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序
『エインタート領修復報告書』
報告者 アニエス・スヴァニル 建国歴二一二年七月三日
◆修復前の状態記録
二十六年前に在りし八十五村はすべて廃村となった。空き家は廃墟と化し、鳥獣の住処となっている。耕作地と野原の境界はもはや不明。かろうじて領主館のみ原型を留める。
夜間は領地北方の森より魔物が出でて領内を徘徊する。さらに、森には現地で《魔王》と呼ばれる強力な魔人が二十年程前から棲みついている。時折《魔王退治》に赴く有志の団体が領地を訪れるが、悉く敗北し、六月二十日時点で負傷者は五十五名に上った(駐在官日報より)。
また領地の南方には《異界の門》の出現地点があり、異世界生物が迷い込む事案が度々生じている。《門》の出現条件は不明である。
領民の多くは隣接のローレン領に移り住み、一部は王都に流出した。
現状における領民の帰還は、あらゆる面において困難である。