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男爵令嬢の辺境領主生活  作者: あらまき


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9話 先代は山の見回り、していない。割と先代、おっちょこちょい。

 

 先代のミスが発覚した時、それはどう対処すべきなのだろうか。

 プランは俯きながら、その問題を考えた。

 プランだけで無く、ハルト、ヨルン、リオも俯いたまま、悲痛な表情を浮かべていた。


 お父様……なんつー置き土産残していくんですか……。

 天国にいると思われる父に、許されるなら思いっきり文句を言ってやりたかった。



 ことの始まりは領地内の見回りの時だった。


 森林を使った狩りで夕食を豪華にするという、報酬制を導入した瞬間、兵士達の練度はこれでもかと伸びていった。

 広く、動物達の楽園と化していた森林だから枯渇の心配も無い。

 そのおかげで、大量の毛皮も手に入った。村や館内の冬篭り用の毛皮は足りているから、これはそのまま資産に換えられる。

 これにはヨルンもにっこりだった。



 兵士達の練度がそれなりに信用出来る物となった為、兵士五人一組で見回りをさせることにした。

 村の周囲と館周囲の定期的な見回り。それは今まで武官の仕事だった。

 そしてその代わり、リオとハルトは今まで出来なかった遠方の見回りが出来る様になった。

 いくら地方の寂れた領地とは言え、この前の盗賊みたいなこともある。

 先代の頃の様に、もっと見回りに力を入れないと。

 そう思っていた。

 ハルトが、拠点化した盗賊の住処を発見するまでは……。


 最初話を聞いた時には大いに喜んだ。

 拠点化したなら良い臨時収入になると。

 だが、悲痛な表情を浮かべるハルトの話を聞くと、そんなことも言えなくなり、皆にその表情が移った。


「さて、ハルト。もう一回説明して。何か考えるから」

 もう放置しよう。そう思う気持ちを忘れ、ハルトに現場のことを説明させた。


 領地内の小さな山。その上の方で畑を発見。

 気付いたら盗賊らしき集団がいた。周囲に柵などしっかりとした準備がされていることから、最低でも二年前から居たと想像出来る。

 弓なども用意されていて、ファストラ村よりは防衛能力が高い。

 ここまでは良かった。問題なかったんだ。

 ごり押し武官アタック相手は死ぬが使えるのだから。


「それで、どんな人がいたんだって?」

 プランの質問に、ハルトは重く口を開いた。

「お年寄りが、赤子の世話してた……子供達が幸せそうに走り回っていた」

 それを聞いた瞬間。全員の思考がストップした。


 ……どうしよう。


 全く何も思いつかない。

 放置は駄目だ。知ってしまった以上、領主としての責務がある。

 だが、今までみたいに壊滅からの引渡しは後味が悪すぎる。


「騎士リオ。盗賊団を打ち滅ぼすのって騎士道的にどう?」

 プランの言葉に、リオは首を横に振った。

「私にはわかりません。ですが、騎士道以前に人の道に反している様に思いますね」

「うん。私もそう思う」

 そんなプランの言葉を聞いて、ハルトは提案した。


「……俺なら出来るぞ。行って来ようか?」

 つまり、盗賊達が泣き叫ぼうが、女子供だろうが、構わずひっ捕らえてくるとハルトは言っていた。

 その言葉がハルトの優しさだと、プランは知っている。

 誰かの代わりに泥を被る。幼い頃からの付き合いだけど、そこだけは昔から一緒だった。


 まあ、泥を被るというなら、代わりに苦労してもらおうか。プランは一人でほくそ笑んだ。


「では、騎士ハルト。領主として命令します」

 珍しく真面目な言葉遣いに、ハルトも反応し跪く。

「どのようなことでも」

 うむ。言動は取った。

「領主をその場所まで案内せよ」

「はっ!……えっ?」

 跪いたまま、挙動不審になるハルトに、プランは笑いかけた。

「とりあえず、話し合えば良いんじゃないかな?」

 リオは理解出来ず呆然とこちらを見ていて、ヨルンは頭のおかしい人を見るような目で、こちらを見ていた。

「冗談だよな?」

 ハルトの不安そうな声に笑顔で首を横に振るプラン。

「護衛よろしく!」

 プランが本気だとわかると、三人全員、頭を抱えだした。




「なあ、やっぱり辞めないか?」

 馬に乗ったプランの横を歩きながら、ハルトがそう尋ねる。

「ん?騎士の名前で何でもするって言ったじゃん」

 にやにやとした口調でふざけるプランに、ハルトは呆れた目を向けた。

「お前がどうにかなったらこの領は終わるんだぞ。俺を行かせれば早いし、交渉したいならヨルンの方が得意だろ」

「うんそうだね。それで、相手の望みを即座に実行できるの?」

 そう言われて、ハルトは何も言えなくなった。


 相手も口約束だけでは信用出来ないだろう。

 だが、領主本人がわざわざ出てきたらどうだろうか。


 それだけで本気だと相手もわかる。手段としては間違いでは無い。

 ただ、ハルトは、これが正しいとは思えなかった。リスクとリターンが合わなさ過ぎる。

「それで襲われたらどうするんだよ?」

「あら?守ってくださらないのかしら?」

 にやにやしながらハルトの方を見ながらそういうプラン。

 今日は調子が悪い。何を言っても言い負ける。

 ハルトは諦めて、黙ったまま移動を始めた。


 ハルトもわかっていた。自分なら絶対に守ってくれる。そう信じているから、プランはこの場に出てこれたと。

 だったら騎士として、ハルトのすることは一つだけだった。



 山の下まで着いて、馬をその辺りに隠しながら繋いだ紐を木に括り、プランとハルトは山を登った。

 斜面もそこまで急で無いし、それほど高くも無い。代わりに何も無い、本当にただの山だ。

 だからこそ、先代も見回りを今までしてなかったのだろう。


 ハルトは通りやすい様に剣で枝を切りながら、山の中を掻き分け進む。プランはその後ろを楽しそうに歩いた。

「はぁ。これで運動神経良いからお前は性質悪い」

 山登りにもかかわらず、全く疲労を見せないプランに、ハルトは独り言の様に呟いた。


「うっわー。確かにこれは反応に困る」

 プランは目的の場所を遠くから見ながらそう呟いた。

 動物避けの柵の中に、家や畑があり、子供達が遊びまわっている。

 そこだけ見たら村の様だが、入り口には体格が良く、鎖がちぎれて自由になった手枷に繋がれた盗賊、というよりは犯罪者らしき人が見張りをしていた。

「それで、どうするんだ?見つからないうちに見張り倒すか?」

 強そうな見た目だが、プランはあいつが実は強くなくて、むしろ気の弱いタイプだと予想した。

 というか間違い無い。ただの思い込みだが。


「よし。このまま二人で入り口に正直に言って開けて貰おう」

 ハルトはシンプルに、冷たい目のまま溜息を吐いた。

「せめて俺の後ろにいろよ?」

「はーい!」

 二人は隠れるのを止め、そのまま見張りの方向に歩いていった。



「貴様らは何者だ!」

 見張りはこちらにすぐに気付き、妙におどおどしながら、槍をこちらに構えた。

 やっぱり大して強くないな。気は優しくてなんとやらタイプに間違い無い。

 プランは勝手にそう思い込んだ。


「私の名前はプラン。リフレスト。この辺りの領主です。あなた達の代表に挨拶したいんだけど?」


「あ、あわわわわわわわ」

 その言葉に顔を青くしながら見張りは、門を開けたまま中に入って行った。


「……、なあ、このまま中に入った方が早くないか?」

 確かに。そう思ったが、それはそれで申し訳無い気がした。

「ここで待ちましょう。もし門が閉まったら、その時はダイナミック入村しよう」

 ハルトはその提案に親指を立てて答えた。


 ざわざわとした騒ぎ声が中に響き、暫くすると二十人程の男達が入り口に集りだした。

「どう?勝てそう?」

 小さい声でひそひそと呟くプランに、ハルトは渋い顔をした。

「十九人には勝てる。ただ、真ん中の一人はタイマンでも無いときついな」

 プランは言われたその一人を見る。


 二十前半位か。少し細いが長身で、すらっとしているがしっかりした体型の男。その背が少しだけ妬ましい。

 顔はイケメン、というか甘いフェイスという奴だろう。丸顔と良く言われるプランにはその顔が腹立たしかった。

 薄い紫がかった髪に、グリーンアイ。あまり見ないタイプの人種だった。特に、緑色の瞳をプランが見たのは初めてだった。

 他の男達は、皮で作られた防具を着ていたが、この男だけはただの布の服だ。

 とてもハルトが苦戦する相手にはプランは見えなかったが、ハルトが言うならそうなのだろう。


 その青年が一人でこちらに歩いて来た。

 ハルトの見込みどおり、この中で一番強いのだろう。


「領主様か。俺達は棄民、いや嘘は良くないな。盗賊団だ。それで、何か用かな?」

 名前も名乗らず、上から目線の青年。ハルトは警戒しているが、プランはハルトを退けて前に出た。

「おい!」

 必死に止めるハルト。それを無視してプランは前に進んだ。

 話し合いをするんだ。殺し合いじゃない。ならば、せめてお互いの顔が良く見える距離まで行くのが常識だろう。

 てくてくと歩を進めるプランに、青年が酷く驚いた顔をした。


「さて、私の名前はプラン。あなたの名前を教えて?」

 領主としてでなく、隣人として、プランは青年に話しかけた。

 青年は酷く驚いた形相を浮かべた後、プランの傍に行き跪いた。

「おお私の花よ!薔薇の様に気高いあなたを見て、私に電撃が走った。あなたに愛を囁く名誉を!」


 ……。


 ん?





 んん?


 なんだこれ?

「おい。プラン、固まるな」

 ハルトの声にようやく我に返ったプラン。

 対処出来ない事態が来ると固まると、プランは初めて理解した。

 自分は良く人にしているのに、されたことは今まで無かった。


「薔薇というほど赤く無いけどな私の髪。むしろ茶色じゃね?」

 ハルトに尋ねるとそのまま頷いた。

「そうだな。玉葱とかの方がお前らしいと思うぞ」

「ははは。帰ったら覚えておれよ、こやつめ」


「笑顔も大変美しいです。薔薇の君よ。俺の、いえ、私の名前はリカルド。この盗賊団の主をしています」

 リカルドが一言何かを発するたびに、背筋に寒気が走るプラン。

 せめて口説くならもう少し考えて欲しい。気障過ぎて蕁麻疹が出そうだ。

「よ、よろしくリカルド。私のことはリフレストと呼んで」

 人生で初めて、プランは人に苗字呼びを強要した。


「了解しましたリフレスト様。所で、真面目な話の前に、一番重要な話をしても良いでしょうか?」

「ええ。その為に話し合いに来たのです。何かあったら何でも言って頂戴」

 交渉の前に、相手の望みを聞く。それをすり合わせて答えが見つかるとプランは考えていた。

 こちらの理想を押し付けるのも駄目だし、相手の言う事をそのまま拒絶するのも駄目だ。

 お互いがお互いを尊重し話し合う。そうすれば、きっと答えは見えると信じていた。


「では、私をあなたの一番星にしていただけないでしょうか?」

 リカルトは自分の胸に手を置いて、気障なポーズを取りながらそう囁いた。

「あ、ごめんなさい。無理です」

 プランは相手の言う事をそのまま拒絶した。


 そのまま倒れこみ、地面に両手を置いてリカルドは嘆きだした。

「何故だ!俺は本音を言ったのに!何故伝わらない!」

 プランしってるー。これアホの子だー。ははは。

 何もかも……心の底から面倒になってきた。

 これが相手の作戦なら間違い無く最高峰の策士だ。


「もう、ハルト、ゴーで終わらせようかしら」

「おう。俺はそれでも良いぜ」

 後ろでやる気満タンのハルトがそう呟いた。


「そうもいかないから面倒よね。リカルド様。盗賊達について話し合いませんか?」

 ぴくっと反応し、リカルドは起き上がって真面目な表情に戻った。

「了解しました。それも大切なことですからね」

 さっきの話も至極真面目だったらしい。リカルドの瞳には涙が溜まっていた。


 お互いが長同士として、まずは望みを話し合った。


 リカルドの望みは、このまま現状維持。早い話が見逃せということだ。


 そしてこちらの望みは、盗賊の退治だ。

 最低でも、実際に罪を犯した者をこのまま置くことだけは出来なかった。


「……平行線だな」

 リカルドの言葉にプランは頷いた。

 わかっていたけど、全員を捕らえるという選択肢は取りたくなかった。

 それでも、このままだとそうせざるを得ない状況になりそうだ。


 リカルドは、観念した様なため息を吐き、プランに提案を出した。

「ふぅー。リフレスト様。ゲームをしませんか?」

「ん?どんなゲーム?」


「はい。貴方様の連れている護衛と私、どちらが勝つと思いますか?」

 その言葉に、ハルトは眉をぴくっと動かした。


 リカルドの提案はこうだった。

 もし自分が勝ったら、見なかったことにしてほしい。税代わりに何か払う。

 もし自分が負けたら、観念して何でも言うことを聞く。

 プランはこの提案に、比較的好意的に考えていた。


「リカルド様、質問よろしいですか?」

「様などいれず、是非フレンドリーにお話かけください」

 それが嫌なんだよ、とは言わず、プランは愛想笑いで誤魔化した。

「それでリカルド様。この中で重犯罪を行った方はいらっしゃいますか?」

 リカルドは笑いながら答えた。

「私だけですね。商人殺しなので指名手配されていると思います。代わりに他の人達は大した罪はありませんよ。作物泥棒くらい?」


 つまり、どうやっても彼だけは救えないということだ。

 仮に、ブラウン子爵の所に送ったとしても、農役で済む罪では無い。

 プランはハルトの方を見た。アイコンタクトが通じたらしい。ハルトはプランに対して頷いた。

「良いでしょう。騎士ハルトと勝負して、勝ったら見逃します」

 ハルトはプランの前に出て、古びた鉄の剣を構えた。



「もう一つ。勝った時の報酬をお願いしていいですか?」

 リカルドが気障っぽい格好のまま、プランに話しかけた。

「物によりますが、何でしょう?」

「あなたの名前を呼ぶ権利を下さい」

 きらっと歯を光らせながら、リカルドはドヤ顔でそういった。

「どうぞ」

 それだけ言って、プランはとっとと距離を取った。


 どこまで本気なのか、さっぱりわからない。

 人に振り回されるのってこんなに疲れるのか。

 プランは少しだけ、他の人を振り回すのを止めようか考えた。考えただけだが。


「騎士ハルトだ」

 武器を構えながら、ハルトはそれだけ呟いた。

「リカルド。強いていうなら狩人だ。愛のな」


 ハルトはリカルドを鼻で笑い、そのまま襲い掛かった。


ありがとうございました。

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