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ホラーゲームですから!  作者: うばたま
第一章 公爵令嬢は生き残るために戦う
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 アクションホラーRPG「ROLE」。

 剣や魔法が存在する世界。平和な時代が続くエルム国のある島。そこには、国中から魔力を持つ子供たちが在籍する魔法学校があった。

 その卒業パーティーのさなか、突如として島の墓から死者たちが甦りだす。彼らに知性の光はなく、ただひたすらに生者に襲い掛かってくる。多くの犠牲者を出しつつ、生き残った生徒たちは戦うことをを選ぶ。生き残ること、それだけを信じて――


 同梱されていた説明書には、そんなあらすじが書かれてた気がする。これは一作目のあらすじだ。

 リーガンがかつて日本で遊んだこのゲームは、確か割と売れていた。続編が何作か出て、さらにハードが変わったことで一作目は大幅にリメイクされたはずだ。


 そんなことを思い出していたリーガンは、王太子ミシェルの側近、いや、取り巻きと呼ぶ方が正しいかもしれないダミアン・ソーン・ゴールドスミスに無理やり控室まで引きずられていた。

 王太子ミシェルへの不敬というのが名目だが、リーガンはそれどころではない。

 「離して!今はそれどころじゃないのよ」

 「何のことかはわかりませんが、あれ以上王太子に不敬な口をきくと、最悪拘留されますよ。あなたがこれ以上傷つく必要なんかどこにもないでしょう」

 彼の言葉を聞いて、おや、とリーガンは思った。彼の声には、苛立つような響きがあった。

 「あなたは、てっきりさっきの私の発言に怒っているのかと思った」

 さっきの発言とは、王太子を前にして「聞く価値もない」と発言したことだ。王太子の取り巻きであり、宰相の息子とあれば、聞き捨てならない台詞ではないだろうか。

 「聞く価値もないのは同意ですから。けれどあのボンクラが我に返ったら、しゃあしゃあと不敬罪だ何だと理由付けてあなたを拘束くらいしますよ」

 「言われなくともあんなボンクラの相手なんかする暇ないわよ」

 「それは羨ましい。とはいえ、僕もこれでようやくお役御免となりそうです」

 眼鏡の奥の灰色の瞳を細めて、彼は面白そうに口角を上げた。

 「あなた……第一王子派ではないの?」

 「彼が王位継承者にふさわしい人物か見極めるのが、宰相の息子である僕の使命です」

 この国には王位継承権を持つ者が三名いる。一位が第一王子のミシェル。二位が第一王女のジュディス。三位が第二王女のローリーだ。この国では女性にも王位継承権がある。ローリー王女はまだ幼いが、ジュディスは才女だ。知性だけでなく美しさやその所作においても、貴族間だけでなく、国民からの人気も高い。既にここ数年は短慮で軽率な行動、言動の多いミシェルを廃嫡させようとする意見も多い。

 由緒正しい公爵家の出であるリーガンとの婚約は、その盾となるはずだった。にもかかわらず今回の愚行である。ミシェルの廃嫡は秒読み段階に入ったともいえる。ダミアンは嬉々として今回の詳細を語るだろう。王太子に特別な肩入れするでもない彼は、それでいて王太子の傍でこの学園生活を過ごしたのだ。リーガンの知らない、ミシェルの行動の多くを把握していることは想像に難くない。

 控室に入ったリーガンは、自分の荷物から杖を取り出した。学園生活の中、ずっと一緒にあった杖だ。ゲームの中でも、リーガンの武器は杖となっている。

 (もともと、この茶番が終わったらさっさと帰ろうと荷物を整理していたのよね。よかった、杖はこちらに合って。けれど、こうしてはいられないわ。あのパーティーの後に、墓場からゾンビが来ることになっている。あのボンクラはいいとしても、それ以外の生徒たちには何とか危険を知らせなきゃ)

 この先の展開を知る身としては、このまま黙って自分だけ安全圏に逃げる気にはなれない。

 「ダミアン、聞いてこの後パーティーが終わる頃……」

 その時、リーガンたちのいる控室の窓から、ガラスの割れる激しい音がした。

 「……え?」



 ここマルコス学園は、国中から魔力を持つ子供を集めた魔法学園だ。この国において、魔力を持つ子供は必ず学校に通い、うまくコントロールできるよう、正しい扱い方を学ばねばならない。それは国民の義務であり、貴族や王族とて例外ではない。

 マルコス学園は、中でも優秀な人材を集め、高度な技術を提供する国内有数の名門校であり、その性質上貴族の生徒も多い。だからこそ、王太子ミシェルも、公爵令嬢であるリーガンもここを選んだのだ。

 学園は国の先端にある、広大な湖に浮かぶ小さな島にひっそりと建てられている。小さな島といえども学園一つを余裕で収容した広大な広さを持つ。学園と本土を渡る手段は、小舟か中央にある大きな跳ね橋を渡ることだけだ。渡ってしまえば。そこにはにぎやかな街があり、生徒たちは放課後や休日にその街を利用できる。

 閉ざされているというには無理がある、だが、少しだけ隔離された土地。それがマルコス学園だ。

 跳ね橋は普段上げられており、降ろすためには巨大なレバーを二つ同時に動かさなければいけないが、それが置かれている小部屋は施錠されている。このおかげで悲劇は学園内のみになったわけだが、同時に学園の生徒のほとんどが犠牲になる羽目になった。

 生存ルートとしては、翌日にやってくる救助用の気球に見つけてもらうか、湖のはずれにある小さな小舟で湖を渡り切るか、隠し通路である地下通路を使って本土に戻るか。その三つである。

 そのうちの二番目と三番目は脱出ルートを見つけたものだが、一番目のは、夜明けまでなんとか生き残らなければならない。救助が来るのは陽が昇ってからなのだから。

 そんな学園に通う子女は皆、前述のとおり魔力を持っている。だからこそRPGであるわけなのだが。

 魔力持ちはそれぞれ属性がついており、基本は火、水、土、風の四属性だ。属性は必ず一つであるのだが、それらの「掛け合わせ」で、新たな属性を生み出すことができる。

 それがアクションホラーRPG「ROLE」の目玉システムだ。基本このゲームはバディシステムと呼ばれるコンビプレイで、プレイヤーとパートナーでゲームを進めてゆく。途中別行動したり、一時的に他のコンビとパートナーを交換するイベントなどもあるが、基本は決まった二人だ。

 主人公と、一緒に戦うパートナー。ちなみに、リーガンの元婚約者のミシェルは主人公ではないし、主人公のパートナーでもない。

 これが乙女ゲームならメインヒーローを務められていただろうが、これはホラーゲームなのだ。乙女ゲームならヒロインであっただろうエスターも違う。ただし、彼女は第一主人公のパートナーとなっている。

 作中主人公は三人おり、それぞれ別のルートでゲームを進めている。それ以外は、王太子も公爵令嬢も、王太子についている宰相の息子も、騎士団長の息子も、みな等しくモブなのだ。リーガンなど、リメイクされるまで名前もなかった。その存在が語られたのは、ゲーム発売からいくらか経ってからの制作者インタビュー記事である。

 「Q 第一主人公のパートナーであるエスターはかなりかわいい外見をしていますが、彼女に恋人はいたんでしょうか?」

 「A 恋人というか、彼女に恋する男子生徒はいました。相手はこの国の王太子です。彼は婚約者である公爵令嬢にエスターの前で婚約破棄をして、エスターを手に入れようとしていました。容量のせいでエピソードは語られなかったですけど」


 そんなどうでもいい、容量不足でお蔵入りした設定のせいで、リーガンはあんな恥をかいたわけだ。

 しかし、そのインタビューでファンの中から「その公爵令嬢がかわいそう」という声が上がった。リメイク版を作るにあたり、大幅なキャラクターの増員が決定し、製作者はこのエピソードをさらに膨らませ、かわいそうと言われた公爵令嬢もプレイキャラの一人に格上げしたのだ。

 

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