表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見つめた星  作者: ルカニウム
33/40

第三十三夜★『雪と暖炉』

私は見ていることしか出来ない

今夜もずっと見届けよう

そこに生きるものたちを…




冬の寒さに雲が冷え

分厚い雲から雪が舞い降りた

幾日が過ぎると町はすっかりと

雪化粧がされていた


私はいつものように町を見つめていると

レンガ作りの煙突から もくもくと

白い煙を吐きだす 小さな家を見つけた



そこには老婆が暮らしており

ゆらり揺られる椅子に座り

せっせと編み物をしていた



パチ パチと小さく爆ぜる暖炉には

暖かな橙の火が揺らめき

その煙が煙突を伝って空へと消えていった



部屋を温める暖炉は 眠りを誘うような

静寂の子守唄になり 老婆は何度も編む手を

止めながら それでも編み続けていた



どうやら 近々やってくる孫のために

ポンチョをこしらえていたのだ

縄模様の凝った意匠を 丁寧に想いを込めて

ひと編みひと編み編んでいた



それから毎夜 老婆の編む

ポンチョの完成を楽しみにしながら

雲の切れ間から見つめていた



幾日か過ぎ 夕刻に私が目覚めると

老婆の家に向かい サクサクと雪を踏む音を立て

楽しそうにあるく親子が見えた

雪に残る足跡を 遡ると 町から少し離れた港の家から向かってきていた


コンコンと扉を叩き やってきた孫たちを

暖かな暖炉と共に迎えた老婆は

孫を抱きあげて 成長の重さを喜んだ

共に夕食を愉しみ だんらんの時間を過ごした


そして やっと完成した

縄編み模様のポンチョを孫に見せると

目を輝かせて それを受け取ると

いそいそと頭から被った

その姿は可愛らしく とても暖かそうに見えた


老婆は その姿を見て

数日の夜なべの疲れが消えたような

穏やかな顔をして 孫の頬にキスをした



あぁ この寒々しい雪景色の一画に

暖かな景色を見られるとは

私は感じることは出来ない

温かさを感じたような気がした



楽しい時間は過ぎ去り

母親に手を引かれ 帰っていく孫の姿を

優しく 少し寂しそうな顔で老婆は見送った


孫の後ろ姿は自分の編んだポンチョ姿で

可愛らしく ふふっと笑いながら空を見上げた



私は お疲れさま 素敵な編み物でしたよ


と 老婆の数日間を労うように

冬空に きらりと瞬いてみせた

最後までお読みくださってありがとうございます。


今年の冬も寒いですね。

そんな寒い日々に少しでも暖かくなるような暖炉の火を思い出して、心だけでも暖かくしたいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 寒い雪の日に、暖炉の暖かな火が見えるようでした。 お孫さんの為にポンチョを編むおばあさん、絵になりますし、その思いに心の中に灯がともります。 星が見守っていてくれるかと思うと、私も自分にで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ