6話「世界案内?デート?」
「よし、一旦冷静になろう」
とは言ったものの、どのような原理であのバカでかい膨れ上がった筋肉が無くなり、もとの170cmの細身にもどったのか皆目見当もつかない。
「ステータス!!」
ピコン
相変わらずの機械音が鳴り響き、目の前に白い画面が浮かび上がる。体が見た目的にもどっているのならば、ステータスの数値にも変化があったと思ったからだ。
しかしー。
「筋力値1000…何も変わってない?」
確かに俺の体は元に戻ったはずだ。ならなぜステータスに変化がない?力だけが残ったのだろうか。
「達也さん…小さくなってしまいましたね」
ルファナは俺の顔を見上げながら、心配した様子でこちらをうかがっている。
「ルファナ!?こ、これにはふ、深いわけが
…」
高速で脳をフル回転させ、複数のいいわけを考える。もしタイタスでないことがバレたとすれば、彼女を失望させてしまうかもしれないからだ。
「俺…実はー」
だが、この姿を見せてしまったのならいいわけもへったくれもない。達也は覚悟を決めて、全てを打ち明けようとしたその時ー。
「ちょうどよかったです!達也さんこっちに来てください!」
「へ?いったいどこに…っておい」
ルファナはいきいきとして達也の手を引っ張り店を抜け出し、大きな街道へと出る。
多くの人が行き交う道をルファナは慣れたようにすり抜けていくが、行き先を知らない達也はすれ違う人と肩がぶつかり合う。
「待てって!目的地ぐらい教えてくれよ」
「それは行ってからのお楽しみです!!」
ルファナはこちらを振り返らずに答える。
そんな無邪気な姿をみて、達也はやれやれと
諦めたようについて行くことにした。
「じゃーん!ここは街で一番人気の服屋の
″ステッカー・プロマイト″です」
「服屋?ルファナの私服買いに来たのか?」
「ち、が、い、ま、す!達也さんずっと半裸のままだから、風邪をひいちゃうと思ってここに連れてきたんですよ」
「あぁ…な、なるほどね」
自分の格好を見てようやくそのことに気づく。筋トレをしてて、服を着ると邪魔になるだろうと思い特に気にしてなかったのだ。
「あれ?てか俺…今かなりの変態じゃね」
だって少女がいる家で、ずっと半裸で筋トレしてるんだぜ?下手したらわいせつ罪とかで捕まってもおかしくないぞこれ。
「行きますよ達也さん…って達也さん?」
「お願いしますポリスメンはマジ勘弁してくれ、ニュースで黒線を顔に貼られるのはイヤだぁ」
達也は地べたに転がりながら、何やらぶつぶつと一人事を言っているが、ルファナは気にせす達也を引きずりながら店の中に入る。
「いらっしゃいませー!どのような物をお探しですか?」
「この人に似合うのをください」
「かしこまりました。ではこのローブとかはいかがでしょうか」
俺は手渡された黒のローブを着てみるが、なかなかいいものだった。滑らかな肌触りで、感触が良くとても着心地がいい。
「だけどやっぱ動きにくいなぁ。この服は俺には合わないと思う」
「そうですか?私は似合うと思うんですが」
「なら、お客様のイメージする服装を作ることができますが、いかがでしょうか?」
そんなことができたのか…さすが異世界なんでもありだな。
「じゃあ、お願いします。服のイメージはだいたいできてますから」
「ではさっそく準備をしますので、少々お待ちください」
そう言うと店員が4人で円のようなものを書き始めた。最初にこの方法を勧めなかったのは、準備に手間と時間がかなりかかるからなのだろう。
「達也さんはどんな服にしたいんですか?」
「俺が昔から着たい服があったからそれに決め
たよ」
俺が着たいと思ったのは学ランである。確かにここに来た時も制服を着ていたが、はっきりいってネクタイが付いたものは自分でも似合わないと思ってるし、なによりも学ランは男って感じがして良いんだよなこれが。
「お待たせいたしました。術式が完成いたしましたので、どうぞこちらへ」
店員が奥の部屋へと案内する。そこには半径1mの魔法陣らしきものが描かれていていた。
「魔法って凄いな、なんでも生み出しちまう」
「これは魔法じゃないですよ、正しく言えば錬金術です。魔法は自らの魔力をもとでに呪文によって超常的な現象を起こしますが、錬金術は術式を書き、対価をもとでに物を創造するんですよ。
そもそも術式というのはー」
「わ、わかった。ルファナの言いたい事はすこぶる理解したから、だからもう説明は大丈夫だぞ」
俺はすぐにルファナを静止させる。絶対にこれ長くなる奴だろ、何時間かかるかわかったもんじゃない。
「もう…本当にわかったんですか?まぁでも
今は服選びに専念すべきですよね。続きは家に帰ったらにしましょうか」
「お、おう。そうしてくれルファナ先生」
説得をして、ひと仕事終えた俺は術式に手をかざし頭の中で学ランをイメージした。
「こんな感じかな?」
「仕上がるのにもう少し念じる力が必要ですので、もっと強くイメージしてください!」
「わかりました!えーと…学ラン、学ラン」
必死に脳内で学ランのイメージを作り上げている途中で何故か、本当になんでだかわからないが、中学卒業するときの小百合の姿が閉じていたまぶたの裏側に浮かび上がる。
「ねぇ…達也…」
「どうした?小百合…」
「あなたを…にしたい」
「……だめだ…それは…できない」
「ど…して…」
記憶の断片ぐらいしか思い出せないが、あのとき小百合は何を言っていたのだろうか。
いや…思い出したくない。きっと嫌なことを言われていつも通りツッコミをしたのだろうと、今の俺はそう考えるしかできなかった。
「だけど、2年前の記憶だし覚えてないのも当たり前かな」
この世界に来てからずっと俺は一人だ。
今はルファナに助けられていて安心だが、小百合と尚人は今頃何をしているのだろうか、ちゃんと生きているだろうか。
(なんか…急に寂しくなっちまったじゃねぇか)
思い出にふけっていた所で、達也は重大なことをし忘れていることにすぐ気づくことになる。
「完成しました!…ってあれ?」
「しまったぁぁぁ!!他のこと考えてたぁぁ!」
術式がかかれた床の上にはセーラー服が置かれていて、どこにも学ランらしき服はなかった。
「お客様の想像とは別の物ができましたが…いったい何を考えてたんですか」
「達也さんが着たかったのはこのかわいい物なんですか?」
おそらくさっき中学時代の小百合の姿を思い出したときに、それが念じる力となって具現化してしまったのだろう。
ルファナと店員が質問責めしてくるが、何て説明すればいいんだろうか。
「ちがぁぁぁう!ちょっとこれはち、失敗だよ。やり直しするじょ!」
ダメだ、テンパってセリフの所々かんでしまう。最高にダサいぞ、俺よ。
「もう一回だぁ!」
達也はもう一度手をかざし、しばらくすると術式が光りだし、黒色のズボンと金色のボタンが付いた上着のセットの学ランが現れる。
「おお!これだよ、俺が着たかったのは…
ってワイシャツないのか。まぁ贅沢は
言ってられないし、ないよりはマシか。」
達也は上着ボタンをしめずにそのまま着る。
本来なら不良だとか、校則違反だとかうるさいが、ここは異世界なのだ。あっちの世界とはわけが違うし、そもそも校則すらこの世界にはない。
「ほほぅ…軍服ですか。なかなかお似合いですよお客様」
「こっちでは学ランは軍服に見えんのか。でも似合ってるなら悪くないのかもな」
「そちらの彼女さんともですがね」
「え?」
唐突に言われたことが一瞬理解できなかったが、後ろのいたルファナの頭からボンッと、音がして湯気が立ち上る。俺とカップル扱いされるのがそんなに嫌だったのだろうか。
「つ、次のお店に行きましょう達也さん!」
「わかったから引っ張るなって!」
「ふふっ。ありがとうございましたー」
店員は小悪魔的な笑みをうかべながら、俺たちに一礼する。人って見かけによらないもんなんだな。
「ほら達也さん!ここのお店のワイバーンの
唐揚げとか美味しいんですよ」
「本当だ、うまい!特にこの食感とか、たまんないな」
他にもルファナは、いろいろな屋台や店をまわりながら街の絶景場所や観光名所を案内してくれた。そして俺達は今、都市の歴史博物館にいる。
「ここならこの世界の仕組みについて、わかるかもしれないな」
「達也さんは勉強熱心ですね…ルファナは少しだけ寝ていますね」
「一通り見終わったら起こすから。それまで休んでてくれ」
今日一日中歩き回って疲れたのだろう、ルファナは椅子に座るとすぐに寝息をたてて寝てしまった。俺は上着をルファナにかけて、奥のほうへと進む。
「これは、この都市の昔からの言い伝えか…
どれどれ」
一冊の本を手にして開くと、そこには絵本形式で物語が書かれていた。もちろん読める訳では無いが、この世界の文字は俺の体内に付けてある翻訳機で、勝手に解読されるので問題はない。
「災いが天に降りしき時、八つの種分離せり。 五人の選ばれしものと、新たなる王の誕生の時、 黒き英雄現れ、二つの魔道士の導きにより、全ての根源討ち滅ぼさん…か」
200年前の文章らしいが、だいたいこういうのって
あたるもんなんだよな。
「あんたは考古学に興味があるのかい?」
声がしたほうに振り向くとそこには、一人の男が立っていた。音や気配も出さずにこの距離まで近寄るとは、何者なのだろうか。俺はすぐさまに攻撃の体勢を整え身構えた。
6話「異世界案内?デート?」完