第十二夜★ 『星の憂鬱』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きるものたちを…
ここ数日間 私は退屈をしていた
地球は ねずみ色した雨雲の群れに包まれ
生命の営みをのぞくことができなかったのだ
とても退屈である そう数日間 考えていた
しかし この日は雨雲の中を ちから強く舞い踊る
かみなりが 私の唯一の退屈しのぎとなっていた
その姿は 龍のように勇ましく 華やかで
鳴き声はまるで雄叫びのようだった
龍は雨雲の中で舞い 雨をより地上へ落とし
自然の優しさ 恐ろしさ ちから強さを
そこに住むものたちに見せつけていた
私はその姿を見続けていた
すると となりの星が ふわりと瞬きながら
私に話しかけてきた
「熱心に かみなりを見つめてどうしたのか」
私は答えた
ここ数日間 地球の営みを見ることが出来ないが
かみなりを見ていると退屈をしのげるものだ
それに ちから強い光も美しい
「それは興味深い 私も見てみようか」
と となりの星としばらくの間
互いに かみなりの舞を見つめていた
地上では ひとりの青年が傘を差し 町を歩いていた
かみなりが空を輝かせ 大きな音が鳴り響き
夜空を 雨雲の群れが横断する
青年は 濡れた大地に 足をとられながら
ゆっくりと家を目指し 時折り 空を見上げていた
ひとしきり雨雲は雨を降らせ いよいよ町から
旅立とうと 移動を始めたころ かみなりの龍も
遠く空の彼方へと最後の光を放ち 飛んでいった
青年は立ち止まり 傘に響く 小さくなった雨音を確かめ
空へと手を伸ばした そして 深く深呼吸をした
雨が上がって安心したのかも知れない
雨雲の子どもたちが 置いていかれないように
大きな雨雲の群れを追いかけた その隙間に
わずかな晴れ空が 顔を出した
青年は空を見上げ その隙間に私を見つけた
わずかな隙間から私を見つけ 嬉しかったのだろう
青年は ふと微笑んだ
ああ やっと見られた 愛おしき生命
私は 見つめた青年に向かって
微笑むように 私も見つけたよと
きらりと瞬いてみせた
となりの星も嬉しそうにそれを眺めていた
そして夜空は また雨雲の子どもたちの列に覆われて
青年の姿は雨雲へと 消えていった
わずかな時間 それは一瞬なのかも知れないが
地球に住むものたちを見られて
私の数日間の憂鬱は薄れていた
青年もきっと同じだろう
一瞬見えた 私の瞬きにより 気持ちは軽くなり
家路へと向かっていることであろう
小さな喜びが夜に溶けていった
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
雨が上がった時の胸を撫で下ろす 安心にも似た感覚を想いがテーマとなってます。
ちょっとした 良いことが日々に溶けているのを
見つけられればたのしく過ごせそうですね。