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6話 歩み始めた第一歩

読んで下さりありがとうございます。

やりたいことは多いのですが、なかなか先に進みません。

チュートリアルと思ってイベント発生までもう暫くお待ち下さい。



 


 さっそくリオは、兵士十五人に指導を始めた。

 十五人の内、十人は半農民だ。村に住んでいて、基本的に畑を耕して暮らしている。だから余り時間が無い。

 残り五人は、館周辺で暮らしている。村暮らしほどでは無いが、自分達の生活もある為そこまで兵士としての時間が取れない。

 軍部でフルに働いているのは、武官であるハルトとリオだけだった。


 そのリオは、十五人をどう鍛えようか考える。とりあえず適性を調べたら、経験があるからなかなかに優秀な結果とも言えた。

 まず、半農民の十人は畑仕事に適性がある。ちょっとした知識を教えるだけで、効率が三割は上げられるだろう。

 そして、館周辺に住んでいる兵士は、優秀なサバイバル適性があった。普段どうやって生きているか。何となくわかるのが悲しかった。


 リオは悩んだ。誰一人、戦闘関連での適性を持っていなかったからだ。一人でも指揮が使えたら兵士長に任命し、兵士達をうまく纏めることが出来るのだが。

 だからと言って、何もしないわけにはいかない。リオは、兵士を指導する様、領主に直接命令されたのだ。

 己の忠義を示す為、リオは十五人の空いた時間に、出来る限りの指導を行った。


 そして、一週間が経過した。わずか一週間で、兵士達は見違えるほどに成長していた。


 まず、半農民の十人。彼らの兵士としての時間を増やす為、リオは農作業の効率化を優先的に教えた。

 その結果。彼らは村の農民の倍近い早さで作業が行える様になった。その上、畑を耕す速度も上がり、土を舐めるだけで土の機嫌がわかる様にもなった。

 兵士として活動出来る時間は別に増えなかった。


 次に、館周囲に住んでいる五人の兵士だ。

 こっちは半農民よりも時間は余っていて、移動時間も無い為長い時間指導することが出来た。

 その結果、集団での罠の作り方と野生動物の解体の仕方を覚え、更に林業についての知識と技術も手に入れていた。

 どこまで伐採しても良いのか。どこに苗を植えるべきなのか。そういったことを、五人は理解出来た。

 これにより、余った時間で木を伐採し、場合によっては木材や板材等に加工出来るようになった。

 木はいくらあっても余ることが無く、また売って資金を入手することも出来る。

 資金も資材も無いリフレスト領に、僅かで小さいながら、希望の光が点った。


 そして我に返るリオ。自分は兵士の指導をしていたはずだ。

 農家のスペシャリストを作ったわけでも無ければ、森林の守り手を作ったわけでも無い。

 間違ったことはしてない。必要な知識だし、内政重視の今の方針とも噛み合っている。

 だが、何かおかしいことをしている様な気がした。

 騎士道とは何なのか。未だにその答えは見えない。だけど、一つだけわかることがある。

 今自分は、騎士という存在から遠く離れつつあるということだ。

 だけど不思議と、悪い気はしなかった。








「はい。第一回領地運営会議をしまーす」

 プランの言葉に、ヨルンとハルトが小さく拍手をする。

 プラン、ヨルン、ハルト、リオがテーブルを囲んで、その傍にメイドが一人待機していた。

 テーブルの上には各自紅茶に、パッサパサで砂糖控えめのクッキーのカゴが一つ置いてある。

 文官二名は欠席。仕事で他所の領地に行っているし、領内にいても何時も忙殺されているからだ。

 人員が足りず、文官を増やすべきなのだが、ツテが無い上に、まだ武官も足りてないから優先順位も低い。


「議題を話す前に、今度来る予定のもう一人の武官は、来るのに時間が掛かりそうなことをお伝えします」

 プランの言葉に頷き、話を先に進めようとするヨルンとハルト。よほど議題が彼らにとって大切な内容らしい。


「はい。では本題。リオのがんばりにより、わずかだけど予算が余った為、倉庫にしまっていた鉄を、使える様にしまーす。わーわー」

 それを聞いたヨルンとハルトは大きな拍手をした。

「というわけで、僅かしかないけど鉄を、どう使うか話し合いましょうか」


 倉庫にしまってあったのはそれなりに純度の高い鉄だ。どう加工しても領地運営にはメリットになるだろう。ただ、量は少ない。鎧一つ作れない程度だ。

 その鉄をどう利用すべきか。それを相談する為に、プランはこの会議を開いた。


「まず、俺から意見を言うぞ」

 ハルトが立ち上がり、皆の視線が集中した。

「とりあえず武具だな。今俺の武具は無い、その辺の石か素手だ。だから剣をくれ。余ったらガントレットあたりも欲しい」

 それにプランは頷く。筆頭武官が武具無しというのは、あまりに外聞が悪い。確かに必要なことだろう。


「文官としては、その意見に否定します」

 ヨルンの言葉に、ハルトは眉間に皺を寄せる。

「私としては、内政、主に経済を活性化させる方向で考えていただきたいです。ハルト、資金さえあれば、剣は買うことが出来ます。今必要なのは資金。その為に使いましょう」

 そしてヨルンは二つの使い道を説明した。


 一つはその鉄で農具を作ることだ。未だ住民に鉄の鍬が行き届いていない状況だ。数が増えたら来年の予算に直接影響があるだろう。

 もう一つは鋸だ。せっかく兵士に森林伐採の技術があっても、安っぽく壊れやすい石斧を使っている以上効率は良いとは言えない。

 幸い森林は腐るほどある。伐採速度が上がれば上がるだけ資金収入に出来るだろう。


「確かに。そういった物が良いかもね。ピッケルも良いかも。石材は取れるところあったよね?」

 プランの言葉に、ヨルンは首を横に振る。

「ありますが、遠い所にある上に石材所として整備していないので利益は出ませんね。せめて運搬出来る馬がもっといないと」

 プランはしょんぼりしながら呟く。

「世知辛いの……」

 ここにいる人はみな、その言葉を内心では思っていた。



「新参者ですが、発言よろしいでしょうか?」

 挙手をするリオに、プランは頷く。

「どうぞどうぞ。良い意見に立場は関係無いよ」

 リオは立ち上がり、言葉を発した。

「槍の量産を提案します。剣一本分でも五本位は作れるはずです」

「ふむふむ。何で槍なのか教えてもらって良い?」

 プランの質問に、リオは頷いた。

「それは実際の戦場での主戦力が槍だからです。幸か不幸か、ここの兵士達はまっさらな状態です。今の内に槍に慣れさせておけば良いと思います」

 リオの言葉にプランは頷く。

 兵種にて最も重要なのは三つ。槍兵。騎兵。弓兵だ。

 馬は予算的に増やせず、弓は技術も知識も足りず、そもそもまだこの村で作れない。

 で、あるならば、重要なのは片手槍だ。片手槍と木製の丸盾があれば、前衛としては悪くない性能になる。



「意見としては出揃ったけど、どうしようか?」

 プランの質問に、三人は意見を続けた。

 出来るだけ多数決で何かを行うことをプランは好まなかった。

 大勢の場合はしょうがないが、少人数で多数決を取ると、その大人数が間違った時の可能性があるからだ。

 出来るだけ意見を出し合い、お互いをすり合わせる。

 ゼロか一かの選択では無く、その妥協点を探る。そういったやり方がプランは好みだった。


 ただし、プランは一切自分の意見を出さない。

 何故なら、プランは内容が良くわかっていないからだ。だから皆に丸投げする。


 話し合った結果。結論が出た。

 今回は、ヨルンの意見を中心に行うことになった。

 まず、ハルトの武器は次回以降の相談に繰り越された。


 緊急性が薄いことから、ハルトは自分の意見を撤回した。

 それ自体は悪いことでは無い。ただ、プランはハルトの様子が少しおかしいと思っていた。

 元気が無いというよりは、悩んでいる様に見えた。気のせいなら良いんだけど……。


 次に、リオの意見の槍だが、槍を用意する必要性は理解したが、兵士達が槍の練習をしていない為、まずは練習用の槍を用意することになった。

 その上で、槍は一本だけ購入しておいてハルトに持たせ、後は練習用の槍をリオが指導しながら後日作成することになった。


 そして残り大多数の鉄は、鍬二本鋸一本に変わることになった。

 本当にわずかな前進だが、それでも確かな前進だった。


 後日、館に住む兵士達と一緒に、リオは槍を作成していた。

 数が必要な上に、練習用と言えども素手よりは遥かにマシな為、余分に作る。

 うまく尖った石を使い、無いなら自分で鋭い石を作る。

 数回突くだけで壊れるから、尚数がいる。

 槍の修復は経験があるが、流石に石槍は作ったことが無いリオ。

 色々と苦戦しながら兵士達五人と協力して試行錯誤を繰り返していた。


 兵士達五人は、本職が何なのかわからなくなるほど、楽しそうに石槍を作っている。

 石槍を作ることに手馴れていく兵士達を見て、リオは目標に近づいているのか遠のいているのか、わからなくなってきた。








 館の外で、なんとも言えぬ感情のまま兵士達と石槍を作っている最中のリオは、神妙な面立ちで近づいてくるハルトに気が付いた。

「騎士ハルト。どうかしましたか?」

 リオの言葉に、ハルトは言いにくそうに答える。

「すまん。俺と戦ってくれないか?」

 突然の申し出だったが、リオは即座に了承した。

 それはハルトが何かに思いつめた様子だったからだ。

 騎士道に迷う自分以上に、ハルトが何かの迷いに囚われている様にリオは感じた。


 武官同士の戦い。それは兵士達にとって憧れで、そして目標である。

 貴族で無い兵士でも、功績さえ挙げれば騎士に取り立ててもらえ、武官になれる。

 ただ、現実に兵士から騎士に上がれる者は少ない。

 それは、一種の壁の様なものがあるからだ。

 実力という、とても大きな壁が。

 それでも、目指す先が見え、同時に戦いの空気がつかめるから、兵士五人に観戦を命じた。

 本当は残り十人にも見せたいが、現在農作業中だ。こればかりは、どうしようも無かった。


 ハルトとリオは、木材で作られた練習用の剣を持って構えあった。

 ちなみにこの練習用の剣は、兵士五人の手作りである。重心もうまく取れており、練習用の剣としては文句無しの出来だ。

 木材加工が妙にうまくなり、木彫りの熊程度なら鼻歌交じりで作れる様になっていた。リオは彼らが何という職業なのか、わからなくなってきていた。


「騎士リオ。戦う前に聞きたいんだが、騎士リオはどの位強いんだ?」

「そうですね。残念ながらそこまで強くないです。我ながら器用貧乏でして」

 やれやれと手でジェスチャーしながら、軽く言うリオだが、その態度には余裕が感じられた。


「そうかい。俺じゃあそこまで強くないって言う奴にも届かないということか」

 リオを睨みつける様に言い放つハルトに、リオは苦笑した。

「……好きな時に来て良いですよ」

 挑発ともいえる言葉に、ハルトはシンプルに乗っかり、そのまま正面から突込み両手で握った剣を上から振り落した。


 ごうっ!強い風を切る音が聞こえた。

 十七歳という、まだ少年であるハルトが出して良い音では無かった。

 リオはそれを、左に半歩移動し回避した。

 そのままハルトは振り下ろした体勢を立て直さず、リオの方向に剣を横薙ぎに振るった。

 今度は後ろに一歩跳び、リオは剣を避けた。剣の風圧によりリオの服が靡く。


 ハルトの剣は我流に近い。

 人にならった技術を下地に、自分の筋力を最大限に利用出来る、野生的なスタイルを確立していた。

 恵まれた体格に、異常な負けん気。それがハルトの剣の根源だ。


 一方リオはシンプルだ。剣とは騎士道を為す為の手段。

 人に習い、それをそのまま行う。お座敷剣術と言っても良いだろう。

 我流とお座敷剣術、どちらが強いのかと言うと、そんな細かいことに強さは関係無い。


 我流であろうと一子相伝であろうと、関係が無い。

 年も、経験も、性別も、極論を言えば関係が無い。


 リオはハルトに一歩近づいた。兵士達からは普通に近づいた様に見えたが何故かハルトは気付きもしなかった。

 そのままリオは、剣の背で、ハルトの剣の背を軽く叩く。

 油断していたわけでは無い。ハルトが意識を取り戻した時には、既に剣を地面に落としていた。

「……まいった」

 ハルトは悔しそうに、そう呟くことしか出来なかった。

 結局の所、手段や過程は関係無く、ただ強い者が強い。それだけだった。

 兵士達は、一方的すぎる試合に何も言葉に出来なかった。


「ありがとうございました」

 リオは一歩離れ、丁寧に礼をした。ハルトはそれに、乱暴な礼で返した。


「なあ。俺は強くなれるか?」

 背を見せながら、ハルトはリオにそう尋ねた。

「はい。数年程経験を積めば、私程度では歯が立たない程には」

 リオのその言葉はお世辞では無く、本心からだった。今は経験の差で一方的な展開になったが、それは見た目ほどの差では無い。

 だけど、ハルトはその答えに満足そうでは無かった。

「そうかい。迷惑かけた。騎士リオ。俺は巡回に行ってくる」

 顔を見せないまま、ハルトは去っていった。

 その様子を見てリオは、ハルトの悩みの深さに気付いた。

 何に悩んでいるのかわからないが、自分が解決させるのは無理そうだ。


 リオは、兵士達の方を向いて講義を始めた。

「あの様に、武官は基本的に速度も力も高いです。基本的に当たれば即死なので、当たらない様避けるのでは無く、正面からぶつからない様にするのが貴方達兵士の基本的な動きになります。攻撃を避ける必要性が出た時点で、負けと思っても良いでしょう」

 その言葉に、一人の兵士が反論した。

「ですが、騎士リオはギリギリの回避を続けていたでは無いですか。それを私達に教えていただければ」

 兵士の言葉に他の兵士も頷いた。

 それにため息を吐き、リオは服をめくって自分の腹を見せた。

 そこには、横に太いミミズ腫れが浮き上がっていた。

「私は完全に回避しました。余裕を持って避けたはずが、ギリギリになり、そして風圧だけでこれです」

 それを見て、兵士達は武官と兵士の壁を理解した。

「なので、武官相手には一対一では無く、一対多人数で当たって下さい。回避を最優先にして囲いこみ槍で突く。武官でも、数で押せば勝つことが出来ます」

 兵士五人はそれを聞いて頷いた。


「騎士リオ様。お願いがあります」

 兵士の一人が申し訳なさそうに尋ねだした。

「何でしょうか。私に出来ることなら聞きましょう」

「はい。少しでも早く、私達を強くしてもらえませんか?」

 兵士五人のうち三人は、ずっと強くなることに執着していた。

「そうですね。あなた達三人は、暇を見つけては鍛えていました。何か理由があるのですか?」

 最近失恋して入った二人は完全に蚊帳の外だった。だから静かに事の成り行きを見守った。


「はい。ハルト様のことです。このままだとハルト様が死んでしまう様な気がして……」

 どうやら昔からいる兵士は、ハルトのあの様子を理解しているらしい。

「あなた達は、騎士ハルトの悩みを知っているのですか?」

 三人はそっと頷いた。

「ですが、それは俺達がどうにかできることでは無いんです。もしかしたらハルト様が自分でどうにかするしか無いのかもしれません」

 兵士は、とてもつらそうにそう呟いた。


「なるほど。確かにあのまま放置すると、大切な場面で危ないかもしれません」

 悩みを抱えたまま、戦場に出るなど自殺行為でしかない。兵士達もそれに頷いた。

「だから、俺達を強くして欲しいんです。いざという時、ハルト様を守れる様に」

 兵士の言葉に、リオが尋ねる。

「騎士ハルトを援護する為ですか。なるほど」

 それは素晴らしい。常備軍でも無いのにこの忠誠心の高さは嫌味無しで素晴らしくリオは感じた。

 だけど、兵士は首を横に振った。

「いいえ。いざという時に、ハルト様の代わりに死ぬ為に強くなりたいんです」

 その忠誠心は更に上を行っていた。リオはその言葉を聞き、背筋に得も知れぬ恐怖を感じた。


 どうしてそこまで、その言葉をリオは飲み込んだ。

 領主の為に命をかける騎士道。その答えの一つを、兵士達が持っている。

 だけど、リオはそれを正しいとはとても思えなかった。



ありがとうございました。

ぐだぐだして申し訳ありません。

そして、もう暫くぐだぐだするのでぐだぐだをお頼み下されば嬉しいです。



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