼らがこの隊の精鋭なのだろう
兵士たちは一糸乱れず
若者を見上げると敬礼をした
若者は兵士たちに向かって語りかけた
「我々はこの戦いで
多くの命を犠牲にした
しかし それも明日の戦いで全てが終わる
家族 友 恋人 全ての民の命を
我々は背負っている
神に祈るな!
全ては我々の強い意志
ついてこい!
僕らは最後まで君たちを見捨てない
僕らが必ず勝利に導く!」
陣営に控えていた 聖歌隊が
兵士たちを鼓舞する歌を披露すると
陣営の空気が一気に高揚していくのが
大気の震えで私にも伝わった
「剣を抜け!!」
精鋭の一人が猛々しい声を放つと
兵士たちは一斉に抜刀し
天に掲げた
『我らに勝利を!我らに明日を!』
最後の焚き火が兵士たちの戦いの雄叫びに
爆ぜると 掲げた剣先には朝日が差し込み
眩い光を放った
私が眠る その朝
彼らは最後の戦いに赴くのだろう
願わくばあの強い眼差しの若者に幸を
私はそう思い 白む空に瞬いてみせた
強い意志の話って難しいですね
でも、過去の人たちが行ってきたこれらの礎に我々が居るんだな、と書いていて思いました




