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ホラーゲームですから!  作者: うばたま
第二章 男爵令嬢は慄きながら戦う
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 校舎の玄関扉を開ければ、そこには巨大な跳ね橋がある。その跳ね橋は夜には上げられているが、昼間は下げられていて、誰もが渡れる仕組みになっている。今日は卒業パーティーだったため、警備が手薄になる故に、跳ね橋は上げられていた。それが悲劇を生んだ。

 本土から跳ね橋のすぐ傍には、こじんまりとした小屋がある。その小屋に、跳ね橋を上げ下ろしするための巨大なレバーがあるのだ。

 「おかしい……。あの管理小屋、入り口のドアが開けられていないように見える。跳ね橋は未だ上げられたままだ。なぜ、誰もあの小屋に入らなかったんだ」

 控室の窓から覗きつつ、フレディが言った。嫌な予感がひしひしと感じられた。跳ね橋が上がっていないのは、誰もレバーを引いていないからだ。レバーを引くには、あの小屋に入るしかないのに、ドアが開けられていないということは、あの小屋は鍵がかかっていて、誰も入れなかったからだろう。


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 「ああ、なんてことだ」

 見知った顔まであるのをカーテンの陰から認め、フレディはうめいた。戦っているうちは、極力考えないようにしていた。戦闘において、無駄な思考は命取りになりかねない。ひとたび武器をとれば、一心不乱に目の前の敵を倒すことに集中する。それはもう、長い年月で培われた彼の防衛本能のようなものだ。

 しかし、今のように武器を持たない状況で、級友たちの悲惨な末路を知ってしまえば、あの中に突っ込もうという勇気が湧かない。

 「あの小屋、いつもなら空いているはずよ。管理人さんが必ず中で待機しているはずだもの」

 エスターは、不愛想ながらも、あの狭い空間に必ずいる管理人の男を思い出していた。

 彼は常に顔をしかめているように見える(おそらくは、それが通常仕様なのだろう)恐ろしげな顔をしていたが、寡黙で真面目な男だった。彼には妻がいた。割と美人なのだが、大きすぎる目は常にぎょろりとして、何とも言い難い雰囲気を醸し出していた。この、妙にインパクトのあるご面相の夫婦は、今日の様に跳ね橋を上げている間は、常にどちらかがあの小屋の中でレバーの番をしていた。橋を渡る際には、あの小屋に行き、頼めばいいのだ。尤も、生徒だけの場合は、教師の許可証が必要だったが。

 「あの管理人夫婦が鍵をかけてどこかへ行った……?」

 「あるいは、誰かがあの夫婦をあの小屋から遠ざけた、とか。何にせよ作為的なものを感じるな」

 死霊魔術師(ネクロマンサー)といい、この件といい、確実にこの学園の関係者全員を殺しにかかっている。

 「一つわかったことは、これでこの島から脱出するのが困難になったってだけ、か」

 「救助の要請は?どうにかして知らせられないのかな」

 「たぶんだけど」

 顎に手をやりながら、フレッドが言った。

 「確かじゃないけど、おそらく知らせは行っていると思う。確証はないけど」

 「どういうこと?」

 エスターの問いに、答えていいものか、フレディは逡巡するが、やがて口を開いた。

 「王太子の護衛だよ」

 「護衛はフレディとアッシュでしょ?」

 「いや、俺たちは護衛とは表向きで、ほとんどが友人兼目付け役だ。これは殿下もご存知ないのだが、殿下の護衛は他にいる。いくら俺とアッシュが腕に覚えがあると言っても、所詮は騎士見習いの未熟者だ。的確に状況を判断できるわけでもなし、何かあった時に責任を負える立場でもない」

 フレディの言葉に、エスターとアナベルは顔を見合わせた。確かに彼らはまだ十八で、学生だ。学業と任務の両立ができるかと問われれば、難しいと言えるだろう。

 「学生という立場上、常に殿下の身を守ることに専念できるわけでもないしな。しかし、大人が学園内でおおっぴらに、四六時中殿下の傍にいるわけにもいかない。だから秘密裏にやっているはずだ。俺たちは対外的な護衛であって、確かに殿下の身は守るが、殿下に何かあった時に、最終的に責任をとる立場ではない」

 人を斬ったこともない二人が、いざとなった時に躊躇しないなんて保証はどこにもない。フレディ自身も、その自信はない。何しろゾンビ化したかつての級友を斬る覚悟すらないのだから。

 「じゃあ、もっと偉い立場の人が殿下の傍にいるわけ?」

 「ああ。おそらくは騎士団の隠密を担当する部署の誰かと思う。ある程度の予想はつくけど、俺もアッシュも、誰かは教わっていない。気配を完璧に消しておられるので、俺たちもわかっていないんだ」

 これは、自分たちがまだ未熟であるということでもあるのだろう。フレッドは唇を噛み、若干悔しそうだ。

 「殿下の護衛なら、王家御用達の伝書鳩を何羽も預かっているはずだ。おそらく、あの婚約破棄も、この事態も、報告のため伝書鳩を飛ばしたはずだ。ただ、時間がどれくらいかかるかはちょっとわからないなあ」

 「……その人、フレディ様達よりお強いのでしょう?なら、この状況なのに何もなさらないの?」

 黙って聞いていたアナベルが口を開いた。エスターとしても、アナベルの意見に納得だ。このクソみたいな状況下で、なぜ何もしないのか。

 「あ、いや、たぶん今も殿下の近くにおられると思うぞ。俺とアッシュで対処できるうちは、現れないと思うな」

 「そうじゃなくて!私たちだってこんなに困ってるんだけど!そんなに強いなら、何で協力して、あのゾンビなり、幼体なり倒してくれないのかってこと!」

 エスターが苛立ったように地団太を踏んだ。

 「ああ、それは無理だ。隠密班は……まあ俺もほとんど知らないのだが、基本命令されたことしかしない。してはいけない()()()なのだそうだ。この場合は殿下の護衛か。たぶん、そのことだけに集中させるからなんだと思う」

 「要するに、融通の利かない役立たずってこと」

 「まあ、そうかもしれないけど、それでも、この状況をいち早く知らせてるかもしれないから……」

 エスターを宥めつつ、フレディは、騎士団の中にいる隠密班の面子を思い浮かべた。秘密の多い部署だ。見習いであるフレディは、まだ全員を知っているわけではないし、具体的に何をしているかも知らない。しかし、こうも気配を感じさせない相手となると、何となく想像はつくのだった。

 (あの人がもし、エスターの言うように協力してくれたら、少しは希望が見えるんだけどな……)

 しかし、今は淡い期待に縋る時ではない。跳ね橋が使えない以上、小屋の鍵を見つけるか、別の逃走経路を見つけなくてはいけない。行方の分からないリーガンとダミアンとも合流しなくてはいけない。あの逃げだした幼体を早く倒さないといけない。王太子を守りつつ、ここから脱出しなくてはいけない。

 抱える問題は山積みだった。

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