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見つめた星  作者: ルカニウム
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第二十六夜★ 『雪の降る聖夜』

私は見ていることしか出来ない

今夜もずっと見届けよう

そこに生きるものたちを…




雪雲に遮られ 退屈な日々を過ごしていた

地球の半分はねずみ色

この雲はいつ過ぎるのだろうか

動こうとしない雲を恨めしそうに見つめていると

気づけば夢へと落ちていった



意識が戻ると私はとある町の屋根の上で目が覚めた


屋根から下を見下ろすと 石畳の町は

聖夜を彩る装飾がきらびやかに施され

町の中心の大きなもみの木には

ひときわ美しく装飾が施されていた


もみの木のてっぺんには

星の形をした飾りが鎮座している

私はそれを不思議そうに見ていると

下から声が聞こえた


「あー猫ちゃんだ お母さん 屋根の上に猫ちゃんがいるよ」


「本当ね わたあめのような白毛のかわいい猫ちゃんね 驚かせたらかわいそうだから行きましょう」


母親は優しく子供の手を握り

歩幅を合わせるようにゆっくりと歩いていった


振り返る子供に にゃ〜 とひと鳴きすると

子供は嬉しそうに手を振った



ところで 私はなぜ地球で

猫になっているのだろうか

手を見ても やわらかな肉球と

毛並みの良い白猫になっている



何が起きているのか分からない私は

四肢が動くことを確認すると

ひょいと隣の屋根に飛び移り

町をぐるりと見回してみた



すると ぴょんと屋根を飛び越え

一匹の猫がやってきた


「やぁ 久しぶりだね 僕が分かるかい」


私は今日猫になったばかりで

ましてや遠い銀河の いち星だ

猫に知り合いが居るはずもないと思い

首を横に振った


「君はあの星だろう」


猫は舐めていた手を夜空へと上げ

雲の切れ間に見える一つの星を指した


私はやっと理解した

彼はいつぞや 会話をした不思議な黒猫である

私は にゃ〜 と挨拶をすると

黒猫も嬉しそうに鳴いた


「ようこそ 地球へ」


そう手招きをする黒猫に

私はなぜ地球に降り猫になっているのか話した


すると黒猫はクスクスと笑いながら答えた


「退屈そうな君を呼んだのは僕なんだ 今日は人にとって特別な夜でね それを君にも感じて欲しかったのさ」



私は不思議そうに首をかしげると

黒猫は手招きをすると後ろを向き言った


「さぁ 特別な夜を見に行こうか」


黒猫はぴょんと屋根を降り とことこと歩き出した


私は彼の動きに習うように 屋根を降り追いかけると

人の世界は見下ろすよりもさまざまなものに

あふれていることに気づいた

また見下ろしている時には感じない

行き交う人の足音が大きく聞こえた



不思議と 白と黒の猫を見て人びとは

笑顔を見せ道を開けてくれる



「この町の人たちは僕たち猫に優しいのさ

昔から猫と人は共に生きているんだ

だから僕らも人びとが大好なんだよ」



なるほど 確かにこの町の人たちは

驚かせたり 追いかけたりせず 私たちの行方を

優しく見守ってくれている



家々を抜け 私たちは先程の

大きなもみの木の広場の前にたどり着いた

町の人たちがもみの木の前に集まり

笑顔を咲かせている

子供たちは走り回り 心が躍るような音楽が奏でられ

寒空にあたたかな光が溢れていた



「ちょうどいい頃合いだ さぁ始まるよ」


そう猫が言うと


空からシャンシャンシャンと鈴の音が響き渡り

赤と白の衣装に身を包み

立派な髭を蓄えたふくよかな老人が

トナカイたちを従えたソリに乗り

冬空から舞い降りた



私は目の前で何が起きてるのか分からないまま

ただ この瞬間を見ていた



「ふぉっふぉっふぉ 今年もみんな良い子にしていたみたいだね 私はちゃんと見ていたよ」


立派な髭を撫でながらそう言うと

ソリに乗せてある 大きな袋を持ち上げ

もみの木の前で開け始めた


すると 袋の中から白い龍のような煙が勢いよく

ねずみ色の空へと溶けた


集まった町の人たちがそれを見守ると

わぁという歓声に包まれた



「さぁ 今年もこれで私の勤めは終わりだよ

子供たちにはプレゼントをあげよう」


赤い紙で包装されリボンの付いた箱を女の子に

緑の紙で包装された箱は男の子に

一人ひとり手渡しをした


子供たちはとびきりの笑顔で

ぽふぽふと老人に抱き付き

喜びを身体いっぱいに表現していた


この幸せな時間がどのくらい続いていたのだろう

私はすっかり見とれていた


「ふぉっふぉっふぉ そろそろ時間だ

みなのもの 来年もまた会おう」


そういうと 老人はソリに乗り 手綱をパンと鳴らすと トナカイたちが空へと走り出した




老人は最後に私と目を合わせるとウインクをしシャンシャンシャンという音と共に 空へと消えていった



町の人たちもそれを見守ると

もみの木に別れを告げ 広場をあとにしていった



私は隣に居る黒猫の方を向くと

黒猫はそこには居なかった


どこに行ったのだろう

私は辺りを探し回ると もみの木の横で

ちょこんと座りてっぺんを見つめていた


「やぁ 楽しかったかい」

黒猫は 手を舐めながら私に言った


私は もちろん 不思議な時間を

過ごさせていただいたよ と答えた


黒猫は嬉しそうに

「それは良かった 君にこの特別な夜を

ぜひ見て欲しかったのさ」

と答えた


私はなぜ私にこれを見せたかったのかと聞いてみた



「もみの木のてっぺんを見てごらん あれは君の姿を形にしたやつさ 君のことを人びとはあのような形に見えてるんだね」


私は ほぅとうなずくと 黒猫は話を続けた


「今日はクリスマスといって人びとにとって

特別な夜なのさ 君に願いを込めて 祈るんだ

平和や喜びの日々を…

だからこの木の一番高いところに星を飾るのさ」


私は見つめていることしか出来ない

そう黒猫にいうと


「たしかにそうさ でも 君の瞬きが人びとには

嬉しいのさ 声が聞こえたんじゃないかってね」


私はなんだか照れくさい想いになり

手で自分の耳を撫でた


「さて 特別な夜もそろそろ終わりだね

君も空へと帰る時間だよ」



そういうと 黒猫は頭に王冠を乗せた

大きな猫の姿になり 「最後の一仕事だ」と

手を一回パンと叩いた


すると 空から ふわふわと白い雪が舞い降りてきた

満足そうにそれを見つめると

私にウインクをすると頭をぽんぽんと撫でた





私の視界が空に戻ると

なんとも不思議な感覚が私を包んだ


降り積もる雪を見つめながら

私は思った



あぁ 彼が あの…

最後までお読みくださいまして

ありがとうございます^ ^


聖夜前夜と言うことで、不思議な世界の物語です。


評価や感想など頂けたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] このお話はいつもと一味違う感じですね。ちょっと不思議で、特別な感じがして良かったです。 というかクリスマスシーズンに読みたかった……! >>見ている事しかできない 見守ってくれていると…
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