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見つめた星  作者: ルカニウム
17/40

第十七夜★ 『音に洗われて』

私は見ていることしか出来ない

今夜もずっと見届けよう

そこに生きるものたちを…




地球が太陽の周りを

ちょうど一周しようとしていた



私は この時期になると とある島国を

いつも眺めていた


これで もう何回目だろう

思いを馳せていると 龍の咆哮のように低く

それでいて風の流れのように

清らかな鐘の音を聴いた




山の中腹にある 朱色の鮮やかな

屋根瓦の寺から僧侶が法衣を身につけ

一撞き 一撞き 丁寧ながら 力強く

町中へ その音を鳴らした



108回 撞かれるという この鐘は

人間の煩悩と呼ばれる 欲の数なのだそうだ



これから終わる年への思い

新たに始まる年への期待を

人びとは多様な表情をしながら

鐘の音に想いを乗せていた




ふと見下ろした町の長屋の窓から

娘と姉弟と呼ぶには少々年の離れた

小さな弟の姿が見えた


娘は 弟が眠い目をこすりつつ

鐘の音を一生懸命聴いている姿を見守っていた


弟が頑張って起きていられるよう

話しかけては 背中をトントンと叩いたり

頬をつついたりしながら あたたかく やさしく




私はそんな姉弟の姿を見下ろしながら

遠い昔からの人の営みを思い出していた



人は欲があるからこそ 活発になり

成長をしていったものだ

ただ その反面に 欲に身をまかせ

多くの問題を起こすものもいた

それは古くからずっと繰り返されていて

今もそれは変わっていない



不思議なものだ

人は多様な成長をしているように見えて

根元は変わっていない

それがこの地球へもたらすものは

良いものなのか 悪いものなのかは私には

判らない


そんなことを考えていると

小さな弟は ついには娘の膝で

眠りに就いてしまった

無垢そのままの姿ですやすやと


この表情の姿こそ 煩悩の無い

無垢なものなのだろう

可愛らしくも美しいものだ



娘もその姿を見て微笑み

そっと布をかけてやった


眠る弟の頭を撫で 除夜の鐘に耳を澄ましながら

娘は窓から私のいる 夜空を見上げた


雲ひとつない静寂の闇

冬の空は 清く澄み渡り 小さな星まで見渡せるようだ


娘は私を見つけ やさしい顔でほほえんだ

幼くとも母のような慈愛に満ちたほほえみだった



私は娘に向かい ほほえみを返すように 瞬いた

また地球が一周するこの瞬間

どんな二人を見られるか楽しみにするとしよう



町中が鐘の音に耳を奪われていると

そっと新たな年が明けていた

終わりと 新たな始まりのしじま

想いはいろいろあるものです


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