第1話「世界の仕組み」
「この世には、神と天使と堕天使、悪魔、人間が存在します。ミラビリス、その違いは何かしら?」
絢爛豪華な調度品に囲まれた大きな部屋の中で、一人の生徒の為に大天使ヴェルサンディが教鞭を執っている。誰しも最初に目につくたわわに膨らんだ胸は今にも零れ落ちそうで、上着のボタンの幾つかは止められていない。金髪の髪は束ねられていてポニーテール。派手すぎない程度のメガネをかけていると只の教師にしか見えないが、彼女はかれこれ1万年生きていて、大天使の中でも上位に位置する程の権力者でもある。
「髪と羽根です。神と天使は金髪と白翼。堕天使は白髪と灰翼。悪魔は黒髪に黒翼。人間は無翼で髪はその人次第ですね。」
「はい、よく出来ました。では、神と天使は何故変わらぬ姿でしょうか?」
「神も元は天使の出だからです。今期の神は長い間世代交代されてませんが、基本的には千年を区切りとし、世代交代され後継者へと神の力が紡がれていきます。」
「100点満点ね。これなら、そろそろ私の卒業試験を受けさせても良い頃ね。」
「えっ?本当ですか!?」
「えぇ、合格すれば空が見られるわよ~。」
「やったー!!」
「こらこら、女性は淑やかでなければ男性方に笑われるわよ。」
「良いもんー!」
「全く、悪い子ちゃんにはお仕置きしちゃうぞー!」
子供好きな大天使から勉強を教わっているのは、ミラビリス・ファーツリー。金髪ツインテールの幼児体型で可愛らしい顔をしている。少々、冒険心や探究心がある為に、ヴェルサンディも手が焼いてる生徒の一人ではあるのだが、そんなところが好きでこうして仲良くなったのだ。
「それじゃあ、先生は神様に呼ばれてるから、自習しておくように!良いわね?」
「はーい!」
「全くもう……。」
ヴェルサンディがその気の抜けた返事に仕方ないわねと言った感じでノートや本などを持って部屋から出て行った。そして、部屋の前に待機していた執事が部屋に入ってきた。
「お嬢様入りますよ。」
入ってきたその燕尾服の少女は背の高さは違うのだけれど、顔はミラビリスと瓜二つであった。声も全く同じである。
「シオン、二人きりなんだから昔みたいにお姉ちゃんって呼びなさいよ。」
お嬢様と他人行儀に話されたのが感に触ったのか、そう言い返した。このやり取りももう何百回目になるかはわからない。シオンもこのやり取りに対して飽きてるかもしれないが、一縷の望みを賭け、何度も同じことを言ってみてるのだ。
「いえ、私は執事です。お嬢様にそんな失礼なことは……。」
「もういいわ。」
ソファーから起き上がり、窓の前に立つ。
黒い硝子により外の風景など一切見えない。魔法錠が掛けられており、50桁の魔力を打ち込まないと解除出来ない仕組みとなっており、組み合わせなど数え切れないほどに存在する。
その窓が開けられるのはヴェルサンディ先生の卒業試験に合格すること。それのみである。
しかし、そんなことで諦めるミラビリスではなかった。
毎日毎日間違えては次を試して、早300年近くの月日が経った。一人の時を狙って何度も頑張った結果、とうとう見つけてしまったのだ。開けるに必要な魔力の順番を50種打ち込んでいく。その打ち込む速さにシオンも異常を察したのか、こちらへと走ってくる。それよりも早く打ち込みが終わり、窓の鍵が開けられる。
開けられてしまったその窓を見て、シオンが驚いた。
絶対に開けられないと踏んでいた筈の魔法錠が解かれてしまった。その瞬間を狙い、ミラビリスは窓から外へと飛び降りる。
少し遅れたもののシオンも連れ戻そうと飛び降りた。
ここ、神の居城は天高くにあり、人間界からは目視できない。
故に飛んだ先に広がるのはどこまでも続く青い世界だけで、何にもない。ミラビリスとシオンの身体能力を比べるとシオンの方が上だと知っているからこそ、羽根を広げず落ちるがままに落下してる。
空の彼方に位置する太陽とそれを囲うように広大な青空は、400余年の我慢した鬱屈な心を癒やすように清々しく、包むように広かった。感動をし、涙が溢れた。
その涙が次の瞬間に別のものへと変わる。
雲を通り抜けた瞬間に、体が燃えるような痛みが走った。雲の先はどこまでも暗い世界。城で聞かされた人間界とは随分違うものに見えた。これでは人間界ではなく悪魔界ではないか。
目を開けるだけで焼けそうで、体を丸めて堕ちていく。
翼も上手く広げられない。細めから見た翼は汚れきっていた。
そう、まるで堕天使になっているかのように心も一緒に沈んで行く感覚がする。怖い。恐い。寒い。熱い。燃える様な体の痛み。凍えるような心の痛み。自分が自分でなくなるようなその感覚に戦慄する。
ふわりとその痛みが和らいだ気がした。
私を抱いていたのは妹のシオンであった。
「大丈夫ですか……お嬢様。」
相当辛そうな顔をしてるのに平気だと言わんばかりにいつもどおりの笑顔を向けてきた。本当は激痛が走ってるだろうその翼も必死にはためかせて、直撃は避けようと滑空する。
羽根の一枚一枚から喪失していく感覚が確かに私達を襲う。
海に溺れて、藻掻くことを諦め、深海へと落ちていく。
そんな感覚が体の隅から侵食して行く。
けれど、私の心は何も変わらない。
この心の痛みも数百年の苦しみと比べればまだマシだと思えたからだ。
体から熱さえも失われていく。
けれど、私の大切な貴方のお陰で少しは誤魔化せそうだ。
怖くて、つい閉じていた目を開けると、そこには私の目をじっと見て来る貴方の目があった。
貴方も私と同じ痛みに駆られてる筈なのに、気丈に振る舞い、私の騎士としての勤めを必死に果たそうとしている。
あぁ、なんて愛おしいのだろう。
そうして、私はまた目を閉じた……。
気付けば、人生で初の地上へと降り立っていた。
今は不思議と体も心も痛みはない。少し変わったことと言えば風貌くらいだろうか。神々しい金髪からは色が落ちて真っ白となり、この地上の現状を表すかのように白い翼は濁り、灰色へと変わっていた。
男性のサラリーマンが向こうからやって来るのを遠目で見て、人間の特徴を思い出す。人は翼がないのだから、翼など出していたら間違いなく騒ぎになるだろう。
「シオン、翼隠しなさい。」
翼を隠し、その人間が見えてくると、不自然なことに気付いたのだ。
その人間の目に覇気がなく、虚ろである。まるで操られてるかのように見えた。その人間が向かう先の路地に沢山の人間が様々な事情により歩いていた。しかし、その全ての人間はやはり生気なくゾンビのようだった。
「なに…これ……。」
ミラビリスにとってはあまりにも衝撃的で、言葉がそれ以上何も出てこなかった。ただ、唯一その現状を目の当たりにしたことのあるシオンはその質問に答えられた。
「現在の天神であるヒヤシンス様のご意向です。」
「何故、地神は何も言わないの!?」
「地神様は先の戦で重症を負い、悪魔界にて療養中です。かれこれ数千年は眠りから覚まさないそうです。」
「そんな………。」
そこで終わっていれば良かったのだが、一時の感情に任せて、飛びだってしまうようなミラビリスはそのまま見逃すことなど出来る筈もなく行動に出た。人間達から天空へと伸びていた一筋の糸。恐らくはあれを切れば正常に戻る筈。
魔力を込めた蹴りをその人間たちの頭上で一閃する。
見事に切られた糸達は消えていき、その切られた人間達の目から生気が戻る。しかし、それだけに収まらず、空から聖なる超高熱線がミラビリス単体へと降り注ぐ。
「お嬢様!!」
そんなに離れて居ないのもあり、真っ先にその存在に気づいた為シオンがなんとかミラビリスの手を握るがそれと同時にミラビリスの腕以外の全てが光の粒子によって消滅した。
なんとなく第一話書きたくなったので書いてみました。大罪庭園もさっさと書かないとねー。
とりあえず、いきなり主人公死亡するという悲しき始まり方ですね。そこそこ鬱な内容が多い感じの物語ってことでよろしく。
注意点はこれ読んじゃったら大罪庭園と忘虐庭園が少し味気なくなるかも。ですよ。




