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見つめた星  作者: ルカニウム
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第二夜★ 『私に祈りを』

私は見ていることしか出来ない

今夜もずっと見届けよう

そこに生きるものたちを…



太陽が眠りに就くころ 私は目を覚ました

どのくらいの時間だろう

この日は雲が私の視界を遮っていた

雲が通り過ぎるのを待つように

私はただ雲を見下ろしていた


闇が深まり始め 雲がさよならを告げた


私はふと町へと視線を落とした

港に程近いその町は海鳥の鳴き声と波音を纏い

心地よい音楽に包まれているような町だった


海のそばにある一軒の家

二階の窓からは温かな明かりが灯っており

そこに私を見つめている 少年と少女を見つけた

少女は少年より少し大きく 姉であるのだろう

顔立ちもよく似ている 可愛らしい二人だ


少年は夜空に手を合わせ

暗い表情で私を見つめている

姉もいっしょに祈るように手を合わせている

あまりの熱心な視線にきらりと

瞬いて反応してみせた


少年は表情を少し明るくし 姉の肩を揺すってみせた

姉もつられて少し表情を明るくした


私になにか願いを込めているのだろうか

二人はずっと見つめている


夜も深まる時間に二人はこんなにも

心配そうな顔をして ずっと空を眺め

私に祈っているのだろうと考えた


この日は朝から天気が悪く

町中に雨雲が居座っていた

風と共に夕方までひとしきり雨を降らせ

満足して去っていった雨雲が町を濡らしていた


風も弱まり雨雲が去ったのなら

もう祈らなくても良いのではないか

それもこんなにも熱心に ずっと


そんなことを考えていると

一階の玄関扉が開いた

どうやら父親が帰宅したようだった

母親が玄関に駆け寄り 父親を迎え入れた


帰ってきたことに気づいた二人は走りだし

父親の胸に力いっぱい飛び込んだ

二人を両手に抱えて抱き上げ

父親は満足そうに頬を寄せている


姉は笑顔で父親を抱き 弟は瞳を潤ませ

ぎゅっと父親の腕に埋もれた

奥から母親がその光景に涙し

家には灯る暖色の光のような

温かなひとときが流れていた



父親は漁に出てから天気が悪くなり

荒れた海で帰れなくなっていたようだ

その話を母親から聞かされて

二人は心配で眠れず 私に祈っていたのだ


荒れた海では 船が壊され 命を落とす

そんな光景を私は何度も 見てきた

自然と共に生きるということは

時に残酷なものでもあるのだ


父親の危険な仕事を小さい子供たちは

しっかりと分かっていて 心配をしながら

帰りをずっと待っていたのだ



永遠に続きそうな温かな光景だったが

二人は母親に促され 名残り惜しそうに

部屋へと戻ってきた

二人の顔は安心と同時に眠気も連れてきたようだ

部屋の明かりは消え 静まりかえった


眠い目を擦り 二人は再び祈るように

私を見つめた とても穏やかな顔で



私には祈りを叶えてあげることはできない

私は見届けることしかできないのだ



私はこの日一番の瞬きをみせ

眠りに就く二人を見届けた

読んでくださいましてありがとうございます。

また家族のお話でした。

少しでも温かさが表現できて伝わっていれば幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大切な人の為に祈る気持ちを忘れずに居たい、そう思える文章です。星が途中でも瞬いてくれるので、1話目よりほっこり度が上がってる気がします笑 
[良い点] 素敵な童話集ですね。 祈りを叶えてはあげることはできない、見届けることしか、という文章が胸に響きました。 ラストの作者さまの温かいコメントが、余韻があって良いです。 引き続き拝読させていた…
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