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最初の会合2

進が今英悟が言ったことを頭の中で反芻しながら、舞花をじっと見ていた。すると、司が言った。

「確かに、そう言われてみたらそうも見えるな。だが、今日は役職を吊ることは考えてないから、明日以降の話し合いで役職の中から誰を吊って行くのかは決めて行ったらいいんじゃないかな。」

舞花は、蒼白になった顔のままじっと黙って聞いている。すると、15番の北本篤夫が言った。

「オレもグレーだから先に意見を言わせてもらうが、狐のことに言及するのは狐って話もあるぞ。敢えて狐の話をすることで、自分から注意を反らして他を占わせるって算段だ。それとも、もしも本当に狐だと思って言ってるなら、村人以上に狼が狐を鬱陶しいと思ってるはずだと思うから、狼なんじゃないかってね。思うんだが、数から考えて狼が出てるなら占い師だろう。となると、村人には内訳が狼狼真狂真なのか、狼狂真狐真なのか狼狐真狂真なのか全く分からないが、狼からは少なくても狼狼真なのかどうかは分かってるってことだ。今日の黒出しで、仲間以外の真偽も区別がついたはず。堀が狂人じゃないかってのが村の意見だが、黒出てるんだから狼からは確実にどちらか分かってる。もし堀が偽だとしたら、どう考えても狐じゃない。狐が狼に自分の居場所を知らせるようなことはしない。狂人だろう。だったら、霊能に出ているは狐だ。そして、それが分かるのは狼と狐だけ。もしも大西さんが狐だったら、それが分かる英悟は狼だってことだ。」

進は、思わず感心してそれに聞き入った。篤夫は営業部でもバリバリと新規客を獲得して来る凄腕の男だ。英悟や進からは先輩に当たる。普段は頭は切れるが気のいい人で、よく食事もおごってもらったりしていた。その篤夫に敵視されたら、とても手強いのだということが、今のでよく分かった。

英悟が、同じことを思ったのか急いで首を振った。

「オレはオレの思ったことを言っただけですよ、篤夫さん。他の人と同様にもしもそうなら、と仮定して考えただけです。むしろオレは、そこまでこじつけて突っかかって来るっていうのが気になる。もしかして、篤夫さんが狼で、今言ったことをそのまま考えていたんじゃありませんか?それで、オレに疑惑を押し付けようとしてるんだ。それとも、狐が狐を庇っているとか?」

篤夫は、ムッとしたような顔をしたが、英悟を睨みつけた。しかし、何かを言おうと口を開いた篤夫より先に、司が言った。

「確かに、二人の意見はオレよりずっと進んでいるように思う。オレは共有者で村陣営だから、普通の村人と同じようにしか物が見えていない。だからここに居るほとんどの人は、きっとオレと同じ感じだろう。でも、とびきり頭がいいわけでもないオレだから、もっと頭が良かったらきっと村人でも二人ぐらいのことを考えつくんだとも思う。特に篤夫さんは仕事も出来るし、英悟はそれに始終世話されている後輩だ。二人の頭がやたらいいから、そんな風に見えてるのかもしれないし。だが、言っていることはいちいちもっともだと思う。二人がお互いを人外だと疑う気持ちも分かるが、冷静に。まだ他にもグレーは居るから。」

英悟も篤夫も、口を閉じた。司は、ため息をついた…普段仲が良い二人なのに、こんなゲームに参加させられてしまったばっかりに、こんなことになってしまっている。

進も、同じ気持ちなのか黙って険しいが、どこか寂しげな顔で二人を眺めるように見ていた。司は、首を振って情緒に溺れそうになる自分を振り払うと、14の長浜郁人を見た。郁人は同期で総務部の所属で、おとなしい男だった。それでも、芯は強く自分の信じたことは絶対に曲げないところがあった。

「郁人。お前はどう思う?」

郁人は、緊張気味に視線を司に向けたが、その目は怯えてはいなかった。

「…どうなんだろうな。いろいろ聞いても、村人を混乱させる人外の企みなんじゃないかって勘ぐってしまって同じ意見でも間違ってるように思ってしまってな。あくまでオレの勘だが、進は白いと思う。あいつは昔から隠し事が出来ないし、経費の精算だって総務へ持って来た時、それが嘘が本当か見たら分かった。目をつぶっても良さそうなものなら、だから嘘でも通してやったりしたぐらいだ。そんなオレから見て思うに、進は絶対今、嘘をついてない。自分を占うと言われた時も、占ったと言われた時も、だからあんなに落ち着いてたしアホ面して呆けてただろう。黒を出されても、まだ何を言われたのか理解出来てなかったしな。」

進は、顔を赤くした。経費の申請、バレてたのか。

「ちょ、ちょっと待て郁人!オレ、ヤバい経費の申請なんかしてないし…!」

だが、郁人は真面目な顔で軽く首を振った。

「ああ、いいって。今話してるのはその事じゃないから。それにお前が持って来るのは大体本屋とか文房具とかの領収書とかで、高額じゃないしな。お前さ、全部顔に出るから。分かるんだって。」

進は、バツが悪そうにちらと部長の角治を見た。角治は、呆れたように言った。

「まあ聞かなかったことにしてやるから、次からはやめとけ。自分の趣味の分野は自分の給料で買え。」

進は、頷いた。司は、それを横目に見ながら郁人を見た。

「じゃあ、つまりお前から見ても堀さんは偽だって思うんだな。」

郁人は、頷いた。

「推理しなきゃならないのは分かってるんだ。だが、オレはここに居る人達の普段の様子もよく知ってる。総務ってのは、お前達が思う以上に社員の事を見てるんだよ。お前達の健康状態だってみんな把握してるしな。だから、オレの感覚からそう分かるんだ。進は、白だ。」

18番の、営業部の奈津美が割り込んだ。

「でも、それって長浜さんが狼だったら別ですよね?」皆が奈津美を見る。奈津美は続けた。「宮下さんが仲間だから、庇ってるのかも。」

それには、園美が答えた。

「あなたはあんまり人狼しないから分からないかもしれないけど、黒を打たれた仲間をあからさまに庇うのは危険だから、慣れた狼は絶対にしないことなのよ。もしこれで進さんが本当に狼だったら、必然的に郁人さんだって狼だって疑われるでしょう。そうなると、狼陣営にとってかなり不利になるわ。グレーに居た狼二人を見つけられて、一人は占い師か霊媒に出てるとなると、残りは二人しか居ないんだから。この人数で早期に三人も吊られたら、狼が勝ち残る可能性はすごく下がるわ。狐だって居るんだしね。だから、私はそれはないと思う。」

司が、頷いてもう一度郁人を見た。

「じゃあ、今漠然とでいいから、その勘で誰が怪しいと思う?グレーの中で。」

郁人は、うーんと、皆を見回した。皆、心なしか緊張した面持ちでその視線を受けている。郁人は、肩をすくめた。

「話を聞いてない人のことはよく分からないな。だがいつもと違うと感じたのは数人だよ。嘘がどうのじゃなくて、いつもより神経質だなと思う程度で、こんな異常事態だから怯えてるからこそかもしれないし。」

司は、せっついた。

「それでいい。誰と誰だ?」

郁人は、気が進まないような顔をしたが、言った。

「いつもより怯えてそうとか、緊張気味とか思ってるだけだから信用するな。3番の貴章、4番の壮介、9番の光一さん、10番の小森部長、11番の開、13番の英悟、15番の篤夫さん、他は…どうだろうな。女子のことは女子の総務の子に任せてるから、あまり分からないんだが。あくまで、いつもより神経質そうとか、ビビってるなとか、そんな風に思うぐらいだ。オレの主観でしかない。黒出しでもされて、弁明してたらもっとよく分かるんだが。」

まるでメンタリストだ。

進は、そう思って見ていた。確かに、貴章はいつもより神経質に見える。こんな命の危機に晒されてるんだからそうもなるだろうと思うので、それがそのまま人外かというとそうではないかと思う。壮介も、いつもより口数も少ない。英悟と篤夫は、対抗するような形で最初からバチバチやっている。いつも仲が良いのだから、見慣れない姿と言えばそうなのだ。

「確かに…こんな緊急事態だしな。よっぽどメンタル強い奴でないと、普段と変わってしまうと思う。普段の関係とか、こんな誰を信じていいのか分からない状態じゃああってないようなもんだろうし。」

進が言うと、司は不本意そうな顔をしながら頷いた。

「ああ。本当に誰を信じていいのか…とにかく、全員に話を聞かなきゃな。喋ってないと疑われる、疑わしいことを言っても疑われると思ってくれたらいい。そういうゲームなんだ。」と、グレーの次の番号を確認した。「16番。寺田由佳さん、君の考えを話してくれ。」

皆がそちらを見る。由佳は、息を飲んで皆の視線を受けて、顔を上げた。

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