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見つめた星  作者: ルカニウム
28/40

第二十八夜★ 『桜色の夜』

私は見ていることしか出来ない

今夜もずっと見届けよう

そこに生きるものたちを…




彼らが今年も目を覚ます


小高い山々 人が暮らす町

澄んだ川辺に 無数のつぼみを付けた木々は

今か今かと風につぼみを揺らしては

気をうかがっていた


私は 数日間そわそわしながら夜闇を見つめては 開く瞬間を楽しみにしては あの色を思い出していた


それは何十年も前のことだ

私はいつものように地球を見下ろしてはそこに住む生命を眺めていた


私が目覚める時間 人々にとっては夕刻

家々では橙色の灯りのもと あたたかな夕食の時間

であった


大きな木が庭先にある家では まだ灯りが消えたまま 小さな少女が一人 人形を抱えて 窓に顔を付けて外を眺めていた


私と目があった少女は かわいらしい笑みを浮かべ小さく手を振った


少しの間 他愛もない時間を少女と過ごしていると

父親と母親が帰ってきたようで 家には灯りがともった


少し遅い夕食を楽しんだ家族は 家を出て

庭にある大きな木を眺めていた


父親が指差す先には

今にも咲きそうなつぼみがたくさんあった

少女と母親は嬉しそうな顔をしながらそれを見ては笑い合っていた


翌日の夜 父親に手を引かれた少女と母親は

庭にある木に色付いた桜色に目を奪われた


月明かりに照らされた桜の木

それは夜の闇には似つかわしくない美しい色が庭に広がっていた


父親に肩車された少女は

両手いっぱい桜色を味わい 風に揺れる花々の匂いを肺いっぱいに吸い込んだ


この日以来 少女は毎日庭に出てきては

桜の木を眺めては木の周りを走り回った


ちょうど一週間くらいすると

桜の花はその役目を終え

新たな命へ繋ぐ準備を始めた


家族が木を眺めていると

強い風が木を揺さぶった

すると 今だ飛び立てといわんばかりに

桜の花びらたちは勢いよく風に乗り

遠くの山へと旅立っていった

夜空に 桜色の川が流れ

一際美しい景色が生まれた


人が作り出すことの出来ない美しさに

心を奪われたのだろう

少女は言葉にならないような顔を浮かべ

その瞬間を見つめていた




そんな少女の顔を思い出していると

桜がいっせいに咲き始めた


夜の闇に咲き乱れる桜色

水面に映る桜色

新緑に負けぬ桜色


それは美しい色が私の眼下に広がった


人々はその美しさに誘われて桜色を眺めに

外へと飛び出した

ある者は歌い ある者は踊り 思い思い

桜色を感じている



かつての家を見てみると

孫に手を引かれ かつての少女が

庭の桜の木を見上げていた


あの日と変わらぬ 笑顔で桜の色を



私は桜色に添えるようにそっと瞬いては

しばしの間 この色を楽しんだ

久しぶりの投稿でした

桜はやはり美しいものですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 満開の桜は美しいですね〜。
2022/04/09 17:29 退会済み
管理
[良い点] 夜空に桜色の川が流れる情景が、とても美しくて、うっとりしました。 一度私も見てみたいです。 少女の家族が仲がよくて、微笑ましいです。 孫ができる年になっても、桜の木は健在で、自然の偉大さも…
[良い点] 星(上の方)から見る桜ってどんな感じなのかなぁと想像すると新鮮な感じがしました。 春らしいお話で良かったです。 少女が幸せそうな人生を歩んでいてほっこりしました。 [一言] 星と夜桜の組み…
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