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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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2-24話 決着までのアントラクト


 馬車移動二日目の朝、リーダイが脱輪したフリをして馬車の足を止めていた頃――。

 速達にてリフレスト領に手紙が届いた。

 プランからの手紙は当然検閲され、問題なしとして早急にリフレスト領に届けられた。

 まさかそんな子供の悪戯じみた仕掛けがされているなどと夢にも思わず――。


 その手紙を受け取り中を開いたハルトとヨルンはげんなりした表情を浮かべた。

 あのがさつなプランが送って来たとはとても信じがたい、シンプルな花の描かれた可愛らしい便箋。

 その中に書かれた女の子らしい文字の手紙は字が染みないよう白紙二枚に包まれていた。

 書かれている内容自体はどうでも良い内容だった。

 ぐだぐだと意味のない長い書き出しから始まりやれ街並みが美しいや食事が美味しいからの後に『遅くなってごめんね』といった内容の本題が書かれたたった一行で本題が終わる実に貴族らしい文章。

 ただ文字を埋める為の意味しかないその手紙には意味はなくただの添え物に過ぎない。

 ――本体は白紙二枚の方である。


 そもそも、プランは字が染みないような気づかいをするタイプの人種ではない。

 そうなると、白紙の紙など本来いれる必要がないのだ。

 ハルトとヨルンの二人は渋い表情の顔付きのまま、そっと白紙の紙を二枚持って調理場に移動した。

『砂糖水で文字を書いてね! 乾いた後炙るとね! 文字が浮き出て来るんだよ! 凄くない!?』

 プランが子供の頃目を輝かせながら呟いた言葉である。


「はぁ……これすげぇ読みにくいんだよなぁ」

 ハルトが紙を炙りながら愚痴を零した。

 炙り出しの文字は欠損が多く、読むのも書くのも困難である。

 子供の頃色々と試したが、結局綺麗に作れるのはプランだけだった。

「今度はもっと読みやすい暗号でも考えましょう」

 ヨルンは苦笑いを浮かべながらそう呟き、もう一枚の紙を炙った。


 その二枚のあぶり出しにはこう書かれていた。

 ブラウン子爵の危機、裁判執行まであと僅か。

 ウチに残された五年前、子爵絡みの書類が必要。

 現在リフレスト領に移動中、けど往復は妨害工作にて間に合う可能性低し。

 書類揃えて持って迎えに来てね☆(ゝω・)v


「……情報がもう少し欲しいですね」

 ヨルンは大事だという事は理解したが詳しい事情がわからず苦悶の表情を浮かべる。

「ああ。炙り出しの限界だな。顔文字書く余裕あるの腹立つけど」

 ハルトがそう呟きつつ、ヨルンの指示を待った。


 ヨルンは額に手を当てて少し考え込み……ハルトの方を見た。

「念のため武器の準備。さすがに鎧や槍は街中では目立ちますから……ボロでも何でも良いので剣を。あと賢く長時間走れる馬を用意してください。一時間後に出発します」

「あいよ」

 ハルトは即座に移動を開始し、ヨルンも準備を始めた。

 五年前の書類、厳重に保管された()()()()()()()()()()()を抱え、いない時の為に館内の全権限をメイド長に渡した。

 そして最後、ヨルンはミハイルの元に向かった。


 ノックを四度し、ヨルンはミハイルの部屋に入室する。

「失礼します。すいませんが今日からしばらく私の仕事代理をお願いします」

 書類仕事中のミハイルは露骨なまでに表情を曇らせた。

「――不可能です。現在でも私の仕事は三人分を軽く超え、それに筆頭のヨルンさんの仕事五人分。それを数日というのは流石に私の限界点を軽く超えてしまって……」

「御当主――いえ、プランさんから緊急事態での呼び出しがありまし――」

「後は私に任せてすぐに行ってください。必要な物は?」

 驚くほど速く表情を切り替え、キリっとした表情になり書類の進める速度を倍にしてミハイルは答えた。

 その切り替えの早さ、予想通りとはヨルンは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「五年前の書類と馬一頭、あとハルトを借りていきます」

「わかりました。妹の事をお願いします」

 ミハイルの言葉にヨルンは頷き、部屋を退出した。

「……本当は私が行きたいんですが……迷惑になりますからねぇ」

 ミハイルは寂しそうに呟き、自分に出来る事、文官としての使命に集中した。


 三十分後、お互いの準備が終わったのを確認してから、馬に乗って二人は移動を始めた。

 一本道の為よほどの事がない限りは合流出来るだろう。

 そしてその考え通りだった。



 ハルトとヨルンは合流した直後馬をリフレスト領に返してから朝食の席に座り、それに合わせてガダールが追加の朝食準備の為に席を立った。


「なるほどねー。暗号を使って呼び出すって事は、最初から俺の仕事内容把握されてたって事かー」

 リーダイは朝食を食べながら感心する様子を見せた。

「そゆことー。んでさ、ダイ君も守秘義務に反しない程度に情報くれない?」

 もぐもぐと女性らしからぬ速度で食べ進めるプランの声にリーダイは頷いた。

「そう言ってくれると助かる。性質の悪い仕事だけど仕事は仕事だからな。と言っても、黒幕とか事情とか俺は知らないぞ」

「あら、そうなの? 全部知った上でだと思ってたのに」

「いんや。俺みたいな末端がいざという時何か知ってたらマズイだろ。元々俺はちょっとグレーな仕事をする馭者役なんだ。ガラの悪い奴の送迎だったり犯罪者の引き渡しだったり。ま、今回みたいなガチヤバめな上にお上品な貴族送迎とかした事なかったけどな」

「ほーん。ガチヤバ目って感じる仕事だったの?」

 プランの言葉にリーダイは頷いた。


「ああ。貴族の送迎を俺と親父に頼んで、しかもブラウン子爵の裁判に間に合わないように送迎しろとか、どう考えてもヤバイとしか言えん」

「なんで受けたの?」

 プランの正論が胸に刺さりリーダイがうずくなりながら小声で呟いた。

「報酬に……目が眩みました」

「親に変な気遣いをするからだ」

 ガダールはヨルンとハルトのパン、ジュースをドンと置き、テーブルに置いた後リーダイにそうぼやいた。

 少々というよりはかなり鋭い棘の感じる言い方だった。

「うぐっ。反省してますよ……。精々小悪党な俺にゃ荷が重かったさ……。んでさ、プラン。一つ、いや二つほど聞いて良いか?」

「ん? 何でも良いよ。こっちから尋ねてばっかも悪いしね」

「ああ。まずさ……なんであの二人あんなに真剣に飯食ってんの?」

 リーダイが指さした二人――ヨルンとハルトは話に一切混じらず必死に朝ごはんに食らいついていた。

「良い質問ね。答えは簡単よ。ウチの食事情は悲惨。つまりそういう事よ」

「――あの二人もお偉いさんじゃないのか? 片方は剣持ってるし武官ぽいが」

「そだね。立場的にお偉いさんだよ。でも……ウチは未発展地区で貧乏だから……」

 プランのしみじみとした呟きに、リーダイは苦笑を浮かべる事しか出来なかった。

 ヨルンとハルトはそんな二人の会話すら聞こえず、奪い合う勢いでただただ必死に飯をかっ食らっていた。


「それともう一つなんだけどさ、あの……。その……どうしてあの人は俺をじっと見ているのでしょうか?」

 リーダイは酷く言い辛そうに、リカルドの方をちらっと見つめた。

 そのリカルドは妙に鋭い目でリーダイの方を見つめて――いや睨みつけていた。

「え? さ、さあ? 私にはわからない……というか言う権利がないというか言い辛いというか――」

 プランは曖昧な笑みを浮かべつつ困った表情で中途半端な事を言った。


「――ああ。そういう事か」

 リカルドの心情を察したガダールはふっと小さく笑いを浮かべる。

「え。親父わかるの? 俺が恨まれている理由」

「――恨まれてはない。放っておいても大丈夫だ」

「は……はぁ」

 リーダイはガダールの言葉に首を傾げる事しか出来なかった。


「なんか距離近い……君付け……。ぐぬぬ」

 そんなリカルドの小さな呟きに、プランは聞こえなかったフリをした。




 再出発した馬車の移動速度は行きよりもはるかに遅かった。

 二人分重量が追加された為である。

 食料は減っているものの、それ以上に過重が多いのだ。

 それでも、時間の猶予は十分に残っていた。

「このまま行くと間に合いそうですねー。二度目の脱輪がなければ」

 プランがそんな軽口を言い。

「もう大丈夫ですよー。この馬車は貴族送迎用ですので滅多な事では壊れませんさ。一度目の脱輪は特例です」

 なんて冗談をリーダイが返せるほどには時間にも気持ちにも余裕があった。




 悠々自適で軽口が飛び交い、ヨルンに詳しい事情を説明しつつ、リカルドの嫉妬を宥めながらの快適な馬車の旅。

 その二日後の朝日が昇った頃……馬車はレタラの街に到着した。

 裁判が始まるのは昼から。

 ギリギリではあるが間に合った事を感じ取り、プランは小さく微笑んだ。


ありがとうございました。

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