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ホラーゲームですから!  作者: うばたま
第二章 男爵令嬢は慄きながら戦う
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 パニックになる生徒たちを見ながら、フレッドとアッシュは一応主君でいるミシェルを守るように囲んだ。このままでは、人の流れに呑まれてミシェルと離れることになってしまう。

 「くそ!早く僕たちも外に出るのだ!」

 「いえ殿下!今は外の方が危ないです。あの幼体は外に出ました。むしろここの方が安全です」

 アッシュは、先ほどあの蛇のような幼体が、蠢きながら天井を伝って外に出るのを確かに見たのだ。奴がいつ成体になるかわからない。が、こういうのは最悪のタイミングでなると相場は決まっている。

 「しかし、外に出てこの島から脱出しないと」

 フレッドがぼそりと呟いた。島から外に出るには、基本的にあの本土と繋ぐ跳ね橋を渡るしかない。

 (仮にもし、あの跳ね橋を使ってあの化け物が本土に渡ったら……?)

 浮かんだその考えに、アッシュは背筋を冷たい汗が伝うのを感じた。跳ね橋の先は、普通の街がある。この大きな、少し裕福な生徒が多い学園が傍にあるせいで、それなりに賑わっている、人口の多い街。

 その街の先には大きな街道があって、田園が広がって、その先には王都が――。

 「……何とか、あの逃げた幼体を捕まえないと」

 しかし、彼の主君がそれを許してくれそうもない。あの幼体を倒しに行くということは、すなわちミシェルから離れることである。あの惨事を見たミシェルが、腕の立つアッシュを離すことはするまい。

 その時、外から再び甲高い悲鳴が聞こえた。

 「くそ!今度は何だ!?」

 フレッドがアッシュに目配せし、玄関に走った。悲鳴は止まらない。それどころか、あちこちから次々に聞こえてくる。

 「な、何だあれは!?」

 フレッドが目にしたのは、血まみれで白濁した目を持つ、しかし人間の形をしたものが、学生にかぶりついているところだった。

 「あ、あれは……ゾンビ!?」

 フレッドはあの幼体の姿を思い出した。あれは禁じられた魔法によって生み出された、忌むべき魔物だ。あんな魔法が使えるのなら、死体を意のままに扱うという、死霊魔術師(ネクロマンサー)である可能性が高い。

 「ということは……あのゾンビは、生徒の誰かか!?」

 「そうです、フレディ様」

 突如かけられた女の声に、フレッドはぎょっとして振り返った。剣の柄を握る手に思わず力がこもる。

 「お前は……確か、アナベル・ウォーリス?」

 そこにいたのは、フレッドと同じ土魔法の授業をとっていたアナベル・ウォーリスだった。彼女はパーティーの夜だというのに着飾ることはせず、普段着用の白いワンピースを着ている。その手には、陶器製の人形があった。

 ただの人形ではない。あの人形は魔力媒体だ。

 魔法を使う者は、コントロール調整や威力などを補うために、何かしらの媒体を使うことがある。その媒体を通して魔素から魔法を構築するのだ。その道具は、杖だったり、装飾品だったりと多種多様だ。要は、魔力のこもりやすい物なら何でもいいのだ。

 リーガンは杖だし、ダミアンとアッシュは剣だ。フレッドも剣と言いたいところだが、なぜか彼は昔から籠手なのだ。彼の家にあったその籠手、そこに使われている宝石と彼の魔力はやたらと相性が良く、結局彼はその籠手を使って魔法を使うことが多い。

 最近では、その籠手を少し改良して小さな刃を付けることに成功した。鉤爪としてもつかえるそれは、実は剣術より体術の方が得意な彼には最適な武器となっている。

 そして、アナベルの魔法媒体は、このどこか不気味な人形なのだ。

 「あちらの中庭にゾンビが何体か出ました。中には、バブ化したものまで一体。私はそれを知らせるためにここに来たのですが……こちらでも何かあったようですね」

 アナベルは少しだけ息が上がっていた。ゾンビを見たということは、戦闘を経たということだろうか。その中で、彼女はみんなに知らせるためにここまで危険を冒してきたのだ。

 (やるじゃないか。感情のない、人形のような女だと思っていたのに)

 内心アナベルへの評価を上げながら、フレッドは彼女の手を引いてホールに戻った。外にゾンビまでいるとなれば、今はここが一番安全だ。どうにかして外の魔物は倒さなくてはいけないが、ひとまずアナベルを安全な場所に置いてやるのが先だ。

 「フレディ様。あっちにリーガン様とダミアン様、そして、チャールズ・リーレイ・グッドガイが」

 「リーガン嬢が!」

 フレッドの精悍な頬が、キュッと緊張した。リーガン嬢は公爵令嬢だ。それも、理不尽な王太子の愚策の犠牲者でもある。そして、正確には、王太子と彼女の婚約は未だ有効なのだ。なにしろ、お互いが同意しただけで、王家はこの事実を知りもしないのだから。

 つまり、フレッドには彼女を守る義務がある。

 「そうだ!」

 フレッドの唇が、自然と笑いの形に歪んだ。この状況下であのミシェルが自分を手離さないのはわかっていたが、これはいい口実だ。勿論、リーガンを探し、守ることは最優先事項ではあるが、何とかあの幼体、そしてゾンビは倒さなくてはならないのだ。

 「アッシュ!」

 フレッドは叫び、アッシュを見た。アッシュは、ミシェルとエスターを守るように剣を構え、辺りを注意深く睨みつけている。

 「どうした?」

 フレッドがアナベルの手を引いてこちらに向かうのを見て、アッシュは少しだけ緊張を解いた。

 「外にはあの幼体だけでなくゾンビもいるそうだ。そして、リーガン嬢とダミアンもまだ見つかっていない。俺は、リーガン様を助けに行く」

 「はあ!?何を言っておる。リーガンなどどうでもよいわ」

 ミシェルが横から口を挟んだが、フレッドは敢えてそれを無視した。

 「リーガン様はまだ王太子の正式な婚約者だ。俺たちには、王太子と同じく彼女の身も守る義務がある」

 その言葉に、アッシュもニヤリと笑い、強く頷いた。

 「私も行く!」

 さらに何か言おうとするミシェルを押しのけ、エスターが前に進み出た。

 「あの幼体は物理攻撃より魔法の方が絶対いい。それに、ゾンビがいるなら水の魔法があった方が絶対いい。私は浄化が使えるからね」

 ゾンビに噛まれた者はゾンビになる。だが、ゾンビ化する前に患部の傷、おそらくゾンビになる何かしらの要因があるその部分に浄化の魔法をかければ、ゾンビ化を防ぐことができるのだ。

 「エスター!」

 ミシェルが彼女の腕を掴んだが、ミシェルはその手を振りほどいた。

 「ここで縮こまってるなんて、性に合わないのよね。というか、何となくそれは私のキャラじゃない気がする」

 何でだろう、とエスターは小さく呟いた。

 彼女は、自分が、遠い遠い、日本という国で作られたゲーム「ROLE」の中で、数々の魔物と戦い、見事脱出する事実を知らない。が、奇しくも同じ行動に出ようとしていた。

 

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