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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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3-17話 フレイヴの森探検隊1


 リカルドとプランがフレイヴ領に滞在し、詳しく調査をはじめててから数日が経過した。

 視察にも似たその情報調査は文官の仕事に近く、二人にとって確かに苦手分野で四苦八苦しながらもがんばった、

 その結果――この領がとてもおかしいという事実が判明した。

 元から知っていた事でもあった……。


 まず、領主であるラステッド・フレイヴ。

 父と母がおらず、なにやら複雑な事情があるらしい。

 ただ、その辺りは村人も触れなかったしプラン達にも触れさせようとしなかった。

 ついでに言えば詳しく知る気もおきなかった。


 続いて武官兼文官という無茶な職業である官吏の二人、アルトとアイアン。

 アイアンは外部から最近来た人材らしい。

 領地運営にかかわる人物は以上である。


 ……。


 …………そう、この領には侍女は当然として兵士が一人たりともいないのだ。

 そして恐ろしい事に、兵士が一人もいないにもかかわらず、何の問題もない。

 その理由も、プランが必死に調べ上げた。


 村人の数は八十五名。

 その内三十代以内は三十五名。

 多少高齢化は進んでるが特に問題なく、皆恐ろしいほどに健康的だった。

 ちなみに飼育している動物は野良と見分けが付かないので数える事が出来ない。

 大きな鶏ことコケトリスは十羽? 十匹? 十頭? くらいはいた。


 村人たちの身体能力はかなりすさまじいものだった。

 どのくらいかと言えば、村人が三人から五人程度いれば余裕でコケトリスを捕縛出来るくらいである。

 戦闘訓練を積んでいないのでリフレスト兵士と比べたら流石に兵士に軍配が上がるものの、身体能力と森に特化した能力は比べる事が出来ないほどフレイヴ領の村人は優れていた。

 具体的に言えば、子供含めて村人全員が、身じろぎ一つせず瞬き一つせずに最低一時間は森に隠れたまま獲物を待ち続ける事が出来るほどだ。

 もはや完全にゲリラ兵のソレである。


 要するに、兵士がいない理由は村人がこうだからだ。

 しかも子供を除いた全員が、領または主君の為に命を惜しまずに決死の覚悟での行動をたやすく行える覚悟を持っていた。

 兵士がいないというよりは、村人全員が兵士であると言った方が正しいだろう。




 こんな報告を、プランとリカルドは自領の事を良く知らないラステッドとアルト、アイアンに説明した。

 ようするに、遠回しなお前らおかしいんだよ宣言である。

 それを聞いたラステッドはゲラゲラと笑いながら言葉を紡いだ。

「無茶苦茶だなウチ。あはは! おもしれー!」

 そう言葉にするラステッドこそが、この領で一番無茶苦茶な存在である為リカルドは眉をひそめた。


 村人と同じように、官吏二人も動物には強いが対人は非常に弱かった。

 魔法を抜いた手加減リカルドに官吏が二人がかりで十回挑んでも一本も勝てないくらいである。

 そして文官能力は……残念ながら極めて低いと言わざるをえなかった。

 これはただでさえ低能力である事に加え、普段から文官の仕事をほとんどしていない事も理由の一つである。

 要するに、文官が領地運営するという当たり前がフレイヴ領では消滅しており、領制度が完全に崩壊しているのだ。


 そしてこの領内で一番おかしい存在、ラステッド・フレイヴ。

 考え方とスタンスはプランに良く似ており、運動神経や料理、気配りなどの能力に長けているが文官的な能力並びに領主としての運営能力が致命的に欠如した存在。

 そんなラステッドのとんでもなくおかしい部分の一つ、それは戦闘能力だった。


 リカルドは武官に匹敵する程度には戦闘に自信がある。

 リオの目線で計った場合、魔法抜きでも一般的な武官よりも強く、魔法を入れたなら上位に位置するくらいだ。

 そんなリカルドが魔法有りの本気状態で戦っても、ラステッドは十回中八回は勝利をもぎ取っていた。

 戦闘訓練は受けておらず、ただ身体能力を使ったごり押し。

 それでも、ラステッドはリカルドよりもはるかに強かった。

 しかも、彼の特技は馬術である為馬に乗った場合更に強くなると予想される。

 それはどう考えても領主の能力ではない……のだが、ブラウン子爵というイレギュラーな存在もいる為案外普通の事なのかもしれないとリカルドは考えた。


「プランちゃんはラストと似てるけど、そこは違うね」

 リカルドのプランは首を傾げた。

「どこ?」

「武力。ラストはなんかやたら強いけどプランちゃんは戦えないじゃん」

 そうリカルドが言うと、何故かプランは少し嬉しそうにはにかんだ。

「そうね。でも戦える方が良いでしょ。私は戦えないけど」

「まあ仕方ない事だよ」

 リカルドの慰めに、プランは素直に頷き、えへへと小さく笑った。




 そんな意味のわからない内容を紙に全て書き写し、ついでに二人が体験した事をまとめた日誌を付けて報告書として封筒に詰めた後プランはリカルドに手渡した。

「はい。それじゃお願いね?」

 プランの言葉にリカルドは頷き、外に走り出そうとしたところでラステッドがリカルドを引き留める。

「ちょ、ちょっと待てって! 護衛が領主一人残して出たらダメだろ!」

 珍しく常識的な内容にプランは苦笑を浮かべる事しか出来なかった。


「そうだけど、誰かが届けないといけないから」

 フレイブ領は余りに秘境の地過ぎて特別な事情がない限り、どの宅配業者も来てくれない。

 そもそも、ここに訪れる人自体国家の指令を伝える配達人と、この領と取引をする旨味をしっている一部の商業人だけである。


 その為この報告書も、リフレスト領まで行かなければ配送してもらえなかった。

「いやいや。他の人に頼もうぜ」

「……例えば誰に?」

 プランの言葉に、ラステッドはドヤ顔で自分を指差した。

「……どこの世界に他所の領主を足としてこき使う人がいるのよ」

「世界初になろうぜ?」

 何故か自信満々にラステッドはそう切り返した。

 うまい事を言ったつもりなのだろう、さきほどよりもドヤ顔は激しくなっていた。


「……では、私が貴方に配送を任せるメリットはあるでしょうか?」

 プランが面接風に尋ねると、ラステッドは手を挙げて答えた。

「はい! 俺なら三日あればリフレストまで行けます」

「……まじで?」

「まじまじ」

 行きで味わった山あり谷ありの地獄のような道でも、ラステッドは一人で馬に乗りサクサクと進行することが出来る。

 それはもはや人ならざるほどの才能で、神に愛されたと呼べるほどの能力だった。


「……うーん。でもなぁ……」

 悩むプランにラステッドは悪魔の一手を呟いた。

「こういう書類って、早い方が良いんだろ?」

 そう言われたら否定する部分はどこにもなく、プランは力なく頷いた。

「そうね。嫌な世界初になってしまいましょう」

 そうプランが呟いたと同時に、リカルドはラステッドに書類を預けた。


「任せた」

「おう。任された」

 リカルドの言葉にそれだけ返し、ラステッドは馬に乗って走り抜けていった。

「……あいつ……。食料も飲み物も着替えも持たずに行ったぞ」

「領主って何だっけ?」

 プランの呟きにリカルドは何も言えず黙ったままニコニコとしたままプランの方を見ていた。




 そして一週間という時間が過ぎた頃に、ラステッドは戻ってきた。

 ヨルンからの返信を持って――。


「え? 何でもう返事来てるの?」

 ラステッドから手紙を渡され混乱しながらプランはそう尋ねた。

「え? いやこっちに連絡するの大変だろうから返事を受け取ってきたけど。何かまずかった?」

「いやまずくはないけど……一体どゆこと? リフレストから配達を頼んで、返事を受け取って戻ってきたの?」

 プランの言葉にラステッドは首を横に振った。

「いんや。せっかくだから直接ブラウン子爵のところに行ってから事情を話して返事を貰ってきた。いやマジで凄いなあの場所。メシも旨いし人も多いし動物ほとんどいないし何か建物沢山あるし。いやー凄かった」

 そう嬉しそうに語るラステッドの瞳は、キラキラと少年のように輝いていた。

「気持ちはわかる。確かにレタラの街は凄い」

 プランはそれにうんうんと何度も頷き同意を示した。


「んでさ、結局ラストは、一週間でレタラまで行って直接報告書を提出し、その足で戻ってきたって事か?」

 リカルドの言葉にラステッドはこくんと頷いた。

「……お前、領主じゃなければ中央所属の国家配送人になれるぞ。いや、なった後一財産稼げそうだ」

 リカルドの呟きにラステッドは何とも言えない苦い表情を浮かべる。

「その僅かでも良いから、領主としての才能が欲しかった」

「超わかるわ」

 プランが即座に同意し、二人は全く同じ表情――レモンをかじったような渋い表情をしてリカルドの方を向いた。

 その様子が妙に面白く、リカルドは小さく笑いながらプランの手元、手紙に指を差す。

「と、とりあえず読んでみようぜ」

 そう言われ、プランは元の表情に戻し手紙を開封した。




 住民がやたら元気なの→たぶん森のせい。

 動物が強いの→森のせい。

 食事がうまいの→森のせい。

 領主が強い理由→知らない。

 文官が微妙→人の事言える余裕ウチにはない。

 その他大体おかしい事→森のせい。


 結論:森を調べろ。それと賠償は請求するな。良い事を思いついた。


 短く雑多な文章だが、それは確かにヨルンの字だった。

 普段は丁寧が服を着ているような存在で当然手紙も堅苦しいのに、今回は敬語の要素どころか文章としてすら構築されてない。

 ヨルンが相当仕事に追い込まれているのだとプランは理解し、若干の同情を覚えた。


「んで、何て書いてあった? 聞いて良い事なら教えてくれ」

 ラステッドの言葉にプランは短く答える。

「んとね、森を調べろって。怪しいのは大体森のせいなんだって」

「なるほど。この領が発展していないのもいくら物売ってもウチに金がないのも俺が失恋したのも森のせいだったんだな」

「うん。そうだね」

 プランはどうでもよさそうにそう答えた。


「んじゃ、調査しようか」

 そんなリカルドの言葉にプランは頷く。

「そうね。指令を受けたし調べないと」


「俺も行って良い? ウチの領の事だしアルトとアイアンも連れて」

「あ。それは良いね。何があるかわからないし多い方が良いでしょ」

 そんなプランの同意により、ここにフレイヴ領の森探検隊が結成される事となった。



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