第3話「絡まない道筋」
ミラビリスが天神の正に神にふさわしい神速の一撃で腕を切り落としたとき、シオンは血管がブチ切れそうなほどに血が灼熱と化した。しかし、その一歩だけは踏み止まらなければならない。今が見えなかったのに戦えるわけがない。戦うぐらいなら逃げ出すことが先決。
その怒りを歯軋りと血が出るほど拳を握り締めるだけで留めておいた。それと共に自身の能力を発動する。
『時の捕食』
周りの空間が歪み、時間という概念を喰らうとき、流石の天神。時に干渉してるのに気付き、一瞬でシオンの体を掴もうとするが、発動してしまえば時遅し。その手は空を切り、シオンは一人で過去へと戻る。
サラリーマンが向こうからやって来るのを見て、過去にもどれたことにホッとする。そして、ここはミラビリスと共にやって来た2周目の世界である為に、シオンが何も言わなくとも翼を畳む。通り過ぎると共に真っ先にシオンは口を開く。
「お嬢様。申し訳御座いません。」
「へ?」
突然の謝罪にシオンは驚いて、変な声が出る。とはいえ、ミラビリスといえど、馬鹿ではない。記憶上、謝られることは何もないのだから、シオンはもう一周この世界を多くしているのだと気付いた。
「……何があったの?」
「前と同じ時間帯まで待ったところ前回とは違い、天神が直接出向いて来ました。唯一違う点といえば、勉強した内容くらいなので、いったいどの点で分岐したのか掴めもせず戻ってきてしまいました……。」
シオンは俯き、本気で悔しそうにしてる。
もしも、ミラビリスが居なければきっと涙してるくらいの後悔が心中を巡ってるのが察せるほどの表情だ。
「気にすることないわ。つまり、一周目の時点では遊んでいたのに対し、ニ周目では気が変わっただけかもしれないわ。人と違って、私達や天使達は糸が無いのだから同じ行動を必ずするとは限らないんだしね。」
少しでも慰めの言葉になるよう気にかけて声を掛ける。この説もたった今即興で思い付いたものだが、わりかしいい線を行ってるのでは?と言ってから思い始めた。それに私に記憶を引き継げなかったところを見るに私は前の世界では役に立てなかったみたいだし、正直言えばおあいこだと思う。
けれど、シオンにはシオンの事情があったのは間違いないのだから、軽率にそんなことも言えない。結局のところそれらしい理由を作るしか無いのだ。
「それでは前とは違う場所を探すとしますか。この辺も安全とは言い切れなくなりましたし、申し訳御座いませんが一緒に探しに行きましょう。」
仮にもここから人混みに移動するとなると、この時代に合わせた服装を着なければ変に目立ってしまうのは自らの着てるドレス風の白い服を見て真っ先に思ったことだ。せめて、ワンピースだろう。更に地味にするならTシャツにスカートかデニムかな?只、そんなにも庶民っぽいものを着たいとも思わない。
「シオン、ワンピースに着替えさせて。」
「はい、お嬢様。」
毎回不思議に思うのだが、どんな種があるのだろう?
シオンが高速に手を動かすと、気付けば違う服へと着替えられている。体を触られた感覚は無いし、更に今回に関してはシオンの服装まで変わっていた。Tシャツにデニムという私が考えたもう片方と同じものだ。デザインも私好み。いや、一つ違う点があるとすれば、帽子くらいだろう。
「では、行きましょう。」
ここは黄京都皆徒区。現在のこの国は自然を無くし、コンクリート壁の高層ビルで埋め尽くされている。ここ、皆徒区は都会で雨基の国の中で最も迷いやすい都とも言われてる。元より太陽など暗い雲によって四六時中閉じられてるとはいえ、この都会は朝や昼でも電灯が無けれは暗くて何も見えない。
そんな道は常に混雑としていて、もう少しどうにかならないのかと思うもののこの国の政治家も糸の対象であり、あってないようなもの。この混雑も神の計算のうちであり、治安が良くなることは永久にない。
住民ですら幾つかの道を違えば迷ってしまうのだから、廃墟もたくさん溢れてる。空地も小さい規模ならまちまちだ。だからこそ、1つ手放したところで困ることはないのが唯一の救いだろう。
シオンは任務により地上へ先輩と共に来たことがある。その為、多少の地理なら頭に叩き込んでいる。あれから10年くらい経っているが、天神が文化の歩みを亀と同じくらい遅くさせている為に、大して変わってないだろう。というよりも、こんな迷路を改築するのはまず不可能に等しい。
この街において車やバイクなど何の意味も持たない。
仮にも無理やり通ろうとしても、大衆の暴力により阻まれ、後方からも雪崩のように降り掛かり身動きが取れなくなる。その車から少し離れた者達がそこから遠回りをしようにも周りの有象無象のせいで動けないのだから、負の連鎖が続くばかりだ。更に後方となるとそもそもその車やバイクの存在自体わからないというわけだ。しかも、消極的な人が多い為に話しかけようともしない。
そんな人々が流れてる道を通って改築しようなどと、思う人々はこの街において存在しないのと同意義であるというわけだ。
人の波で圧迫されてることにミラビリスが疲れるのを予測した上で、少し街の外れへと歩いていき、電灯がなくともギリギリ見える色無区に辿り着いた。この辺はたまにバイクが見掛ける程度の場所だが、基本的にはやはり人混みによって遮られるので誰も使わない。
「ねー、ちょっと休まない?」
予想通りミラビリスが休みたいと言ってきた。ちょうどこの辺は裏道は人通りが無く、休むにはうってつけの場所だ。少し汚いという点を除けばの話だが、この状況でそんなことを言ってられないのはミラビリスとてわかっているだろう。
「こちらへどうぞ。」
人通りが完全に途切れた場所で、横幅はギリギリ2人が並んで歩ける程度の広さだ。そこに無造作に置かれた木箱があったので、ミラビリスがそこに腰を下ろす。
「シオンは休まなくても良いの?」
「私は問題ありません。」
色々と聞きたいことがあるのに上手く口が開かない。本当なら話したいことだらけの筈なのに、無言が流れる。ぶらぶらと足で遊んでいると、上から何かが降ってきた。
コンクリートの高層ビルの間にある道や管などその全てを落ちる際の重力に任せて壊し、床に足跡が残るほど深くめり込ませて落ちてきたのは天神。
「少し来るのが遅れたが、向かいに来たぞ。ミラビリス。」
その姿を確認すると共に、ミラビリスの体に触れつつ能力を発動しようとする。
『時の…
「二度もやらせるわけがないだろ!」
天神がシオンの前に立ち、回し蹴りを腹にめり込ませ数十メートル先までふっ飛ばす。それを見たミラビリスは魔術で生成した剣で対抗しようとするが素手で破壊され同じ方向へと飛ばされる。
その方向は先程まで人混みがいた通りなのだが気付けば一人も居らず、人避けの結界でも張っているみたいだった。
「グッ……お嬢様大丈夫ですか!?」
口から血が流れつつも真っ先にミラビリスの心配をする。そして、最悪の展開が今起こったのだと確信した。あの天神の能力も同じく時を巻き戻す系統の能力保持者であると。
これでは時を喰らっても見つかるわけだ。
喰らった後の世界がどうなるのかわからないが、少なくとも天神が能力を発動する程度の時間はあるらしい。力で負け、能力で負け、最悪の展開と言えよう。
これではミラビリス一人だけでも逃がすことすら不可能に等しい。
「この状況で自身の主を逃がそうとする意気は良し。だが、シオン。お前は少しやり過ぎた。ここで死ね。」
またもや、気付けば目の前に天神が現れた。それを避けることなど叶わず、首を締められる。そこに新たに生成した剣で太刀打ちをしようとミラビリスが介入するが、手刀でその剣を持つ手ごと切り落とされる。
「あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁ!!!」
ミラビリスが無い腕を庇い、叫ぶ。声が枯れるまでその痛みの強さを表現するかのように奏でる。
「後で治してやるが、それは罰だ。とくと味わい反省するがいい…。」
ミラビリスからシオンの方へと振り返るとそこにいた筈のシオンが消えてる。それと共に視界の隅のミラビリスも消えた。
「なんだと…?まさか、ミラビリスが…?」
いや、仮に覚醒したとしてもあの一瞬でそれを使いこなせるはずはないし、何よりこの私が気付かない筈がない。
気付けば結界も破られてるみたいで、人混みが押し寄せてくる。数キロ周辺の魔力探知を発動させるもののその二人の気配は無かった。時や空間に干渉する気配はない。
とすれば……
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
ビルとビルの間を超高速で走る女の子が居た。その腕に居るのは気絶したシオンとミラビリスの二人である。既に、黄京都からは抜けていて別の都市へと向かっている。
「まったく~こんなカワイコちゃん二人を苛めるなんてカミサマひっど~い。そう思わない?」
「そうですね。お嬢様、その二人俺が持ちますよ。」
お嬢様と言われた方は茶の短髪でブラウスにミニスカとジャンパー。男性の方は白髪に褐色肌でチュニックにジーンズと濃い緑のモズコートを羽織ってる。
「や~だ~、こんなカワイコちゃん手放すなんて犯罪だわ!」
「はいはい、わかりました。」
軽くいなすように雑に返事するがそこは長年の仲と言った感じで、実の所お嬢様と呼ぶ程度には礼儀を払ってるようだ。
「当然♪」
誤字とか文法であれ?と思ったところあれば、感想下さい。他にも意見とかあればお待ちしてます!