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一日目

キッチンは、思ったより多くの食材が大きな業務用冷蔵庫の中にあった。

野菜も新鮮で、間違いなく昨日今日の間に準備したもののようだった。

冷蔵庫には他に、冷凍食品も飲み物も溢れんばかりにあり、食事の問題はあっさり解決したようだった。

女子達が何か作ろうかと提案したのだが、誰が人狼で誰が狐かも分からない状態で、疑心暗鬼になるだろうと食事は個人の責任で何とかすることになった。

進は自炊も出来たがそんな気持ちにもなれなくて、冷凍食品と幾つかレンジで温めて食べ、恭一と共に早めに二階へと戻って来た。

「今夜の襲撃が無いって知ってるだけで結構楽だな。だが明日からが心配だ。」

並んだドアの前で恭一に言うと、恭一は少し言いよどんだようだったが、それでも顔を上げて言った。

「進、ごめん。オレ、最初に部屋を出て来た時は、お前も信用出来ないって思ってたんだ。」

進は、驚いたが、それでも苦笑して頷いた。

「誰だってそうだろう。オレもお前を信じてないかもしれない。自分だけを信じるしか、材料のない今は仕方ないじゃないか。」

恭一は、首を振った。

「今は違う。」進が意外なことに片眉を上げると、恭一は続けた。「分かったんだ。最初に話した時に。進は、オレと同じカードを見たんだって。だから、進は信用出来る。」

進は、困惑した。

「それは嬉しいが、頭から信用しちまったら駄目だぞ。オレはオレのことを村人だって知ってるが、お前は知らないだろう。オレもお前が村人だとは知らないからな。だから、誰でも信じちゃいけない。まあオレのことは信じてくれて結構だが。」

恭一は、頷いた。

「信じるよ。」進はますます眉を寄せた。恭一は満足げに微笑んで、ドアノブを回した。「じゃあな。」

進は、いまいち恭一の考えが分からなかったが、疑われるよりましか、と思い当たり、自分の部屋へと入って、いろいろ考えて置こうと思ったのにも関わらず、その日は疲れていたのかぐっすりと眠ってしまったのだった。


シンと静まり返っているの中で何かに起こされた気がして、進はハッと目を覚ました。

…完全に寝入ってた。

進は、この状況で熟睡していた自分に驚いて飛び起きた。時計を見ると、今まさに5時になったばかりのようだ。

急いでドアへと駆け寄ってノブを回すと、昨夜確かに開かなかったドアがスッと開いた。鍵が開いているのだ。

もしかして、鍵が開く音で起こされたのか…?

進は思いながら、昨日の服のまま外へ出た。

すると、すぐ隣りのドアも開いていて、恭一がジャージ姿にボサボサの頭で目の前に立っていた。

「うわ!びっくりした。」進は、思わず叫んだ。「なんだ、ドアの開く音ぐらいするかと思ったのに、何の音もしないから誰も居ないと思ってた。」

恭一は、姿に似合わず神妙な顔をした。

「オレだって音は聴こえなかった。どうやら中に居たら外の音は全く聴こえないみたいだ。オレ、昨日も夜中まで起きてて人狼がどこから出るのか聞いてヤろうとドアにへばり付いてたのに、なんにも聴こえなかったんだ。」

そんなことをしてたのか。

進は感心したが、背後のドアが開いて、次々に人が出て来てそちらに気を取られた。皆一様に寝起きの姿だったが、進と同じように昨日の服のままの人も居た。

「みんな無事だな?」司が歩いて来て、一人一人確認する。「多いな。番号を頼む。」

慎一郎が向こう側から声を張った。

「1!」

「2。」

司が言う。

「3!」

貴明が叫んだ。

そうして5の善治が飛ばされて25まで番号が返って来たところで、司はやっとホッとしたような顔をした。

「よし。呪殺は無かったってことだからホッとするのもなんだが、でもみんな無事で良かった。」と、Tシャツ姿の自分を見た。「ああ、着替えて来よう。準備が出来た人から下へ降りてめいめい自分の食事を済ませて、7時から昨日の占い結果とか、話し合いを始めよう。今は解散。」

それを聞いたみんなは、またぞろぞろと自分の部屋へと引き上げて行った。

進も、とにかくシャワーを使って着替えて来ようと、急いで部屋へと戻ったのだった。


急いで準備を済ませて下へ降りて行くと、もう何人かは降りて来て菓子パンなどを片手にソファに座っていた。恭一が先に来ていて、進に自分の手にある菓子パンを振って見せた。

「昨日は無かったのに、キッチンのテーブルの上にいっぱい置いてあったんだ。お前も食べたら?」

進は頷くと、キッチンへと入って、無造作に置かれてあるいろいろな菓子パンの中から好きなものを二つほど選んで、冷蔵庫からペットボトルの紅茶を出し、それを持って居間へと引き返して来た。恭一は、貴章と並んで座っていたが、進を見て自分の横を示した。

「こっち空いてるぞ。」

進は頷くと、どっかりとそこへ体を投げ出すように座った。

「…昨日はオレ、どうしちゃったのかぐっすり寝てしまってさ。風呂も忘れてた。疲れてたのかもしれないな。」

菓子パンの袋を開きながら言うと、恭一が顔をしかめた。

「よく眠れたな。まあオレだってドアの前で張り付いて音を聞いてたけど、あんまり何も聞こえないからそのままドアの前で寝てしまってさ。朝、鍵が回るカチンって音でびっくりして目が覚めた。それで慌てて飛び出したんだ。」

向こう側の貴章が、苦笑した。

「オレもあっちこっちに耳を当てて音を聞こうとしたけど、何も聞こえなかった。少しの物音もなんだ。通話とかしてたら聴こえるかなと思って、だいぶ頑張ったんだけどな。」

ふと顔を上げると、同期だが部署が違う営業部の英悟と、総務部の郁人が入って来るのが見える。貴章が、それを見て手を振った。

「おおい、英悟、郁人!キッチンにパンがあったぞ。」

二人は固い表情だったが、それを聞いて軽く手を上げて答えて、そのまま隣りのキッチンへと向かった。それを見送りながら、恭一が言う。

「あの二人はどうも昨日から硬いよな。あんなに気が弱かったか。」

進は、そういえば、と思ったが、最近部署も違うし満足に話もしていなかった二人なので、肩をすくめた。

「こんな状況になったら、誰でも気が張り詰めるさ。オレだって平気なふりはしてるが、それでも本当に殺されるとか、そんなことにはまだピンと来てない。だが、殺されないなんて楽観的に見てるわけじゃないぞ。」

貴章が、何度も頷いた。

「そうだぞ!現に部長が死んでる。まあ、あんなにあっさり死んじまったから、どうも本当に死んだのかって思おうとしてしまうが、それじゃあ解決にならないと思う。」

そんな三人のところに、司がやって来た。心無しか顔色が悪いが、体調が悪いようではなかった。

「司。」進は、自分の横を開けて言った。「なあお前、自分で全部抱え込もうとするな。相方も居るだろう、昨日は腕輪で通信したんじゃないのか?二人で方針決めたんじゃないのか。」

司は、ため息をついた。

「進の色がはっきりしないから、詳しくは話せないが相方にはあまり期待するのは酷なんだ。だから、このゲームに詳しいオレが何とかしないと。」と、ソファに体を預けた。「呪殺は起こらなかった。狐はまだ二匹。この上人狼が最悪5匹も居る。松本部長が人外だったらちょっとは楽なんだが。」

進は、首を振った。

「そんな楽観的じゃ駄目だ。今日は占い師の結果を見て真贋つけられたらいいんだがな…真占い師を生かして狐を何とかしてもらいたいのは狼だって同じだと思うから、少しは影で協力してくれたらいいのに。」

司は、身を乗り出した。

「なあ、内訳をどう思う?」

進は、顔をしかめた。

「普通なら真・狂・狼なんだが。狐が二人居るから一人ぐらいは出てそうな気もするな。だがまあ、慣れの問題もあるし、慣れてる奴なら出てるだろうし、慣れてなかったら潜伏してるだろうから、初心者組の中に狐が居たら出てない可能性がある。大人数村だと狐は潜伏したら強いからな。占い師を大事にしないとまずいんじゃないか。」

司は、食い入るように進むを見ている。

「一人一人はどう思う?」

進は、まるで尋問のようだなと思いながらも、答えた。

「…最初に出た修さんは落ち着いてたし指定理由も納得出来たから真目で見てる。堀さんは分からないが他と比べたらパッとしない。指定理由も適当な感じだった。慎一郎は二人が出るのを見てから出た。だから、狼ではないだろうな。狼なら、騙りが一人出たのを見たら潜伏するだろう。わざわざ露出してローラーされる危険を冒すことはないからな。指定も、自分なりに考えて決めていたようだったし。だが、結果を見たわけではないし、分からない。真・狂だと見るのがいいだろうと思うが。だからオレは、修さんが真っ先に出たので真か狼、慎一郎が真か狂、一番偽目が高いのは堀さんかと思ってる。あくまで、昨日までのことを見てのことだがな。」

司は、それを聞いて肩の力を抜いた。

「…ああ。オレが考えた通りだ。お前は村側の思考だなと思えるな。」と、手にしたペットボトルのお茶を飲んだ。「信用出来る奴を増やしたいんだ。お前は昨日からしっかり意見を残してくれるし、白いとオレは思ってる。相方にあまり期待できない以上、お前みたいな人間が欲しいんだよ。もちろんまだ手放しで信用してるわけじゃないが、それでもお前は今のところ、白い。」

進は、顔をしかめた。

「まあオレは村人だからな。だが一番力のない役職だ。狼とか狂人に黒を打たれる可能性があるのにあんまり材料も持ってないし。狂人が人狼経験少ないヤツならいいんだがな。ありえない場所にでも黒を打ってくれたら、それで偽だと思うのに。もしくは誤爆して狼に黒打ってくれたら、願ったりだが。」

いつの間にか、回りには数人の人が集まって、進と司の会話を聞いていた。司はそれに気付いて、皆を見回した。

「ああ、みんな食事は済んだのか?何か意見があったら言ってくれてもいいが。」

すると、さくらが手を上げた。

「今の話の誤爆ですけど、それって狂人が間違って人狼に黒、つまり人狼って言ってしまうことですか?」

司は、頷いた。

「ああ、そうだ。狂人ってのは自分が狂人だってアピールして狼に噛まれないようにしようとするんだが、たまに間違って村人じゃなく狼に黒を出してしまうことがあるんだ。狂人からは人狼が誰だか分からないからな。そうすると、狼からは狂人が真占い師に見えるから、襲撃しちまうこともあるってことだ。だから狂人は、絶対人狼でなさそうな場所で、しかもグレーな場所に黒打ちしなきゃならないから、結構難しいんだよな。普通のゲームだったら、狂人は吊られるのが仕事とか言うんだが、このゲームみたいにリアルに消されるとなったら、狂人だって生き残りたいと思うだろうから黒打ちは難しいなあ。ま、狼に白打ったっていいんだから、そっちをする可能性もあるけどね。」

そんなことを話していると、キッチンから堀優花と寺田由佳、それに白井光一が出て来た。皆が集まっているのを見た三人は、びっくりして慌ててこちらへ速足に近付く。

「あれ、もう話し合いの時間だったか?」

光一が、焦って言う。司が、首を振った。

「いや、雑談だ。君らで全員なら、少し早いけど会合を始めるか。」と、皆を見回す。誰も異議がないようだ。司は、頷いた。「じゃあ、座ってくれ。話し合いを始めよう。」

そうして、司は自分のメモ帳を取り出し、膝の上に広げて準備を始めたのだった。

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