表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見つめた星  作者: ルカニウム
14/40

第十四夜★ 『花の咲く夜に』

私は見ていることしか出来ない

今夜もずっと見届けよう

そこに生きるものたちを…




空気の澄んだ夕方 西の空には

太陽が眠りに就こうとしていた

最後の橙を空に残し 色とりどりの雲たちが

それを見届けながら 輝きを体にまとっていた


私が目覚めるころ 町は濃厚な藍色に染められて

家の窓に 暖色の花を咲かせていった



辺りはすっかりと闇に包まれ 静かな時間が訪れた



私が町を見下ろすと 小さな家から

少年と母親が 庭に植えていた木を眺めていた


少年は母親の手を引き 無邪気な笑顔で

木になる つぼみを指さしていた

母親は少年の指さす方を見て 嬉しそうに笑っていた



この木はどうやら 数十年に一度 夜にだけ

ひとときしか花を咲かさない珍しい木のようだ


代々この庭に根を下ろして この家を

見守ってきた木が今夜 花を咲かそうとしている



庭に ふわりと甘い花の匂いが漂いはじめた

いよいよ 咲きそうな花を少年と母親が

見つめていると 仕事から帰宅した父親が

息を切らせながら庭にやってきた


父親は 少年を高く抱き上げ

つぼみがよく見えるように 肩車をした


少年は嬉しそうに笑い つぼみに挨拶をしていた




一枚 また一枚と つぼみがゆっくりと開き

甘く華やかな香りとともに

その美しい姿を披露しはじめた


夜に映える純白の花びらは ドレスのように

煌びやかな姿で木のステージに降り立った

やわらかな風は このときを待っていたのか

ワルツのように花びらを踊らせていた



父親と母親は 代々この庭にある木の姿に感動し

少年も 真剣にその姿を目に 焼き付けていた


しばらく無言だった家族は

この時間を心に閉じ込め 家へと入っていき

素晴らしい瞬間に立ち会えたことを喜び合った

この日は 窓を開け 家中に香りを満たし

幸せの余韻の中 眠りに就いた



私が眠りに就く 夜明け前

一枚 また一枚と 花びらは風に舞っていった

最後の踊りを心ゆくまで楽しむよう

花びらは高く舞い上がった


私はまた華麗に舞う花びらに

またいつか会う約束をするように

きらりと瞬いてみせた


朝 家には一枚の花びらが窓辺に眠っていた

代々この庭にある木からの おくりものに

目覚めた家族は 何を想うだろう

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は“瞬間”というものをテーマに書いてみました。

自然は瞬間瞬間に表情が変わり

二つとない姿を見せてくれます。


それが“美しい”と感じるのでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ