第二十夜★ 『かつての夜空』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
この日 月がもっとも地球に近づいた
数十年に一度と月は地球に近づき
夜闇を青白く彩り 深まる闇を照らした
地球も月を歓迎するかのよう
雲一つ無い 澄んだ夜を演出していた
私は照らされた一つの山を見下ろし
月の光に照らされた湖を見つけた
広大な湖は 山から降りる風に撫でられ
柔らかな音を立てながら 湖面を揺らし
海とはまた違う波音が 山々に反響して
夜の静けさを 心地よいものにしていた
私はこの波の旋律を楽しみながら
月明かりに照らされる湖面を見つめていた
よく見てみると 湖中には数件の建物に橋
人が使う乗り物が沈んでいた
まるで忽然と人が居なくなったような
かつての生活が残るように映し出されていた
私はなぜ湖の中に村が沈んでいるのだろう
かつて災害がこの村を襲ったのだろうか
そんなことを考えながら 湖の周りを
見ながら ねずみ色をした壁が
湖の水を 堰き止めているのに気がついた
あぁ そうか
ここは自然に出来た湖ではなく
かつて人が作り上げた ダムというもだ
人が 水害や干ばつから守るため
多くの時間をかけて作り上げたものだ
自然の景観をあまり崩すことなく築いたダムは
人がこの山を そして自然を敬いながら
作ったのだろうと思った
湖中の村は百年も昔にダムの完成と共に沈んだ
かつての賑やかな生活を 水の中に閉じ込めたように
時を止めて
人々はこの村を忘れないよう 湖の外れにある丘に
かつての村が見下ろせるように 神社を建てた
そこには村の工芸品や石碑が祀られていた
村の子孫たちは忘れぬように
今も神社の手入れをしているのだろう
綺麗に掃除され 壊れたところは修繕されている
人がより良い生活を求めると誰かが犠牲になる
それをいつまでも繰り返すのが人なのだろう
それでも その犠牲を忘れぬように
慈しむことが出来るのも人なのだろう
人への想いに更けていると
水に写したかつての村が
月明かりの中で 白く輝いた
月が近づく特別な夜は
幻想的なものを見せてくれる
私はかつての村から望めた星たちを
人々が忘れぬようにと願い
そっと瞬いてみせた
最後までお読みくださって
ありがとうございます。
毎回 ベタな物語で恐縮ですが、月が照らすものって神秘的なものがあったり、不思議な想いを馳せてしまう気がします。




