占い先
1 原 慎一郎 (27)旅行会社添乗員
2 大野 司 (30) 技術部
3 清水 貴章 (30) 技術部
4 林 壮介 (28)総務部
5 松本 善治 (59)営業部
6 山口 征司 (36) 総務部
7 長田 恭一 (32) 技術部
8 宮下 進 (31) 技術部
9 白井 光一 (37) 営業部
10 小森 角治 (52)総務部
11 西沢 開 (29) 営業部
12 原口 修 (35) 技術部
13 菊井 英悟 (32) 営業部
14 長浜 郁人 (31) 総務部
15 北本 篤夫 (36) 営業部
16 寺田 由佳 (24) 営業部
17 堀 優花 (24) 営業部
18 川村 奈津美 (27) 営業部
19 川崎 郁恵 (26) 営業部
20 北村 真琴 (25) 総務部
21 大西 舞花 (25) 総務部
22 久保 園美 (27) 技術部
23 上野 椎奈 (26) 総務部
24 新井 さくら (28) 技術部
25 井上 千秋 (28) 総務部
総勢25人の名簿が出来上がった。
司は言った。
「この中で同期はオレと貴章、恭一、進、英悟、郁人。それから下の奴ら、壮介、開、川村奈津美さん、川崎郁恵さん、久保園美、上野椎奈さん、新井さくら、井上千秋さん。」
園美が、あからさまに嫌そうな顔をした。
「ちょっと司さん、どうして女性の私とさくらだけフルネーム呼び捨て?」
司は、顔をしかめて言った。
「お前ら同じ部署でしょっちゅう世話してやってるだろが。」と、メモに視線を落とした。「それからもう一つ下、北村真琴さん、大西舞花さんが同期。その下、入社二年目の寺田由佳さんと、堀優花さん。オレ達より上の世代、征司さんと光一さん、修さん、篤夫さんが同期ですよね。で、小森部長だけ同期はここに居ない。」
角治は、頷いた。
「そうだ。お目付け役みたいな感じで、松本さんと一緒に来たからな。…あんなことになってしまったが。」
そして、司は慎一郎を見た。
「で、君だけ違う会社だ。添乗員として来たから、他に知り合いは居ないんだな。」
慎一郎は、厳しい顔をしたまま頷いた。
「ここに居る誰より最悪じゃないか。知らない人たちに囲まれて、しかもこの中に狼やら狐やらが居て騙そうとしてるってことだからな。普段の様子が分からないのに、今の状態がおかしいとか気付けるはずがないじゃないか。話してることで矛盾してないか、注意深く見るしかないと思ってる。」
司は、フーッと息をついた。
「言いたいことは分かる。だが、オレ達だって部署を離れて世代が違うとしょっちゅう接してるわけじゃないから、同じようなものだぞ。オレがよく知ってて一緒に飲みに行ったりするのは同期の奴らか同じ部署の奴らぐらいで、他はそんなに深く知らない。顔は知ってるってぐらいだからな。」
進が、肩をすくめた。
「こんな状態じゃあ、役職を引いて緊張してるのか異常事態に緊張してるのか見分けるのだって困難だし、ここは占い師に頑張ってもらって早いとこ人狼を見つけてもらうしかないんじゃないか。」
司は、進を見た。
「いや、占い師には狼より狐を探してもらいたい。」進が怪訝な顔をする。司は続けた。「考えたんだが、この人数で人狼は5人、狐が2人。松本部長が亡くなったから、部長自身が狼でない限り24人で11縄、そのうち7縄使わなきゃならないんだ。間違えられるのは4縄しかない。だが、そんなにピンポイントで人外を吊れるとは限らないだろう。明日役職が複数出てローラーなんてことになったら、縄が足りなくなる。だから、狐は占いで呪殺してもらいたいと思っているんだ。真占い師の証明にもなるしな。」
恭一が、じっと腕輪を見つめて心ここにあらずの状態だったが、いくらか持ち直して顔を上げた。
「じゃあ司、占い師には今日出てもらわなきゃ。」司が反論しようと顔をしかめて口を開くと、それを察した恭一は手を振って遮って続けた。「今日は襲撃の心配はないけど、占いは出来る。どうせ明日は出るんだから、今日どこを占うのか指定させて、呪殺騙りに備えないと。もし今夜呪殺が発生して、明日出ないはずの犠牲者が出てたら、占い師を騙る人外にもそれを占ったと言われるから真占い師の確定が出来ない。でも、指定させていたら、誰が占ったのか分かるじゃないか。狩人の連続護衛ありだから、真占い師が確定したら狩人が生きてる限り守り切れる。」
進は、驚いて恭一を見た。恭一は、こんな風に仕事で積極的に意見を言う方ではない。普段の付き合いの中では普通に意見を言うが、会議の場などで発言することは皆無だった。それなのにこうして強く意見を言うことに、普段とは違う顔を見たと驚いたのだ。
だが、確かに言う通りだ。
進は思って、身を乗り出した。
「オレも、恭一の言う通りだと思う。今夜は狐以外誰も失わないんだ。占い師も同じ。だったら、占い師に出てもらって指定させよう。これから先のことを考えても、その方がいい。」
「ちょっと待ってくれ。」営業部の北本篤夫が割り込んだ。「ドンドン話が進んで行くが、オレは人狼ゲーム自体全く知らないんだ。だから、それがいいのか悪いのか判断することも出来ないから、賛成も反対も出来ない。オレは訳が分からないことに自分の命を預けることは出来ない。ここに居る25人は、みんな本当にこのゲームのことを分かってるのか?」
進は、そう言われてみれば、と黙って皆をひとあたり見渡した。皆一様に不安そうな顔をしているが、その中でも、何かの決意を感じさせるような険しい顔をしている者、ただ戸惑って回りの顔色を窺っている者、と分かれていた。そうやって見てみると、少なくても半数以上はあまりよく分かっていないように思えた。
司を見ると、同じように思ったらしい。またため息をつくと、言った。
「何も知らないんじゃオレ達が何を言ってるのか分からないだろうな。一応聞いてみるが、この中で人狼ゲームをやったことない人って居るか?」
やはり半数ぐらいが手を上げた。園美が言った。
「私は休みの日に人狼の集まりに行くほど詳しいわよ。毎週ぐらいゲームをしてますから。私が、初心者たちにも分かるように説明します。始めから細かい所まで分からないと思うけど、それでも時間が無いんでなんとかついて来てください。じゃあ、始めます。」
園美は、同僚のさくらと一緒に、あっちこっちにある物を使って初心者講座を開き始めた。
その間、知っている者達は楕円のテーブルの方へと集まって、そちらで話し合いを進めたのだった。
二時間ほど経っただろうか。
司と話し込んでいて、ハッと進が顔を上げると、園美が腰に手を当てて立っていた。
「進さん、司さん、あの、何とか基本的なことは理解してもらえたみたいなんですけど。こっちは、どうですか。」
司は、側のメモを手に慌てて立ち上がった。
「ああ、こっちもどう進めるのか何となく決まって来た。そっちへ行って説明しても大丈夫か。」
園美は、首を傾げた。
「理解はしてくれてますけど、戦略とか分かってもらえるかどうかは疑問ですよ。ゲームと言っても、今回のは吊られたり襲撃されたらどうなるのか分からないから、怖いし勝手が違うんです。村人吊ってしまってごめん、では済まないかも。みんな、そういう感覚が理解出来ないようです。」
司は、頷いた。
「オレだってそうだ。それを言うなら、狼を引いたヤツだって好きで引いたんじゃないんだし、それを吊っちまうってのも考えものってことになるじゃないか。こんな場所に閉じ込めるような奴ら相手に、普通の感情が通用するならそもそもこんなことは起こってないと思うがな。」
司がソファの方へと歩いて行くのを見て、こちらに居た進、恭一など数人もソファへと移動する。
司は、疲れたようにソファに座って、皆を見て口を開いた。
「改めて言うが、あっちで話し合った結果、やっぱり占い師は出した方がいいと思う。」司がそう言うと、皆が黙って顔を見合わせた。「これからのことだ。狐を狙う方針で行く。それで狼に当たってもいいじゃないか、狼を吊って霊能者に結果を見てもらえばいいんだしな。反対意見があるなら、言ってくれ。」
司は意識的に篤夫を見たが、篤夫は何も言わなかった。ただ、少し緊張気味に下を向いていた。
すると、原口修が手を上げた。
「オレが占い師だ。」
みんな、びっくりしてそちらを見た。すると、こちら側に固まって座っている女子の中からも、声がした。
「え、私も!占い師って二人居るんですか?」
一番新人の堀優花だった。しかし、こちら側から慎一郎が言った。
「そうか三人出たか。オレが、占い師だ。説明では占い師は一人だけのはず。だから、二人が偽物だ。」
占い師が三人。
進は、眉を寄せた。こうして対面の人狼ゲームをすると、話の流れから自然にうまく出ることが求められていて、村の方針に従って出ているので出るスピードは関係ない。しかし真・狂・狼、真・狂・狐、真・狼・狐のパターンであることが多かった。真・狼・狼などは稀だが、五人も狼が居るならもしかしたら有りかもしれない。しかし、狼同士が話し合うのは居間へ集まる前の僅かな時間だったはず。そんな中で、二人も露出される戦術を考えるのか疑問だった。
司は、冷静に三人の名前をメモに書いた。
「…じゃあ誰を占うか適当に選んでくれ。狼の噛み合わせを考える必要は今日はないが、一応二人で頼む。」
篤夫が言った。
「噛み合わせって?」
園美が横から言った。
「真占い師が狐を呪殺しそうな時、そこを狙って襲撃することです。呪殺だったとしても襲撃で死んだにしても、翌朝犠牲は一人なので呪殺なのか襲撃なのか村人には分からないんです。例えば占い師騙りに狼陣営の誰かが出ていた時、真占い師を確定されたら殺されてしまいますよね。それを避けるためにやることです。二人だったら、どっちを占うのか分かりませんから。」
「それでも賭けで噛んで来ることもありますけどね。」司は言って、修を見た。「修さん、誰を占いますか。」
修は、ぐるりと皆を見回した。反射的に、全員が口をつぐんでじっと修のことを見返している。修は、言った。
「…共有者に近しいと敵か味方か気になるから恭一。それと、女子からも…大西、舞花?さんだっけ。の二人にする。」
恭一は黙っている。舞花は驚いたような顔をしたが、ブルブルと震えた。
「あの、私…私、狼じゃありません。」
隣りに座っている、同じ部署で同期の北村真琴がなだめるように言った。
「大丈夫よ、村人なら占われても何も起こらないから。それに、狐を探してるんだって今言ってたでしょう?」
舞花はまだ震えながら、下を向いた。真琴は、困ったようにそんな舞花を見ている。
司は、言った。
「まだ何も分からないんだ、適当に選んでるんだから。これだけ人数が居るしな。」と、優花を見た。「堀さんは?」
言われた優花は、緊張気味に見回していたが、言った。
「宮下進さん。すごく意見を出してるから、もし狼か狐だったら怖いので。それから、ええっと、友達の由佳。仲間だったら嬉しいから。」
隣りの由佳は、ホッとしたように微笑んだ。司はそれをじっと見ていたが、次に慎一郎を見た。
「では、慎一郎さん。」
「慎一郎でいいです。」と、考えていたのか迷わず言った。「共有者とよく話す林壮介さん、菊井英悟さん。元から仲がいいとどうしても信じたくなるでしょう。色を見て置いた方がいいと思います。」
言われた二人は、表情を引き締めた。緊張しているというよりも、少しほっとしたようにも見える。
全部メモに書き取りながら、司は言った。
「では、明日はこの中から占ってもらって、結果を知らせてもらおう。黒であっても白であっても、結果が出るのは議論が進むから助かるんだ。ちなみに黒、人狼と出ても吊るとは限らないから。その一匹を飼っておいて狐を先に吊るって手もあるし。」
進が、割り込んだ。
「でも5人も居るんだから、最初は吊ってもいいんじゃないか。減らしとかないと、早くに村勝ちがなくなるかもしれない。真占い師の特定の材料にもなるし。」
司は、進を見た。
「霊能者次第かもな。何人出るかによるだろう。占い師が3人ならもしかしたら一人ってこともあるかもしれないしな。後は明日だ。今話しててもみんな自分が村人だとしか言わないだろうし、今夜は襲撃されないんだ、明日からが本番だと思って頑張るしかないだろう。」
司がそう言うと、誰も口を開かなくなり、沈黙の時間が訪れた。すると、ずっと黙っていた角治が手を打った。
「さあ、じゃあ何か食って部屋へ入ろう。今夜は何も起こらないんだ、とにかく休んで、これからに備えるんだ。もう、20時を過ぎてる。」
皆、部屋の時計を見上げた。確かに、もう20時を少し回っている。
そう思うと急に空腹を感じた進は、隣りの恭一を見て言った。
「思えば腹が減ってたよ。何があるのか知らんが、キッチンで食い物漁ろう。」
頷いた恭一と共に立ち上がると、他も者達もパラパラと立ち上がり始め、そうして皆でキッチンへと向かったのだった。