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閑話 領主の食生活

 夏の終わりのある日のこと。

 エインタートの領主館で、台所を一手にまかされている若いメイドが、食料庫で難しい顔をしていた。

 そこへ、昼飯の準備を始める頃を見計らい、つまみ食いにやって来た少年が、幼馴染の悩む後ろ姿に眉をひそめた。

「なに唸ってんの?」

「アニエス様のご昼食、どうしようかと思って」

 彼女らの主は、朝夕の食事をダイニングで使用人たちとともに摂るが、昼だけは執務室で書類に目を通しながら食べている。よって、ルーはこれから主のための食事を作り、部屋へ持ってゆかねばならない。

 領主業は昼休みものんびりしていられないらしく、特に新しい会計士が来てからは、以前に増してアニエスは忙しくしているようだ。

「テキトーでいいんじゃねーの? あんま食いもんにうるさい感じしねーし」

「だから悩んでるの!」

 クルツは良かれと思って言ったことだったが、かえってルーを怒らせた。

「ご希望を伺っても、なんでもいいっておっしゃるんだもの。お好きなものも嫌いなものも特にないって。もう十日も三食カボチャスープをお出ししてるのに文句の一つもおっしゃってくれないのよっ」

「うげぇ、それまだ残ってたのかよ」

 ちょうど収穫時期ということもあり、大量のカボチャを領民たちから差し入れられ、少し前まで食糧庫の中はずんぐりした茶色い野菜に占拠されていた。

 そのため、領主館では連日カボチャ料理が振る舞われたのだが、三日続いたところでさすがに皆、辟易し、それぞれがルーに不平を訴えていたのである。

「あの何を出してもうまいしか言わないジークさんですら音を上げたのに。クルツとグスタさんは庭で勝手にお肉焼いて食べ始めるし」

「だってお前、カボチャスープしか作らねーんだもん。先生と会計士のねーちゃんもこっち来てたぜ?」

「だから四日目には別のものも作ってあげたでしょ。でもアニエス様だけいまだに何もおっしゃらないのよ?」

「言われなくても、もうやめてやれよ」

「だってカボチャまだ残ってるし」

「せめてレパートリー増やそうぜ? 食材消費のために主に延々同じ料理食わせるなって」

「でも、でもぉっ、わたしは直接ご希望を言ってほしいの! もう少しがんばったら嫌気が差して、『もっとこういうのが食べたい』とか言ってくれるかもしれないじゃない!」

「普通に訊けよ。お前は何と戦ってるんだよ」

 メイドの的外れな努力にクルツは呆れ顔である。

 一方のルーも全力で叫んだ後には、脱力した。

「・・・正直、わたしのほうがもう同じもの作るの嫌になってきてるの」

「じゃあやめろ?」

「うん・・・今度は瓜をたくさんもらったから、そっちにする」

「やめろってば」



 ◆◇



 この日の昼食で、パンとともに瓜のスープを出されたアニエスは、

(やっとカボチャがなくなったのかな)

 と思っただけで、他にはなんの感慨もなく、書類を読みながらスープにパンを浸し、黙々と飲み下していた。

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