1話 奴隷少年と傭兵と
初投稿です。色々と至らない点もあると思いますが、よろしくお願いします。
僕は運がない。いやほんと、つくづくそう思う。
いきなり愚痴かよと思われるかもしれないが、この状況を見たらきっと同情してくれるはずだ。
手足につけられたジャラジャラと音を立てる鎖。
「おい、とっとと歩け!」
声を張り上げる商人。この人の商品は僕たちだ。
イエーイ僕の名前はエレイン12歳職業は奴隷だよ!・・・・・・はぁ。
こんないたいけな子供が奴隷だなんてこの国終わってるんじゃないかな。
10人くらいの年齢もおそらく出身国もバラバラな人たちが両手の鎖を一本の長い鎖につなげられて王都の下町を引かれていく。服は簡素な布一枚。目も虚ろ気で、僕みたいに文句ばっか言ってる元気な奴は数人しかいない。(まだいるのがちょっとした驚き。他人のこと言えないけど。)
「君がそんなに元気なのは、まだ君に生き残る機会が残されているからだろう・・・」
隣を歩いていた屈強そうなおじさんがかすれた声で話しかけてきた。僕に関係のあることなら何でも知っておくべきだろう。意識して片眉を上げながら会話を続ける。
「へぇおじさんにはもうないの?その機会っていうやつが。」
「ここにいる者のほとんどはこの前の戦争の捕虜だ。君みたいな通常の理由でこうなったやつはほとんどいない。」
奴隷に通常の理由とかなさそうに思うが、そこは個人の主観だろう。まあここには僕みたいなしょーもない理由でこんな身分に落とされた人はいないっていうことなのだ。皆さん高尚な意思を持って薄汚れた路地裏を行進していらっしゃるわけで。
「おい、茶化すな。」
すごい!ばれてる。心の中でさりげなく皮肉をきかしただけなのに!
「君は思ったことが顔に出すぎるな・・・。俺が言いたかったのはそういうことではなくて戦争捕虜には強制労働の未来しかないが、君ならお貴族様の愛玩奴隷ぐらいにはなれるかもしれない、ということだったんだが・・・・・・」
「さあね。まあ旅はまだ始まったばかりなんだよ?今からうじうじ悩んでてもしょうがないじゃないか。」
それよりも、僕には気になることがある。正直言ってさっきちょっとふざけたのも、おじさんとの会話でわけのわからない箇所があったからだ。
「ねえ、おじさん戦争って、なんの話?」
「は・・・・・・」
は?
「は・・は・・・」
そうかーおじさん故郷のお母様のことを突然思い出して・・・・・・・
「はああああああああああああ!?」
あ、全然違った。
「そこ五月蠅いぞ!鞭うたれたいのか!?」
ごめんなさーい、奴隷商人さーん。この人ホームシックみたいでー。
「いや、君…まずこの大陸に7つの国があることはわかるだろうな?」
「北のミュルグンド王国、森におおわれているシュレナーゼ公国、砂漠の遊牧民の都ザッハータ、険しい山岳地帯にあるロゼッテ王国、広大な農耕地が広がるアリアティルド帝国、工業の盛んなパルラムント連合国、いくつもの島からなる南国シャンドラ王国…だっけ?」
昔の記憶を頼りにこの大陸に存在する国の名前を思い出す。記憶がおぼろげなのは勘弁してほしい。正直僕にこの記憶が必要だったのは過ぎた過去の話だし、ただの平民は国名がなんと変わろうと、上に座するものが入れ替わろうと、大して気にはしないものだ。
誰が上になろうと日々の暮らしが苦しいことに変わりはないのだから。
「それだけ覚えていれば十分だろう。 この前の戦争というのはアリアティルドとパルラムントの間のものでな。アリアティルドの皇族に連なる者がパルラムントの部族長の婚礼に出席していたんだが、そこで反政府組織の若者に刺されてな。」
なるほど。また何とも裏のありそうな話だ。
「それで? おじさんはとてもじゃないけど、パルラムント人にもアリアティルド人にも見えないよ?」
「まぁ、俺はミュルグンドのものだ。わが国は貧しくてな。 傭兵でもしなきゃ冬は生きていけない。」
そう言う彼の髪は、北のミュルグンド人とロゼッテ人の特徴である金色をしていた。
「そう言う君の髪は・・・・黒か・・・すまん。」
僕の肩まである髪は、濡羽色をしている。
少し自分の髪を手ですいてから 僕はおじさんに微笑みかける。
「いい色でしょ?気に入ってるんだ」
おじさんが目を見開いたのが分かった。
それからも僕たちは、淡々と街の中を歩き続けた。
この、アリアティルドの首都マルグルは、もともと焼き物の技術が発達していた民族が暮らしていた土地であり、今でも彼らの残した美しい煉瓦の街並みが名物となっている。
だが、それは、表通りの話しであり、僕たち奴隷が連れて来られた館は美しい、というよりも薄暗く陰鬱な雰囲気を持っていた。
「何だか怖い場所だね、おじさん。」
「奴隷となったこの身に、もう怖いものなどあるか。」
ふむ、やはり元傭兵のおじさんが奴隷に落ちることはとてもショックな事だったらしい。
僕がここを怖いと思ったのは、別の理由があるというか、すごく悪い予感がしたからなんだけど・・・
「ハアイ商品さんたち!快適に過ごしていただけているかしら!?」
ほら、思った通りだった。
そいつは金髪に褐色の肌のやけに目立つ見た目をした奴だった。
女言葉を使っているが、正真正銘の男である。
それに追い打ちをかけて、ガチムチに白のノースリーブと言う格好が更に違和感を倍増させる。
うわぁ、こいつとは関わりたくない・・・とそこにいる全員がそう思ったと思う。
いや、おじさんも若干引いてるし、心なしか青ざめているようにも見える。
まあ、おじさん堅物っぽいもんね。
「アイツはなんなんだ・・・」
「多分奴隷商人の1人だね。」
「あれがか?」
「僕たちのことを商品扱いしてたし、こんな所にいる奴なんてそういう汚い職業の人だけさ。」
「まぁ、なんのお話かしら?ワタシはあなた方に喋る権利を与えた記憶は無いのだけど?」
うわ、突然オカマ商人が話に乱入してきた。
香水の匂いがキツイしホントにやめて欲しいんだけどな・・・
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俺は、人生に絶望していた。
小さい頃から褒められるのは武術のことばかりで、いつしかそれが職業になった。
別に嫌だったわけでは無い。
俺の生まれ育った国では、寒すぎるせいか、それとも土地が痩せているのか、あまり作物が育たない。
それにもかかわらず、領主達は好戦的で、軍事費の為に税をふっかけていた。
まったく、他の国は産業を盛んにして、国力を高めているというのに、この国ときたら内戦ばかりだ。
そんな環境だったから、殆どの男は春から秋にかけて農作業に励み、冬は傭兵として働いていた。
だから、俺が傭兵一本で稼いでいく、ということを伝えたとき、大多数の人が喜んだのも無理はなかった。
農業で作物を育てるよりも、傭兵として功を挙げた方が、はるかに効率が良かったからだ。
でも、傭兵になったのは間違いだというほかなかった。
軽い気持ちで参加したパルラムントのアリアティルド殲滅作戦は、大失敗に終わった。
俺たち傭兵部隊は殆どが殺されたが、ミュルグンド人とシャンドラ人のハーフだった俺は、珍しい金色の瞳のせいで生き残った。
そうだ、絶望していたんだ。あの時、あの少年が生きる意味を与えてくれるまで。




