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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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2-8話 ふぁーみんぐ2

 

「それでメーリア。この畑ってどうするの? やっぱり単価の高い小麦を植えるの?」

 プランの発言にメーリアは微笑みながら首を横に振った。

「本来でしたら、三つの畑のうち一つを春植えの大麦、一つを秋植えの小麦、もう一つは休ませる。これをローテーションで行うのが効率良い農法と言われています」

 メーリアの言葉をプランは考え、そして尋ねた。

「それはどこでもやってる事?」

 メーリアは頷いた。

「それは常識に近い」

「ええ。割と」

「……うちの農村、そうなってる?」

 メーリアは苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

 ここはリフレスト領。

 辺境で何もない自然豊かな場所。そして、知識から遠く離れた切ない秘境である。

 唯一の長所は、隣の領に栄えた港町がある事くらいだろう。


「そっかー。ああ! そういった農法があるから畑を三つ用意したんだね」

 プランの質問にメーリアは再度苦笑いを浮かべた。

 勝手に兵士と農民が競争し合い、プランが一人で一個丸々耕しただけでメーリアの予定では、今日用意する畑は一つである。

「いえ、今回はそのスリーフィールド式ではなく、私独自の農法の実験をしようと思いまして畑の耕しを頼みました。スリーフィールド式にした畑も用意する予定ですし確かに現状よりは効率良いのですが、即効性がありません。効果が出るのはおそらく再来年ほど。それは流石に間に合わないかと。ですので、今回は私の研究成果を見せるべきだと思います」

 そう言いながらメーリアはキランと目を輝かせどや顔をした。

「……メーリアってどんな研究をしてるの?」

「『クリア教の聖水に農耕技術と農耕知識を融合させる事による技術革新で食料難民の救済』ですね。つまり、効率よく即効性を求めるコスト度外視の農法研究です」

「その飢える人を救うという立派な目的のおかげでうちの領が救われると言うのは――何とも感慨深い話ですなあ」

 メーリアの想定する状況に片足突っ込んでいるリフレスト領の事を想い、プランはしみじみと呟いた。


「と言いましても、私は所詮二流でアマチュア。その程度である私の研究ですのでどのくらい正しいのかわかりません。ですので、失敗してしまったら謝ってすまないかもしれませんが――」

「いいよいいよ。出来る事は全部やっていこう。責任はぜーんぶ私が取るから。だけど、人命だけは優先してね?」

「それは当然です。という事で、研究について説明してもよろしいでしょうか?」

 メーリアの言葉にプランは頷き、全力で聞く姿勢に入った。


「今回は豆かカブか植える予定です。畑が三つあるので一つ余りますね。どっちが好きですか?」

「豆は食べ飽きるほど食べてるけど……カブってあんまり食べた事ないなぁ。美味しいの?」

「崩れるまで煮込めば甘くておいしいですよ。とっても優しい味がします。また調理も種類が多く、煮てよし焼いてよしと割と万能な野菜だと」

「おおー良いねー。それじゃあカブをお願い! 出来たら何か美味しい料理作ってくれる?」

「ふふ。どちらも了解しました。」

 メーリアはキラキラした瞳をしているプランに優しい眼差しを向けながらそう答えた。


「それで、どうして豆やカブなの?」

「そうですね……土の力という物がありまして。……うーん、土壌の安定化の為に種類を分ける事など理由は複数あるのですが、一番の理由は土を成長させる準備の一環です」

「成長?」

「はい。土の状態が良いと作物は早く大きく育ちます。それには土の栄養や状態だけでなく疲労などもあるので説明は難しいのですが……」

「んー。つまりカブとか豆なら土が良くなるって事?」

「状態を診つつ、色々な作物を育てつつ休めてあげる事が土に良いですね。カブの効果は土を良くするというよりは、土をあまり疲れさせないって部分が大きいんです」

 その他にも土の健康状態や土の酸性値や病気の耐性など色々と補足を付けたし説明するメーリアだが――その内容はプランにはとても理解出来るものではなかった。

 計算問題や地理以外なら、プランは別に頭が悪いわけではない。

 ただ単純に、難易度が高すぎるのだ。

 プランの中では土とは大地の恵みで神様のギフト。

 そのくらいしか考えた事がなかったからだ。


「……つまり、耕したての畑は状態が悪いからその状態で馴らしも兼ねてカブを上げつつ、聖水を投与して状態を確認し、土の状態が安定かつ成長状態になれば大麦や小麦を植えてみようって感じです。そして土が疲れたら休ませるか疲れにくい作物を育てていき、また要所要所で聖水を投与することにより、安定して効率の良い畑になるというのが私の理屈です」

「――理論はわかった」

 プランが首を傾げながらそう答えるとメーリアは微笑んだ。

「では、実際にやってみましょう」

 そう言ってメーリアはプランにカブの種が入った革袋を手渡した。

「はーい! あ。私の耕したところで良い?」

 メーリアは頷いた。

 残り二つの畑はまだ終わってなく、兵士と農民はえっこらえっこらと畑を耕し続けている。

 それに、プランの耕した畑が見るだけでわかるほど状態が良かった。

 それは技術や才能だけでなく、土に敬意を払って大切に耕さないと出来ない事だ。

 どうして畑を耕す才能なんて持ってるのか、その理由は大地を愛し、逆に大地からも愛されているからだろう。

 そう思うとメーリアは楽しそうに種を見つめる目の前のプランがとても愛らしく見え、微笑みながら頭を撫で――。

「ねぇ。種って食べられるの?」

 そんなプランの質問に、メーリアは頬を引きつらせて首を横に振った。








 三つの畑全てに種を植え、その日はお開きとなった。

 ちなみに耕す勝負の勝敗はつかなかった。

 プランにダブルスコア以上の差を付けられて勝ちを名乗れるほど男のプライドは安くないらしい。

 ――それなら最初からしなければ良いのに。

 そう思ったが、プランは口には出さなかった。男が面倒な性質だという事を、ハルトやヨルンという男友達を通じてプランも知っているからだ。


 畑はまだどうなるか、何が起きるかさっぱりわからないが、特に心配していなかい。

 メーリアがやると言って動いてくれてるのだから、後は任せてドーンとしていたら良いだろう。

 むしろ心配はそこではなく、やりすぎて大事になったらどうしようか。

 そっちの方がプランにはむしろ心配だった。


 そんな事を考えながら館に戻り、自分の部屋に入ると先客が待っていた。

 ヨルンとハルトである。二人は驚くほど真っ青な顔をしていた。

「ただいま……何かあった?」

 プランが尋ねると、ハルトが傍に来るようにちょいちょいと手招いた。

 言われるままに傍により三人が顔を寄せ合うと、ヨルンが小声で内緒話を始めた。

「ハルトが村周辺の警邏中、とんでもない物を発見しました」

「……何を見つけたの? 大盗賊の拠点とか。また他領の侵略者」

 プランの質問に、ハルトは小声で答えた。

「盗賊探して山ん中入ったら洞窟があって、そこで銅が見つかった」

 その顔は、目出度い事を言う顔ではなかった。


 ――やったー!銅が出たー。これで景気はウハウハになるし領は幸せになるぞー!

 そんな幸せな妄想が出来るほどプランの脳内はお花畑ではない。

 たかが銅。

 農具にも武具にもならない柔らかい金属だ。

 しかし、銅である。

 それなり以上の値段で売れるし、税の一部を銅払いにすれば色々と楽になる。

 うまく使えれば領の発展に間違いなく繋がる。

 そう、うまく使えたらだ。


 プランは二人が真っ青になっている理由を理解した。

 放置しても後々問題になるし、掘削をする場合でも問題まみれ。

 あらゆる意味で面倒事の塊だった。


 掘削施設を用意する為に片づけないとならない問題は三種類である。

 三つではなく、三種類。


 一種類目は、必要書類の準備。

 どのくらい取れるか、どう計画立てて掘るか、いくら税金とするのか、枯渇するまでどのくらいかかるか。

 ある程度の測量は当然として、それからの計画資料を国に届けないと鉱山開発を行う事は出来ない。

 測量技術は当然もっておらず、そして資料作成も文官のキャパ的に不可能だった。


 二つ目はどうやって銅を掘削するかである。

 人も設備もないし、何よりも掘削のノウハウが全くない。

 つるはしもってカーンカーンなんてやったら、病人や怪我人が量産されるだけだし、最悪崩落からの生き埋めである。


 三つ目は最大の問題。防衛である。

 アデン男爵領のような、何もないのにこの土地を狙う者がいるような状況で、銅山開発などした場合どこから狙われるのかすらわからない。

 信頼できるのは付き合いの深いブラウン子爵領だけである。

 


「それで……ヨルンなら何か考えがあるんでしょ? どうするの?」

「もうしわけないですが、実は何も思いついていません。私一人では手に負えないので……領主様の許可があればミハイルに相談しようかと。ちなみに機密に指定していますから、まだこの三人以外は誰も知りません」

 無表情で冷徹な顔となりヨルンはそう答えた。

 これがヨルンの仕事モードである。

「任せる――ううん。今回の全権限を渡すから思いつく限り何でもやって動いてみて」

 プランの言葉にヨルンは丁寧に頭を下げた。

「了解しました。ではさっそくミハイルに相談してきます」

 ヨルンの言葉にプランは頷いた。


「俺はもう一回行って鉱石を持って帰ってみるわ。質とか分かった方が計画とか立てやすいだろ?」

「確かにありがたいですが、鉱石には直接触らないように気を付けて、持って帰る時もハンカチとかに包んでくださいね。有毒金属の可能性がありますので」

「あいよっ」

 ハルトは話半分にさっと移動を始めた。


「……これがハルトの見間違いで、銅よりやばい金属とかだったどうしようか」

「……言わないでください。口にして本当になったら困るので……」

 その可能性は限りなく低い。

 だが『ハルトだから』という一文だけで、可能性をゼロにすることは出来ず二人は心配から小さく溜息を吐いた。


ありがとうございました。

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