第三十六夜★『おかしの村の夜』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
この頃 地球では季節の移ろいが
そこかしこから感じられるようになった
私はぼんやりとその景色を眺めていると
小さな村の小高い丘にある病院から
こちらを見つめる少年を見つけた
こほこほ と咳をしながら
寂しそうに夜の星空を見ている
私は見上げる少年に向かって
こんばんは と瞬いた
少年は私を見て少しだけ 表情を緩めた
少年は つぶやくように私に語りかけた
『お星さま 僕は病気になっちゃって
少し前から入院してるの』
小さなため息を続けて少年は悲しそうに
『もうすぐ 村ではお祭りがあるのに
それまでに治らなかったらぼく 嫌だな』
ハロウィンと呼ばれるお祭りが
この村で開催されるのを 村人たちが
忙しなく準備をしているのを見て
私は知っていた
少年はこのお祭りを実に楽しみにしていて
心から悲しそうな顔をしていた
『友達と仮装してお菓子をもらいに
村中走り回りたいんだ』
そうつぶやくと少年はぽろぽろと泣き始めた
私はその涙を見ていることしかできない
しかし 目一杯瞬いて少年の涙を拭ってあげた
いよいよ ハロウィンが村で行われる日がきた
私は病室で窓から村を眺めている少年を見つけた
お祭りに間に合わなかったのか
私は少年の落胆した気持ちを理解した
少年が私の光に気がつくと
『こんばんわ』とつぶやいた
私はきらりと瞬きそれを返した
少年はやはり元気がないように見えて
ただただ村の暖色の灯りと時々瞬く夜空を見ていた
『僕もお祭りに行きたかった 病気なんかどこかいっちゃえばいいのに』
くやしそうに かなしそうにつぶやく少年は
ますます元気がなくなった
しばらくの沈黙のあと
私はふと村をのぞいてみた
するとどうだろうか
村の灯りが少しずつ病院のほうに
向かってきているではないか
少年はこのことに気づいていない
少年が諦めてベッドに横になろうとした瞬間
窓にコツンと 何かが当たる音がした
少年はそっと窓を覗くと
暖色の灯りと かぼちゃのランタン
魔女の格好をした友人たち 村のみんなが
少年にお祭りを届けにきていた
『わぁぁぁ』
少年は声を出して暖かな色を眺めた
村のみんなは少年が
病室で1人寂しく過ごしてるのを知って
少しでも元気をあげようと
盛大に『早く元気になれ』
と歌や踊りを披露した
病室に少年の身体でも食べれるような
お菓子が届けられ しばしば少年は友人たちと
笑い合った
暖かい色の列が村へとまた消えてくのを少年は
ずっと見つめていた
少年の瞳にはキラキラとした涙が映っていたが
これはいつぞやの悲しい涙ではなく
喜びの涙であった
私はこの美しい風景を
少しでも彩れるように
暗く冷たい夜空にきらっと
またたいてみた




