第十五夜★ 『星と白の絵画』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
地球が太陽の周りを そろそろ一周りするころ
町には低い寒色雲が空一面に拡がろうとしていた
これでは今夜は地球が見られないと
星たちが退屈そうに鈍く瞬いてる
町よりも少し離れた山に
蛇が立ち上がったような形をした
険しい岩山がいくつもあった
その山頂のひとつに 古びた修道院がひとつ
ひっそりと建っている
いつの時代 どのように建てられたのか
地を見下ろすように 天を見上げるように
古びた修道院には修道女がひとり ここで暮らしていた
少女と呼ばれるころ 人同士の争いで全てを失い
悲しみに暮れた彼女は何日も町を彷徨っていた
そんな彼女を救った この修道院の先代と共に
ここで暮らし 神に仕えた
悲しみを消すように 一心に仕えた
修道女として過ごす日々
世界に平和の芽が出始めた ちょうど春のこと
先代は そっと天へと還った とても穏やかな顔で
それから彼女は この修道院を継ぎ
歳月は流れ 今に至っていた
雨水を貯め 野菜を育て 枯れ木などで
火を起し ほとんどのことが自給自足の日々
そして この険しい岩山の修道院に修行のため
訪れるものたちに 教えを説き 若き芽を導いた
今では 修行で訪れるものたちから
新しい修道服や生活で必要なものは 時より届けられ
そのときに町の様子など聞くことが
彼女の楽しみのようだ
神に仕えるものから 少しの間だけ
ひとりの人間として戻れている気がしていたのだろう
寒さが増し 夜も深まりだしたころ
修道院の窓から彼女は 町を見下ろしていた
もうすぐ生誕祭
町は鮮やかな電飾が もみの木や 家々に飾られ
深い緑と赤の色彩が あたたかな暖色と混ざり合い
おとぎばなしのように景色を染めていた
彼女はその景色を微笑みながら眺め
それから空を見上げた
ちょうど 分厚い雲がかかる少し前
私を見つけた彼女は私に祈りを捧げるよう
手を合わせた
その顔は修道女として神に仕える顔ではなく
ひとりの女性として 穏やかだが少しだけ
悲しみを交えた顔で祈っていた
彼女はこれから先もこの修道院で神に仕えるため
生きていくのだろう 失ったものは取り戻せないが
祈ることで 救われることもあるだろうと
私はそっと瞬いてみせた
町が雲に覆われ 静寂の時間が訪れたころ
そっと 白い雪が降りてきた
朝 彼女は想うだろう
白に包まれた町の景色の美しさに
神からの ”おくりもの”だと
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
もうすぐクリスマス。
切ないことも悲しいこともすべてあたたかくしてくれる魔法のような日になってくれるとよいですね。