16話 皆の抱負と意外な贈り物
台風の為午後が丸々暇になったので書けました。
話は進みませんが、まったりと楽しんでいただけたら幸いです。
疑問や報告等何かあればご自由にお願いします。
「というわけで、皆で自己紹介をしましょう」
おやつ時に、武官、食客をわざわざ集合させて、プランはそう言い放った。
ちなみに今日のおやつはライ麦クッキー。ぱっさぱさな上に甘さ控えめ。
なのに何故か美味しい不思議なおやつ。
「はあ。いやさ、俺らに自己紹介の必要あるか?」
そんなことを言うハルトに、チョップを叩き込むプラン。
「シャラップ!兄さんが戻ってきて急に増えたリオとリカルドのリ勢の説明とか!その他もろもろとかいるでしょ!」
そう叫ぶプランだが、リオもリカルドも大まかな事情は知っていて、その上プランより先にミハイルに挨拶に言っている。
つまり、無駄と言って良い。
「あと、ついでにお互いの目標とか抱負とか言いましょう。私もそれを参考にするから」
「なるほど。それなら良い案ですね」
プランの提案に、リオが頷きながらそう言った。
「じゃあ、領主様からよろしく」
リカルドの言葉に、プランは頷いた。
この客間にいるのは、プラン、ハルト、リオ、リカルド、ミハイルの昨日の夕食メンバーである。
ヨルンはいつも通り、修羅場の真っ最中だった。
「というわけで、私、プラン・リフレスト。リフレスト領唯一の生き残りかっこ棒読みよ」
リオとリカルドが小さく拍手をした。ミハイルはその言葉に苦笑していた。
「年は十五でお話好き。多才で知られる有能レディよ」
きりっとかっこつけるプランに、ハルトが呟く。
「容姿と領主としての能力。あとついでに算数が壊滅してるけどな」
プランはその意見を全面的に無視した。
「あと、私の抱負より前に、今回忙しくてこれなかったヨルン・アイス二十歳から抱負を受け取ってまいりました」
プランは、預かった紙を皆に見せた。
『過労死を、しない』
書きなぐる様に、ただそれだけが書かれていた。
……。
沈黙が流れ、悲しい空気が辺りを漂った。
「というわけで、私の抱負は、領の内情をマトモにする。とりあえずは、仕事の分散、効率化を目標に考えてるわ」
プランの意見に、全員が小さく拍手をした。
確かに、領主の最優先の仕事だ。
ほとんど脅迫に近い、ヨルンの残したメッセージを受け取った全員は、そう強く思った。
「さて、次はハルトよ」
プランの言葉に、ハルトは頷いた。
「ハルト・ゲイル。十七歳。プランの幼馴染みたいなものかな。一応筆頭武官をしている。のだが、あんまり向いてない。自分で言うのもアレだが、俺はイノシシみたいなもんで、突っ込む方が性に合ってる」
その言葉に、プランは何度も首を縦に振った。
「だから実際の指揮はリオに丸投げするつもりだ。一応身体能力だけならこの領内で一番強いと思っている。その辺りを考えて、俺に頼みごとをしてくれ。あと、馬は得意だぞ」
ハルトの言葉に、リオが同意する。
「そうですね。馬術は私よりも、遥に優れています」
ハルトは少しだけ、照れくさそうに笑った。
「あと抱負は……。まあ長所を伸ばすか。タイマンでリオに勝つ!だな」
その獰猛な笑みは、挑戦状と近い。
リオは微笑みながらその挑戦状を受け取った。
「はい。ハルトらしいケダモノの様な自己紹介でした。次、騎士リオ。お願いね?」
ハルトは、プランの物言いに文句を付けようか悩んだが、回りの邪魔になりそうなので堪えた。
「プラン、後で覚えとけよ……」
ハルトの小さな呟きに、プランは耳を塞いで聞こえないアピールをした。
「では、紹介に預かりました。騎士リオです。諸事情で姓はありません。ただ、貴族としての所作と剣術、馬術、弓術、指揮は学んできました」
思ったより有能で、これはハルトのほぼ上位互換では無いだろうか。
そうプランは思ったが、黙っておいた。
姓については出来るだけ触れないとプランは決めていた。
姓が無い人というのは、それなりにいる。
例えば、セドリの村の人はほとんど姓が無い。
奴隷上がりだったり、家から勘当されたりという場合は最初から姓が無いし、移民した場合も姓を失う。
逆に姓を貰う方法はそれほど難しくない。
持ち家を持ってそこに住み、跡取りが出来た場合は、姓が貰え、後はその家に居る限り、子々孫々姓ある家系となる。
「一応、貴族階級としての騎士にはなっていますが、そうでは無く本当の騎士になりたいと考えています。なので抱負は、己の信じる騎士になる。ですね。未だに騎士道とは何なのか、見えもしませんが」
苦笑しながらそう呟くリオに、皆は拍手を送った。
「ところで騎士リオ。あなた歳は?」
幼い顔立ちで、見た目だけならプランに並ぶ位だろう。
だが、その立ち振る舞いは立派な騎士そのもので、いくつなのか予想も出来なかった。
「あ、今年で二十二になります」
言い忘れた様に軽く言うリオに、周囲の空気は固まった。
「えっ」
プランは小さく呟いた。おそらく、誰もが同じ気持ちになっただろう。
「まだまだ若輩者ですが、よろしくお願いします」
そう丁寧な口調で下手に出ているのが、ここにいる最年長だった。
「じゃ、じゃあ次は、リカルド。よろしく。あ、変なこと言ったら怒るからね」
プランの言葉に頷いて答えるリカルド。
「はいはい。食客として招いてもらっていることになってるリカルドだ。元猟師だから弓が得意で、縁があり魔法が使える。歳は二十で、今はセドリの村とこの館を行き来している」
「縁って?」
プランの質問にリカルドは答えた。
「ああ。狩りしていたら偶然妖精石が手に入ってな」
妖精石とは、魔法を使う為に必要な妖精と契約をする為の石である。
魔法使いが希少な理由は二つある。
一つは、才能が無い人間はどうしても魔法が使えないから。
もう一つは、妖精石は非常に高価で、希少だからだ。
妖精石の手に入れ方は様々だ。鉱山の中に入っていた。溶岩の底に沈んでいた。魔物の腹から出てきた。または、ある日突然降ってきたとか言う事もあるらしい。
本当にどこで手に入るのか想像も付かないが、それでも手に入るのは一万人に一人程度の割合だ。
だからこそ、魔法使いは非常に重宝される。
「ふーん。魔法が使える人の元に、妖精石が来たと考えると、ちょっとロマンチックよね」
そう微笑むプランに、リカルドは曖昧な笑みで答える。
実際は、魔物の腹を捌いていた時に出てきたから、ロマンチックというよりは、スプラッタな出会いだった。
「んで抱負、目標だが、食生活の改善だな。食は力だ。本来良い物を食うのが当たり前な館内の人間が、この食生活では駄目だと思う。だから、近いうちに何か食生活が良くなる方法を考えるわ」
リカルドの意見に、全員が惜しみの無い拍手を送った。
ずっと、そうずっと待っていたその意見。
誰もが一度は考え、そして現実の前に打ち崩れた。
人手も足りず、道具も足りず、そして畑も手一杯。それでも、もし改善出来るなら、それは本当に素晴らしいことだ。
尊敬の眼差しを一身に受けるリカルドは、予想外な対応に呆然としていた。
「任せた。予算以外は出来る限り手を貸すわ」
とプランが言い。
「力仕事は任せてくれ。俺一人なら割と時間空けられる」
とハルトが続く。
真剣な様子の二人に、やっぱり我慢していたのかと、リカルドは苦笑し頷いた。
それにしても予想外だったわ。
『領主様を射止める』
『一番星になる』
とかそんな抱負を言うと思っていたが、思った以上にまともでちょっとびっくりした。
それならそれで恥ずかしくなくて良いけど。
プランはそう思った。
「じゃあ最後に、兄さんよろしく」
プランの言葉に微笑みながら頷いて、ミハイルが立ち上がった。
「ミハイルです。姓はありませんかっこ棒読み」
プランの口真似をするミハイルに、プランはくすっと笑った。
それを見て、ミハイルも釣られて笑った。
「食客として今ここにいますが、将来的には文官を目指し、領主の補佐を考えています。歳は二十です。後は、……何も言うことが無いつまらない人間ですね」
苦笑するミハイルに、プランが割り込む。
「はーい。妹思いの優しいお兄さんって文章が抜けてまーす」
ミハイルは微笑み頷いた。
「自慢の妹が領主をしてます。ということで抱負は、妹を幸せにするで」
リカルドが誰よりも早く、大きく拍手をした。
それにつられ、全員が拍手をした。
「それじゃあ一周終わったし解散かな?」
リカルドの言葉に、プランはちっちっちと指を振った。
「まあまあリカルド君。ちょっと待ちたまえよ」
そう言いながら、プランは大きな箱を指差した。
「ハルト。ちょっとアレこっちまで持ってきて。慎重に」
プランの命令に、「あいよ」と答え、大きな木箱をプランの前に持ってきた。
「これで良いか?」
「おっけー。ありがとね」
プランはその箱の上蓋を取った。
中に入っているのは木製の玩具だった。
「かなり出来が良いから、欲しいのあったら持って行って」
赤ちゃん向けのゆらゆら動く馬などもあれば、やたらと出来の良い騎士の木像などもあった。
また、適当に投げ入れられている神の像なんかは、迫力すら感じるほどだ。
これら全て、安物ではありえない拘りが感じられた。
「これは?」
ハルトの質問に、プランは答えた。
「ダーさんの手作りの品。リフレスト村の亡くなったお爺さんの、私宛の遺品」
慈しむように、プランは箱の中を見た。
このうちの半分は、プランにとって思い入れの強い物だった。
遊ぶ時に貸してくれたり、かっこよく出来たとダーさんが自慢した物だったりと様々だ。
もう半分は領主祝いらしい。
騎士や馬兵の像は、館に並べても雰囲気が出るほど良い作りだった。
また箱の中に適当に詰められた木製の玩具達は、作るのは真剣、後は適当なダーさんらしい性格が表れていた。
「ということで、大切にしてくれるなら好きに持って行って良いよ」
そう言いながら、プランは自分のお気に入りの熊の彫刻を中から取った。
熊と言っても、テディベアの様な愛嬌ある熊では無く、今にも鮭を川から取りそうなほど、リアルな熊だった。
「それがお気に入りなのですか?」
リオの質問に、プランは満面の笑みを浮かべて頷いた。
その後で、中をがさがさと漁る男陣営。
リオは迷わず、騎士の彫刻を取った。
フルプレートに身を包み、槍を天に掲げる騎士像は、リオにとって理想の騎士に近かった。
ミハイルは、イノシシの彫刻を取った。
こっちは熊とは逆に、デフォルメされていて、妙に可愛らしかった。
「私みたいな堅物が部屋に飾るなら、これくらいの方が良いでしょう」
ということらしい。
ハルトは指先くらいの小さな人形を沢山選んでいた。
これを使って指揮の練習をするらしい。
リカルドは、手のひら大の箱を見つけた。
それはプランも見たことが無い箱だった。
「領主様。開けても?」
リカルドの言葉に、プランは頷いて答える。
リカルドが丁寧に梱包された箱の蓋を取ると、中には手紙と、手のひらに握ると隠せる程度の、大きな白い宝石が入っていた。
リカルドは、その宝石を丁寧に箱に戻し、手紙と共にプランに手渡した。
「やっぱり、俺の惚れた人ってのは凄いわ」
リカルドはそう小さく呟いた。
『プランちゃんへ。領主就任おめでとう。木を削っていたら出てきたけど、誰も使えそうにないからこれを送るね。きっとプランちゃんなら使えると思う』
そう書かれていた。ダーさんは字が書けないし、この時はもう字を書く体力も無かったから誰かが代筆したのだろう。
そっと、中に入っていた宝石をプランは握り締めた。
「それで、これって何?」
プランは周囲に聞いた。周囲は信じられない物を見る目をしていた。
使いこなせるとか言われても、そもそも何かもわからなかった。
「妖精石だよ。それも、かなり純度の高い。本当に希少な妖精石」
「は?」
リカルドの回答に、口をあんぐり開いて呆然とするプラン。
元気だった頃、やたらといたずら好きだったダーさんの笑い声が、プランは聞こえた様な気がした。
ありがとうございました。
毎回ですが、出来るだけ絆という物をテーマに書きたいと思っています。
うまく表現出来たら良いのですが。
書いても書いても、上達した気はせず、努力が空回りしている様な気がしますが、それでもとりあえず書き続けます
不器用な人間なので、結局書く事しか出来ませんからね。
こんな人間の作品ですが、楽しんでいただけたた幸いです。




