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7話 世知辛いのは皆同じ

 

 その日、いつもの巡回から帰ってきたハルトから緊急集合の知らせが届いた。

 ヨルン、プラン、リオは執務室でハルトを待った。

 全員揃って五分も掛からないうちに、廊下を走る足音が聞こえた。

 音の主はこちらに近づいてきて、ドアの前で立ち止まり、ノックもなしに乱暴にドアを開けて怒鳴る様に叫んだ。

「盗賊が出た!早く準備しろ!」

 プランとヨルンは驚愕の表情を浮かべる。そのまま、ヨルンは書類を何枚も用意しだした。

 その事態を重く見たリオは、皆に相談した。


「兵士はどうしますか?今日なら七人、この館の傍で今訓練中ですが」

 それにハルトが怒鳴る様に答える。

「怪我するかもしれないから無しだ!そもそも、少しでも早く対処したい!俺とリオ、お前の二人で馬に乗って対処に行くぞ!」

 その言葉にリオは頷いた。


 この時、リオは不謹慎だが、感動していた。

 騎士ハルトは、民の為にあそこまで熱意を持ち行動出来るのか。

 それはまさしく、物語の騎士の様でもあった。


「それで、発見した時の状況、相手の人数と、武装の状況はわかりますか?」

 ヨルンは、書類に何かを書きなぐりながら尋ねる。

「発見は大体三十分ほど前。領内の何も無い所に、ボロを来た集団が歩いているのを発見。わずかだけど武器を持っていた。人数は十三」

 ハルトの言葉を、ヨルンは正式に書類に残していく。

「わかりました。後は任せて、行ってきてください」


「待ってハルト。騎士リオは今回が最初の盗賊退治よ。ある程度情報を刷り合わせておいて」

 プランの言葉にハルトは止まり、リオの方を真剣な表情で向いていた。

「この領での盗賊を対処するのは初めてです。どの様に動けば良いか指示を下さい」

 それはリオの全面の信頼の証だった。それにハルトは答え、指示を出す。

「守って欲しいのは三つだけだ。殺すな。出来るだけ怪我させるな。縛る縄を忘れるな。よしいくぞ!」

 ハルトはリオの手を引っ張る様に連れ出した。


 何か違和感がある。部屋を離れる前に、リオはプランとヨルンの顔を見た。

 それは、確かに真剣な表情だ。だが、リオには目に金の字が浮いている様にも見えた。


 ハルトと馬で並走しながら、リオは詳しい事情を聞いた。

 曰く、盗賊退治はボーナスゲームの様な物。

 倒したら持っている物を全て合法的に奪える。

 更に相手次第では報酬も出る。

 盗賊を発見してからのチャートも、完全に準備されていた。

 発見した場合即座に領主に報告、そこから必要な書類を準備。そして捕縛して、書類をしかるべき場所に提出し、盗賊の全てを合法的に奪う。

 それを聞いたリオは気が抜け脱力し、同時にそうでもしないと財政が回らない世知辛い現実に、非常に悲しい気持ちになった。




 彼ら十三人は農奴だった。

 最初の畑の所有者は普通の人だった。

 普通に働いてたら飯が食えて。偶に酒も振舞われた。それで何の文句も無かった。


 だけど、畑の所有者が代替わりして、その生活は地獄に変わった。

 食事は二日に一回。ノルマは二倍。その上畑の所有者は人を殴るのが好きな屑だった。

 そんな日が数日続き、農奴達は我慢が出来なくなり、畑の野菜を生のままかじりついた。

 一人が食べだすと、その場にいる全員が同じ様に畑の野菜をむさぼりだした。

 芋も、人参も不味かった。不味いのに、その時は死ぬほど美味く感じた。

 そして我に返った彼らは、そのまま全員で逃げ出した。


 勝手に食べた農奴は処刑でも文句が言えない。

 だから、その場にいた十三人は、全員で逃げたのだ。

 逃げても暮らす方法など知らない。金も飯も無い。


 だから彼らは、馬車に乗っていた商人を襲った。

 僅かな金銭と食料、それに少しの武器を奪った。


 高価そうな物は取っていないし馬も人も怪我一つさせていない。

 それは優しさだからでは無い。ただ、怖かったからだ。

 怖く無い生活がしたい。誰も襲わず生きたい。

 だけど彼らは、他の生き方はわからない。

 彼らに一つだけ才能があった。それは弱者を見分ける才能だ。

 自分より弱い物から、わずかに物を奪い暮らす。そんなこそ泥よりもチンケな存在が彼らだ。


 そんな彼らの今の目的は、ファストラの村を襲うことだった。

 ほとんどの武官と兵士が死に、手が足りない領内の村に、種と農具が置いてある。

 彼らはそれに食いついた。うまくいけば、もう何も襲わずに暮らしていけるかもしれない。

 何回か商人を襲っても、種の一つも入手できなかった。

 だからこそ、種と農具を入手出来る最高のチャンスを、彼らは逃す気は無かった。


「それで、そのなんたらって村にはどのくらいで着くんだ?」

 男のうちの一人がそう尋ねると、別の一人が答える。

「俺が聞いた話だと、馬で一時間程度だから歩くと、十倍くらいじゃないか?」

 酷く適当な計算をしながら、彼らはゆっくりと歩く。

 広く、何も無い平原。木すらも無い為、隠れるところは一つも無いが、逆に言えば、何も無いから誰も来ないということでもあった。

 馬の車輪のあとすらないことから、交易ルートでも無い。だったら気付かれないだろう。

「俺さ、ここで種と畑奪ったら、もう何も奪わないで暮らすんだ」

 もう最後にしたい。それは全員同じ気持ちだった。

「俺、一回自分の作った作物で料理してみたかったんだ」

「いいじゃねーか。なら俺はそれを売って金に換えようか」

 彼らは夢を語り合った。

 重たい罪悪感。生活の恐怖。それらから開放されると信じ、一歩ずつ歩を進める。


 そこに、悪魔が現れた。


 遠くから聞こえる馬の音。それはこちらに迫ってきている。

 対処する方法は無く、持っている棍棒やボロの剣を構える盗賊達。

 足は震え、顔は青ざめ、とても戦える状況では無いし、そもそも彼らは全員、一度たりとも戦ったことが無い。

 逃げることを考えるが、馬の足より早く走れるわけが無い。


 ぷるぷる震える子鹿の様な自分達の前に、二頭の馬が到着した。

 一人は騎士の様な、礼儀正しそうな男が乗っていた。なにやら難しい顔をしている。

 もう一人は悪魔の様な風貌だった。

 その鋭い目つきで睨みつけながらこちらを威圧してくる。

「選べ。素直に捕まるか、ボコボコにされて捕まるか」

 その威圧感は普通では無かった。五十メートルは離れているのに、怯えて体がすくむ。

 恐ろしい風貌、威圧的な態度。その人物こそが自分達の死神だと理解した。


 悪いことをした自分達の最後を狩る人物。だからだろう。その男の後ろに、恐ろしい悪魔が一瞬見えた。

 元から震えて戦うどころではない精神状況の自分達は、最後の心まで折られ、泣きながら武器を手放した。

「せめて、苦しまずにお願いします」

 盗賊達は、しばらくの間その言葉を延々と繰り返した。





 数時間後、武官二人は、無事盗賊を無傷で捕縛して帰ってきた。

「偉い!最高!欲を言えばもう少し金持ちの盗賊だったら良かったけどね」

 プランは武官二人の肩を叩きながらそう言った。

 持っていたのは木の棍棒二本に質の悪い鉄の剣一本。それと僅かな硬貨だった。

「なあプラン。俺の顔って、そんなに怖いか?」

 ハルトの質問に、プランは満面の笑みを浮かべながら頷いた。

 ハルトはとぼとぼと自分の部屋に帰って行った。


「領主様。その……盗賊達って、この後どうするのですか?」

 リオはそう尋ねずにはいられなかった。

 事情を聞き、その上で最後にあの怯えよう。同情しない要素が無い。

「うんとね。とりあえず書類が相手に届くまで屋敷周辺の兵士達に任せて、何の問題も無ければ子爵様に預けるよ」

「預けた後は……どうなるのでしょうか?」

 プランは考えながら答える。

「うーん。嘘ついてなくて、本当にあれだけの罪状だったら、半年位農奴になった後自由の身だね」

 リオは安堵のため息を出した。思った以上に罪がゆるい。緩すぎて大丈夫か心配になる位だ。


「そんなわけで、この書類を、ブラウン子爵の所に届けてくれない?」

 プランから封蝋された手紙を受け取り、リオは跪いた。

「その命令しかと受け取りました。渡すのはブラウン子爵様ですか?」

「んーん。忙しい人だから会えないと思うし、メイドで良いよ」

「かしこまりました」

 それだけ言って、リオは丁寧に礼をし、部屋を去った。


 そのまま馬に乗って、リフレスト領からまっすぐ南に、車輪の痕を追う。

 まっすぐ馬で走り、夜は馬の上で仮眠を取り、早朝から移動し朝になった位に、目的の場所に到着した。大体十時間位走っただろうか。


 海沿いにある漁業都市。ブラウン領最大の都市レタラ。

 人口数千人はいるであろう町の規模に、活気付いた商業地区。ここからでも見える多くの漁船。

 その都市の中でも、一際大きな建物があった。

 それが、今回の目的のブラウン子爵の館だった。

 その門番に自分の所属を説明し、手紙を渡して、そのままリオはリフレスト領の館に戻った。


 思った以上にあっけなく終わり、リオはプランに相談した。

「あの。子爵様にも会ってませんし、手紙の返事も貰ってないのですが、良かったのですか?」

 プランは頷いた。

「うん。あの手紙を読んで、ブラウン子爵様が盗賊のことを調べ、問題が無ければこちらに引き取りにくるから大丈夫だよ?」

「そうですか。問題無いなら良いのですが……」

 その言葉に、プランは小さく「あ」と呟いた。

「やはり何か問題がありましたか!?」

 心配なリオは慌ててそう尋ねるが、プランは首を横に振った。

「いやいや。せっかくレタラに行ったのだから何かお土産でも買ってきてもらったら良かったかなと思って」

「ああ。はい。次行く時は何か買ってきます」

 リオは何だか力が抜けてきた。


 盗賊達は特に問題は無かったらしく、その翌日にブラウン領の兵士達が盗賊達を引き取りに来た。

 ブラウン領とはそれなりに交流があり、お互いに兵士が通っても何の問題も無い。

 同じ国の領内と言えども、ここまで気軽な状況は普通では無い。

 最初リオは敵襲かと思ったくらいだ。リオは自分の常識との違いに葛藤した。


「ところで、領主様、今回の盗賊はほとんど何も持ってませんでしたね」

 盗賊達を引き渡した後の見送りの中で、リオはそう尋ねた。

「そうだね。一応剣だったから、ハルトの装備にはなったけど」

「この領内に来る盗賊って、もしかして大体あんな感じですか?」

「そうだよ。ほとんどが悪人じゃなくて、ただの食いはぐれだね」

「それで、どうしてあんなに盗賊退治に熱心だったのですか?あれなら畑耕した方がまだ稼げませんか?」

 リオの質問に、プランは悪い笑顔を浮かべながら答えた。

「ブラウン子爵はうちの直接の上役で、そして万年人手不足なの。国から犯罪者の扱い任せられるくらいね」

 そう言いながら、プランはさきほど受け取った金貨袋を見せた。


「色々と、勉強になりました……」

 リオは、非常に疲れた様な表情を浮かべていた。




ありがとうございました。


そろそろ展開を加速した方がいいかな(´・ω・`)

それとももう少しまったりした方が良いのかな(´・ω・`)


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