2-5話 はっぴーばーすでーでぃあ……私!
リフレスト領にある小さな村、ファストラ。
小さな水車と民家、それと畑しかなかった小さな村には、不釣り合いとしか呼べないとても立派な教会が建てられていた。
そんな猫に小判としか思えない立派な教会が建設されているのには訳があった。
単純に、治療に必要だったからだ。
教会の役割は心の拠り所という宗教的なものだけでなく怪我や解毒などの治療行為も含まれる。
そして立派で豪勢な教会ほど、術者の能力をブーストする効果も高い為、治療効果も強力である
それに加えて教会では特別な祝福、聖水という道具もある。
聖水とは神のちょっとした奇跡を凝縮した水であり、魔物避けや傷薬にもなる栄養が含まれた清潔な水という何にでも使えてちょっとした効果のある便利なものである。
特にクリア教の聖水は他の宗教の聖水よりも効果が高く、切り傷を一瞬で治癒し解熱剤としても使え、一瓶で二日分の栄養が取れるほどとなっている。
高名な司祭、豪華な教会、クリア神の聖水。
これが揃った場合、全ての外傷を治療できると言っても良いだろう。
そして、これらが必要なほど多くの重傷者が出ていた為、リフレスト領では緊急でかつ優先的に教会を設立する流れとなったのだ。
未だに金銭の取引のないような村で、物々交換オンリーの村にもかからわず……。
村人全員が入ってもまだ半数以上の隙間が残るほどの広さを持ち、金銀ガラスを惜しみもなく使った豪勢な構造。
それでいて耐久性能も高く、ガラスは自動修復の効果も持っているという至れり尽くせりの為、緊急時の避難場所にも指定されていた。
そんな田舎の農村には不釣り合いな教会だが、意外な事に住民は良く礼拝に訪れていた。
神様とか詳しい事は何も知らないが住民たちだが、それでも日々暮らせているのは神様のおかげなんだろうと淡く思って、じゃあ感謝を捧げないとと適当に考え暇な時間に適当な作法で礼拝をしていく。
六人の名前も知らず、神様の存在も知らず、それどころか間違えてお天道様に祈りを捧げる者もいるが、それでも彼らは確かに、日々に感謝し祈りを捧げていた。
偶に酒とか嫁とかを願いに礼拝に来るのが玉に瑕だが、教会は住民との関係は良好であると言えるだろう。
そんな教会だが、今日はいつもと様子が異なっている。
礼拝用の椅子は全て取り外され、そこに無数のテーブルが置かれて豪勢な食料が並べられている。
七面鳥の丸焼きのような大きな肉の塊から色とりどりの野菜に白パンなど。
普段リフレスト領では絶対にお目にかかれない豪勢な食料の数々。
そして教会の中央付近で本日の主役、プランは破顔させ喜びを隠しきれずぴょんぴょんと跳びまわっていた。
今日は五月五日。
プラン・リフレスト十六歳の誕生日である。
「それでメーリア。今更だけど本当に良いの?」
ステンドグラスには帽子などが飾り付けられ、紙で作られた輪を繋げた物などが壁に掛けられ、すっかり誕生パーティー仕様に変更された教会に対しプランはそう尋ねた。
その教会の主であるメーリアは微笑みながら答える。
「私は常日頃から思っている事があります。神様とはおおらかで優しい、慈愛に満ちた存在だと言うことを人々にもっと伝えないとならないと――。神は人の誕生を祝ってくださいます。――なので誕生会を開いても問題ないでしょう」
「うーん。何か誤魔化された感じがあるけど、良いのかなぁ」
「じゃあ一つプランさんに尋ねましょう。今ここに、重症の人が現れたらどうします? その人は貴族でも何でもない平民で、パーティーを止めないとこの教会で治療が出来ません。そうなった場合、本日の主役であるプランさんはどうしますか?」
「皆で協力して助けるけど。他に選択肢あるの?」
プランの言葉を聞き、メーリアは微笑んだ。
「いいえ。他に選択肢はありませんよ」
そう、人であるならば、それが普通の事である。
だが、その普通の事を当たり前のように行える貴族ばかりではない事を、メーリアは良く知っていた。
そんなプランだからこそ、教会で誕生会を開いても問題なく、神様も祝福して下さると考えたのだ。
「まあ、今回の場合はそれ以前に、教団からの正式な許可が出てますから誰も文句は付けられませんけどね」
メーリアはそう言って微笑みながら、近くで紅茶を楽しんでいる女性の方を見つめた。
「え? 私がどうかしましたか?」
見つめられた金髪の女性、フィーネ・クリアフィール・アクトラインは全員の視線が向いている事から首を傾げた。
どうやら紅茶に夢中で話を聞いてなかったらしい。
「フィーネのおかげでパーティーが開けたってお話よ。ありがとねフィーネ」
そう言いながらプランはフィーネに抱き着いた。
「きゃっ。……もう。ティーカップを持っている時は止めてください」
そう言いながらも、フィーネはどこか嬉しそうだった。
教会内にいるのはプラン、ハルト、ヨルン、リオ、アイン、リカルド、ミハイルといういつものメンバーに、ここの主であるメーリアと主催者であるフィーネ。
「というわけで、私からのプレゼントとしてこのような誕生日パーティーを用意しました。ちゃんとした物は他の人からという事で」
若干申し訳なさそうにプランの腕の中でフィーネは言うが、プランはそんな事気にもしない。
「良いのよ。というか十分すぎるわ。それにフィーネが遊びに来てくれた事が私にとってなによりの、一番のプレゼントよ」
「ふふ。私も同じ気持ちです」
そう言いながら二人はぎゅーっと抱き合った。
大した事はしてない。と言っても、この誕生パーティーは恐ろしいほどに金がかかっている。
そのほとんどは用意した大量の食糧のせいである。
今いる教会内でも人数で考えたら十分な食事に加えて、これと同じ物が倍以上、外にも用意されていた。
それは誕生日パーティーという名目で領民にも色々と楽しんで欲しいというプランの願いをフィーネがくみ取ったからだ。
貴族向けの食事を村人全員が十分なだけ食べられるように、更にもう一つの村のセドリの村にも人数分以上に支給してある。
更に、フィーネの用意したのはそれだけではなかった。
フィーネはプランの腕の中から離れ、ヨルンに一枚の紙を手渡す。
「ヨルンさん。これが今回用意したパーティー用の食事リストです。おそらくぴったりだと思いますがご確認下さい」
ヨルンは深々と頭を下げて紙を受け取り、上から丁寧にリストを確認する。
「……そうですね。フィーネ様、若干多いですので、こちらで処理してよろしいでしょうか?」
「あら。それは失礼。ではそのように」
そう言いながら二人は妙に邪悪な気配を漂わせ微笑み合った。
そう、リストに書かれている食料は予想よりも若干多かった。具体的に言えば保存食が一年分ほど。
フィーネは貴族としてと教団の上役としての立場から、リフレスト領に直接支援することは禁じられていた。
だから、パーティーの食料と銘打って内緒で保存食を届けてくれたのだ。
非常用の食事としてはもちろん、兵役に向かう際の戦争用の食事としても必要な為、今最も求めていた物と言っても過言ではないだろう。
しかも保存食だが高級な保存食な為普段のリフレスト領の食事よりも美味しい。
領民が喜ぶ上に領の未来に繋がる直接的な支援。
しかも処理という形にしてくれた為直接の恩にもならず他の貴族にもバレず文句も言われない。
緊急支援という意味では文句なしの対応を行ったフィーネにヨルンは脱帽した。
が、それはそれで何となく悔しかったヨルンは後でこっそりフィーネに舌戦を仕掛けようと心に決めた。
「それじゃあ皆さん。六神に、自分の隣にいる人達に、最後に祝うべき御当主様に感謝の祈りを捧げ、食事にしましょう」
フィーネの言葉に合わせて全員は手を握り、祈りを捧げた。
全員の祈りが終わって、プランが食事に手を付け始めた瞬間、外から爆音が鳴り響く。
それは領民達の魂の叫び。
普段食えない物を限界まで食べようとする咆哮だった。
待ちきれないほど辛かったのに、プランが手を付けるまで誰も食事に手を付けなかった。
フィーネはその事を考え、微笑を浮かべた。
プランが食べ始めるまで領民が待っていたのだ。いつ食べても良いと言っていたにもかかわらず。
これほどまでに領民に愛されている領主など、フィーネは一人も知らなかった。
「誕生日おめでとう、プラン」
食事中のプランに話しかけて来たのは兄のミハイルだった。
「もぐもぐも。もも? もぐもぐ」
骨つき肉を頬張っているプランは何を言っているかわからず、ミハイルとその隣にいるヨルンは小さく苦笑した。
ちなみに骨付き肉をかじるタイミングでわざわざ話しかけたわけではない。
プランに話しかけるタイミングを見計らっていたのだが、食べる速度が全く落ちなかった為二人は諦めて話しかけただけである。
ゆっくりと租借し、口の中の肉を嬉しそうに飲み込んだプランをヨルンは確認し、改めて話しかけた。
「おめでとうございます当主様。こちらは私とミハイル様……ではなくミハイル含む文官全員からのプレゼントです。どうぞ」
そう言いながらヨルンは薄く小さな紙袋を手渡した。
「ありがとう。他の文官さんにもお礼を言っておいてね。それで、さっそくだけど開けて良い?」
わくわくしながら尋ねるプランに、二人は微笑み頷いた。
ビリビリと外紙を破った中に入ってあったのは一冊の本。
それはゴーレムについての技術書だった。
「おおー! こういう本って高いとか聞いたけど、良く手に入ったね」
その言葉に二人は否定しなかった。
「ですから、文官全員の合同プレゼントです……」
その言葉に結構な苦労があったのを感じたプランは、それ以上何も尋ねなかった。
こういった知識を書き記した技術書は金が有れば手に入るというものではない。
知識は金よりも貴重な財産だからだ。
金も手間もかけて探し回って、それでも手に入らないというのが普通の事である。
しかも我が領は財政真っ赤な上に文官暇なしの常時修羅場である。
一体どのくらい苦労をかけてこの本を手に入れたのか、想像すらできない。
領の為に自分の出来る事を学んで、そして未来につなげて欲しい。
それがミハイルを含めた文官一同のプランへの願いだった。
「んじゃ次は私からねー」
ヨルンとミハイルがプランの前から去ったタイミングで、アインがプランに抱き着いた。
「わぷっ。あの、幸せな圧迫で死ねるからほどほどにおねげーします」
その嫉妬せざるを得ない豊満な胸に圧迫されるプランはそれだけ口にした。
「あら。ごめんなさい。んじゃプランちゃん誕生日おめでとう。ちょっと子供っぽいけど、まあそこはご愛敬という事で」
そう言いながらアインが渡したのは、まくら程の大きさのクマのぬいぐるみだった。
「わっ。可愛い!」
プランはそのぬいぐるみを微笑みながらぎゅっと抱きしめると、「ぴえー」と不思議な鳴き声を上げた。
「……本当はきゅーとか可愛い声にしたかったんだけど、何故かこんな間の抜けた声に」
若干申し訳なさそうに、そして恥ずかしそうにアインが言うのを聞いてプランは微笑んだ。
「ううん。これはこれで可愛いよ! というわけで今日から君はぴえーるだ。これから一緒だよ!」
「ふふ。良かったねぴえーるちゃん。可愛い名前を付けてもらって」
二人は「ぴえー」と鳴くクマを真ん中にして嬉しそうに抱き合った。
アインはプランとの肉体の接触が多い。
プランはその理由を、何となく寂しいんだろうと理解していた。
複数の男を侍らせる悪女のような振舞いをしているアインだが、彼女は意外と初心であるとプランは予想していた。
そう考えるとアインにも何か抱えているものがあるようだが、プランはそれを深く追求しない。
それは間違いなく、傷の類だからだ。
だからプランは自分に出来る事をする。
アインを抱きしめ、微笑みかけた。
「これからも一緒にいてね?」
プランの言葉にアインは微笑み、頷きながら抱き返しプランの頭を撫でた。
「当主様。誕生日おめでとうございます」
アインが去ったのを確認して次に来たのはリオだった。
リオは未だにアインに苦手、というよりは潔癖な性格の為軽い嫌悪を持っていた。
「うん。ありがとう騎士リオ。これからも色々よろしくね」
「はい。我が騎士道にかけて、この領に、そして当主様に変わらぬ忠誠を」
そう言いながら直立するリオだが、両手は後ろに隠してあり、何か言いずらそうにしている様子が見える。
「……どうしたの? プレゼントなくても私は気にしないよ?」
プランがそう微笑むのを見て、リオは困った表情を浮かべつつ、そっと手を前に出し隠している物を見せた。
「いえ。そういうわけではなくて……。ただ、若い異性に対して送る物が思いつかず、こんなものになってしまって……」
そう言いながらリオが見せたのは小さな鉢植えだった。
オシャレな容器に入れられた手の平よりも少し大きな鉢植えの中には、何かの植物が生い茂っている。
良く見ると緑色の小さなつぼみのようなものも見えた。
育てたら花が咲くのだろうか。
「あら。可愛いじゃない。良いセンスと思うけど」
アインがちらっとそれを見て、それをリオは嫌そうな表情で受けた。
「うん。私も可愛いと思うわ。ありがとね」
そういって鉢植えを受け止め、プランはリオに微笑みかけた。
「いえ。お世辞は良いです。どうもこういうのは苦手でして。次はもう少し気を付けますね」
真面目な表情でそう答えるリオに、プランは小さく苦笑した。
「別にそのままで良いのに。それで、これって育てるのどうするの? どんな花が咲くの?」
「ああ失礼。伝え忘れていました。毎朝コップ一杯程度の水を上げて日の当たる場所においてください。それで、もうしわけありませんが花は咲きません」
「え? この小さなつぼみは?」
「それは実ですね。育って色がつくと甘酸っぱい実になります。マジックベリーって名前の」
「ほほー。ありがとう。素晴らしいプレゼントだわ」
プランはころっと意見をかえ、嬉しそうにその実を見つめ始めた。
プランにとって花よりは、食べられる実の方が嬉しかった。
「……まあ、たぶん当主様がそれを召し上がる事は難しいと思いますが」
リオの意味深な言葉に尋ねようとするプランに、強い視線が刺さる。
「……じー」
その視線はプランの妖精、エーデルワイスのものだった。
ワイスにも食事を楽しんで欲しいと考えたプランは、人の姿のままワイスを解き放っていたのだが……何故か食事を止めてワイスはこちらに戻ってきていた。
「……どうしたのワイス?」
「……マジックベリーって。妖精の好物なのよ。知ってた?」
「……ううん。知らなかった」
「……良いなぁ。良いなぁ」
プランは、リオが食べられないと言った理由を実際その目で確認出来てしまった。
「……実がなったらあげるから勝手に食べないでね」
「うん! ありがとうね!」
ワイスは満面の笑みを見せ、さーっと別の場所に去っていった。
また食事を食べに、または誰かと話にいったのだろう。
ワイスは特別な人型の妖精だが、その分もあって妖精石から解き放つと膨大な魔力を消費する。
その為普段は石の中に入るか、小さな妖精の姿で召喚していた。
なので今日みたいに長時間本来の姿で出られるというのは、ワイスにとってとても貴重な時間だった。
「ちなみに妖精が食べると大量の魔力を吐き出す。というか好物だから張り切って魔力を生み出すのでマジックベリーという名前になりました」
「……うん。今実際に経験して知ったわ」
プランは苦笑しつつリオの言葉にそう答えた。
「さて、本命の前に俺からも。遅れたけど誕生日おめっとさん」
そう言いながらリオの後ろからハルトがにゅっと顔を出した。
「はい。あんがとさん。プレゼントぷりーず」
「おう。と言っても、すまんな。たぶん俺が今年は一番しょっぱいプレゼントだわ」
「気持ちさえ籠ってたら別に良いわ。だから称える気持ちで私にプレゼントを渡しなさい」
「へいへい。あーすばらしい当主様にーささげものをー」
そう言いながらハルトが投げて渡したのは黒いペンダントトップのネックレスだった。
木のビーズと白い骨のような飾りが付けられた伝統工芸品のような細工が施されてあり、黒く輝く逆三角形の本体は独特のセンスを醸し出していた。
貴族の女性に贈るデザインとしては良くないが、プラン的には高評価である。
「あら。良いセンスじゃない。それでこの黒い石は何?」
「あ。黒く染めた鮫の歯。ちなみに白い部分も鮫の歯な」
「へー。面白いわね。ハルトが加工したの?」
「ああ。他に用意出来るものもなかったし、ちょいと色んな人から習ったり学んだりしてな」
「へー。そんな特技あったのね。ありがとう。大切にするわ」
「おう。一応魔除けのお守りだけど効果とか何もないから適当に使ってくれい。んで最後はオオトリだ。俺のダチが超がんばってすげーもん用意したから誉めてやってくれや」
そう言ってぶっきらぼうな様子のままハルトは去っていった。
それと入れ替わりに現れたのはリカルド。
その手には大きな二つ折りの箱が握られていた。
ぱかっと開くタイプの箱で、大きさ以外は指輪とかが入ってそうな見た目をしていた。
「おめでとうプランちゃん」
少し気まずそうに言うリカルドに、プランは微笑んだ。
「ありがとうリカルド。だけど、そこから指輪とかが出てきたら私は困るわよ。または怒るわ」
「いや、大丈夫だ。そんな恥知らずな事はしない。……渡す前に聞いてくれないか」
珍しくまじめな様子のリカルドに、プランは頷いた。
「うん。何かな?」
「ああ。ハルトの事なんだ。本当はコレ、ハルトとの共同プレゼントだったんだが、あいつ突然俺一人で渡すように予定を変えたんだ。だからハルトが何を送ったのか知らないけど、微妙な物でも誤解しないてあげて欲しい。わざわざ俺の気持ちを汲んでそうしてくれたんだ」
それを聞いてプランは噴出した。
「ふふっ。黙ってたら良いのに、どうしてわざわざソレを言ったの?」
「ああ。友人の気持ちを無駄にするかもしれないが、それでもハルトが――ダチががんばってたのをなかった事にはどうしても出来なかったんだ。これは俺だけじゃなくて、ハルトと、五人の兵士達のがんばりがあってこそ手に入った物だからさ」
プランはリカルドの事が何となく理解出来た。
口や態度は軽いが、全てが本気なのだ。
プランへの想いもハルトへの友情も、その全てが平等に重く、リカルドの中では大切な物として納められていた。
「大丈夫よ。ハルトもちゃんとしたプレゼントをくれたから」
そう言って胸元のペンダントを見せると、リカルドは微妙な顔をした。
「あれ? どうしたのリカルド」
「……正直に言うと、ハルトがちゃんとした物を送ったという安心感と、プランちゃんが他の男の物が送った物を身に着けているっている嫉妬のはざまにいる」
「……ぷっ。本当にリカルドは……。本当に面白いわ」
プランは我慢できず、その場で笑い出した。
それをリカルドは苦笑しつつ、誤魔化すように頬を掻いた。
「まあそう言うことなら遠慮なく、皆も許してくれたし。俺一人からの特別なプレゼントという事で。プランちゃん。誕生日おめでとう。これが俺の気持ちだよ」
そう言ってリカルドは箱を開け、拳よりも大きな輝く白い玉を見せた。
「ありがとう! ……んで、それ何?」
「え? 真珠」
「でかっ。え、うそ? 私の拳の倍くらいあるじゃん!」
プランは目を丸くして叫び声を上げ、その声につられて全員がその真珠を見に群がった。
「うわっ、本当に大きい」
アインがたまげた様子でそう口にした。
「……時価総額いくらになるのでしょう」
フィーネがまじまじとそれを見つめた。
「おや、フィーネ様は男の贈り物の値段を気にするような方でしたか」
そんなフィーネをからかうように毒を吐くヨルンに、フィーネはむっとした顔でヨルンを見つめた。
「いえいえ。そんな事はしませんよ。ですが失礼をしてしまいました。どうやらここにいると性格の悪い人の影響を受けてしまうようで」
そう言いながらフィーネはヨルンの方を見ながら嫌味ったらしく呟いた。
「……あの二人の喧嘩は何故か微笑ましい気持ちになるわね」
プランの言葉にハルトとリカルドはうんうんと頷いていた。
「というわけで、割と貴重品だから売って何か欲しい物でも買ってくれ。たぶん高価な物だから良い値で売れるはずだ」
リカルドがそう言うと、プランはむっとした表情を浮かべた。
「さすがに私でも、自分のことを想ってくれる人の大切なプレゼントを売るような事はしないわよ。……貧乏すぎて売る事があるかもしれないけど……その時はごめん。それでも、出来るだけ大切に持っておくわ。本当にありがとう」
その言葉にリカルドは頬を掻き、表情を変えずに後ろを向いて去っていった。
その仕草は鈍感なプランでも、リカルドが照れていた事くらいは理解出来た。
なんとなくプランも気恥ずかしくなり、その真珠の方を見つめた。
本当に大きくて、重たくて、何度見てもとても真珠には見えない。
透けてはないが、その見た目は占い師が持っている水晶玉にしか見えなかった。
プランは貰ったプレゼントをテーブルに置いて見つめ、にやにやとした表情を浮かべた。
これほど盛大な誕生パーティーは今まで一度もなかった。
それでも、一つだけプランには物足りない、というよりは、心にしこりが残って喜びきれないでいた。
なぜなら、今年はココに父がいないからだ。
父はもう誕生日を祝ってくれないし、父の誕生日を祝うこともできない。
――それでも、皆がいるから私は前に進めるよ。お父さん
プランはそう思いながら、寂しい気持ちを埋める為に、この場にいる人達に絡みに行った。
この縁と、絆を大切にしたいと考えて――。
確かに父がいない寂しさはある。
それでも、父との思い出を胸に、前に進む事が出来る――プランはそんな気がした。
ありがとうございました。




