第三十四夜★『歯車の夜』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
ぎぃぎぃぎぃ
夜は静かなものであって
静けさとともに私たちは
星空で輝く時間だというのに
私はこの音が気になり町を見下ろした
ごうごうと稼働している工場
いくつもの歯車が並んだ機械
えんとつから煙が立ち
カンカンと金属を叩く音や
ガシャン ガラガラと何かが崩れる音
男たちの荒々しい声が飛び交う
夜だというのに なんとも騒々しい町だ
オレンジ色の電灯で照らされた町は
機械や人びとが行き交い
機械オイルと野菜が並ぶ屋台や
歯車屋と病院が合わさった
不思議なところもあった
オイルとエールが人気の酒場は
人びとと機械の笑い声と怒号で包まれていた
その酒場の二階に目をやると
老人が犬の形をした機械の修理をしているの見つけた
老人は溢れかえりそうな数の歯車を組み合わせ
機械に一つ一つ組み込んでいる
あれでもない これでもない
老人はガシャガシャと音を立てながらいろいろな歯車を組み合わせている
あぁ やはりこれでもない
老人はつぶやくと部屋を出て
夜の町に消えていった
私は気になり 老人の後を追うように
夜道を照らした
老人は 町の廃棄場に入り
同じ犬型の機械を探し回った
ガシャン ガラガラ カランカラン
金属が地面に落ちる音が
夜の廃棄場に響くのも気にせず
老人は機械を探した
私の位置が高かくなった頃
老人はようやく犬型の機械を見つけた
手早く機械を解体して必要なものを取り出すと
丁寧に機械を元の場所に戻してやった
手を合わせる老人の姿は
心から感謝をしているのが十分に伝わった
老人はいそいそと部屋へと帰り
急いで取り出した歯車を取り付けた
それから全てのものを取り付けて
電源を入れてみた
ぎぎぎっという音と共に
機械は無事に動き出した
よしよし
と機械の頭を撫でて
老人はホッとした顔を見せた
老人は機械を連れて再び部屋を出ると
少しした街角の家へと入っていった
そこには老人の直した機械を心待ちにした
機械の老婆が居た
老婆は何度も何度も老人に感謝し
機械の犬を撫でた
ほっほっほ と笑う老人は家を後にして
夜の町へと溶け込んでいった
ここは 人も機械も差別もない
ただ 混ざり合った町だ
私は老人の夜道を そして
この不思議で明るい町に負けぬように
瞬いてみせた
久しぶりに書かせていただきました