第一夜★ 『賑やかな日』
私は見ていることしか出来ない
今夜もずっと見届けよう
そこに生きる者たちを…
小さな街はこの日
彩られた黒とオレンジ
大小様々な電飾 私から見ても
はしゃぎたくなるような 装飾たち
きっとお祭りなのだろう
子供たちは着飾り大人たちは それを見て
お菓子を与えている
ああ ここで営んでいる者たちは
一様にこの日を楽しんでいる
共に笑い合い 踊り合い
街の片隅で少年が1人 膝を抱えている
この日の喧騒とは裏腹な表情のまま
私はとても気になった 街の盛り上がりよりも
少年は 街から少し離れた小さな家で
母親と二人暮らし 母親の少ない稼ぎで
日々を過ごしているようだ
ここに生きる者たちには少なからず
この様な構図の暮らしがあるものだと
私は思った
少年には共に遊ぶ子たちが普段はたくさんいる
とても明るい顔をして走り回る子だ
今 まるで別人のような表情で石畳に瞳を落としている
お祭りにいる子供たちと少年は
何が違うのだろう 再び少年に目をやる
ああ そうか 少年は着飾った服ではなく
いつもの服なのだ
私が目覚める少し前 少年は母親に自分も
みんなのように着飾ってお祭りに行きたいと
せがんでいた しかし母親の稼ぎでは
日々を暮らすだけで精一杯
子供を着飾る余裕は無かったのだ
少年はそれがとても悲しく家を飛び出した
私は少年の母親が気になった
家の窓から母親が見える
涙を流していた 肩を震わせて
貧しさで 子供の楽しさを奪ってしまった
自分を責めて泣いているようだ
私はいつの日から 笑う者 悲しむ者が
分かれるようになったのかと思った
同じ大地で暮らし 平等な者たちなのに…
きっと少しの擦れが暮らしの中で大きくなったのだろう 少なくとも私が見てきた者たちは
共に手を取り合い生きてきていた
しばらく母親を見ていると椅子を立ち
自分の服を取り出した
器用に切り出し何枚も服を切り
縫い合わせて 継ぎ接ぎの服を作った
涙を拭いながら
母親は出来上がった服を抱え 街へ駆け出した
不思議な光景だった
少年が街の片隅に居るのを
知っているかのように向かっていた
これをなんと表現したら良いのだろう
少年を見つけた母親は 膝を抱える少年を
強く抱きしめ 涙した
少年も抱きしめられながら涙した
少しの時間 2人の泣く声だけが
暗闇に溶け込んだ
母親は少年に服を着せた 精一杯の贈り物
少年の顔は見る見るうちに明るくなり
母親の前でくるりと回ってみせた
少年は母親の手を取り 街へ繰り出した
強く握られた2つの手が 私から見ても
温もりに満ちたものだと分かった
彩られた黒とオレンジ
街に悲しみが消えたようだった
ここでは平等 少なくともこの時だけは
夜が深まり 少年と母親は2人が暮らす家へと向かっていた 空を眺め私を見つめている
私はきらめいてみせた
見ていることしか出来ないが
これからも2人が 私を見てくれるように
童話的な感じでハロウィンを書いてみました。
ベタな展開、話ですが、平等に笑い合って手を取り合うお祭りくらいはそんな時間であって欲しいです。
最近ではこんな感情を忘れてるんじゃないかなって思います。