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終わりに向けて

その数時間前、投票で追放が決まった英悟は、暗闇の中ただ下へ下へと降りて行く椅子に、じっと座っていた。下手に動いたら、椅子から落ちてしまうかもしれない。そうなると、下までどれぐらいあるのか分からないのに、どんな怪我をするか分からない。いくら今人狼である自分でも、そんな大きな怪我をして無事でいられるのか、分からなかった。

そうして、しばらく降りてから、椅子の速度が落ちて、どこかへ到着したのが分かった。

そこが、今まで吊られた人間が来た場所であることは分かっていたが、真っ暗でどんな場所なのか分からない。

指示があるまで、じっとして置いた方がいいな、と、英悟はそのまま、ただじっとしていた。

すると、突然にパッと灯りが着いた。

突然の光に面食らったが、それでもヒトであった時よりはすぐに回りを認識することが出来、見回すと、そこは無機質な金属の壁で囲まれた、広い空間だった。

どうしたものかときょろきょろしていると、壁に設置された引き違いのドアが、シュッという圧縮空気の音を立てて左右に開いた。

「よう英悟。頑張ったじゃないか…オレは、もしかして錯乱してさくらを刺し殺すんじゃないかと思ってたんだがな。よくやった。」

英悟は、入って来た人物に、我が目を疑った。

「し、慎一郎!お前、あれだけ出血して死んでたのに…生きてたのか!」

慎一郎は、ハッハと笑って手を振った。

「言っただろうが、死なないと。それにオレはお前達と同じ人狼だし、傷の治りは物凄く早い。心臓を一突きにされたところで殺すのは難しいんじゃないか。頭を潰しでもされない限りはな。」

英悟は、まだ驚いたまま、恐る恐る椅子から降りて立ち上がった。

「それで、その、ここはどこだ?お前が生きてるってことは、他の連中も生きてるのか?人狼でない奴らも、みんな?」

慎一郎は、頷いた。

「ああ。死んではいない。これは、ヒトを生かす研究をしている研究機関の実験なんだ。ここの連中は、ある薬品を投与してからならヒトが死んでも24時間以内なら蘇生することが出来る。だが、他の連中はみんな、まだ自分が死んだことすら分かってないと思うぞ。あれから、意識がないまま眠ってゲームが終わるのを待ってるんだ。」

英悟は、戸惑いながら回りを見回した。

「じゃあ、人狼だけか?みんな、ここへ来る時には意識がなかったと。」

慎一郎は、また頷いた。

「そうだ。ここへ到着した頃には腕輪から流れた薬品で意識はなかった。さあ、こっちへ。開たちのことが気になるだろう?一緒にゲームの流れを見守ろう。」

英悟は、まだ戸惑いながらも、そこに居ても仕方がないので、慎一郎について、その何もない部屋を出て行った。


その日もよく眠れた。

開は、お決まりの閂が外れる音で目を覚まし、ここのところ毎日続けて来たように、ドアを開けて外へ出た。

出てすぐに、司と目が合う。

開は、司に言った。

「おはようございます。無事で良かった。それで、誰が居ないんですかね?」

司は、首を振って出て来た皆を確認した。

「…さくらと、園美が居ないな。」と、二人の部屋へと向かった。「さくら?!生きてるんだろう、出て来い。園美?まだ寝てるのか?」

ドンドンとドアを叩くが、ここの防音機能では全く聴こえていないだろう。開と郁人は顔を見合わせて苦笑すると、インターフォンを押して回った。

「…ちょっと待て、開いてる。」

郁人は、園美の部屋の前で言う。司は、眉を寄せた。

「ああ…昨日は園美か。」

郁人は、黙ってドアを開いた。

そこには、血だまりの中で眠る、園美が居た。首には、やはり噛まれた跡がある。入って来た、光一が後ろから言った。

「決まりだな。さくらは護衛成功を出せなかった。」

司は黙って頷くと、園美にシーツを掛けて、見えないようにした。そして、隣のさくらの部屋のインターフォンを押した。

「聞いてるんだろう!園美が襲撃された。おとなしく出て来て素直に認めたらどうだ!」

しかし、答えはない。郁人は、首を振った。

「もうどちらにしろ終わりだ。このまま出て来なくても、人狼は死ぬ。無投票のルール違反で。村人にひと縄増えるから、むしろ願ったりじゃないか。1日早く、ラストウルフ探しを始められる。」

司は、それを聞いて、確かにそうだ、と思った。本当なら今日使わなければならなかった縄を、使わずに人狼を処理出来る。

司は、フンと小さく鼻を鳴らすと、ドアから離れた。

「こんな女が仲間だったなんて、英悟も気の毒だよ。残りの人狼もな。自分が生き残りたかっただけなんて。」

そうして、自室へ足を向けた。しかし、何気なくドアノブに手を掛けた貴章が、何かに気付いて振り返った。

「…待て。開いてるぞ!」

驚いた皆が一斉に振り返った。

開は、嫌な予感に見る見る無表情になるのを感じた…まさか、何か変な事をしたのでは。

それは壮介も光一も同じなようで、二人も無表情だった。

皆の視線を受けて、貴章は恐る恐るドアを開いた。

「え…?死んでる?」

開は、急いで貴章の肩越しに中を覗いた。

さくらは、椅子に座ったまま、机に突っ伏して倒れていた。

腕輪が開かれたままの腕が、机の上に乗っている。

同じく机の上にあるモニターには、大きく文字が出ていた。

『№24は、ルール違反の為追放されました』

そう、書いてあった。

…誰を守るか悩んで決められなかったのか。

開は、瞬時にそう思った。昨日の護衛先は、ある意味さくら自身の命も掛かっていた。人狼の裏をかこうと悩み抜き、恐らく時間切れになったのだろう。

さくらの目元には、涙の跡があった。恐らくは泣きながら、誰を守れば護衛成功出来るのかと一人で考え抜いていたのだろう。

そう思うと気の毒でもあったが、それでも英悟を売り自分を売った女なのだ。

開は、自分でも驚くほど冷たい声で言った。

「…何か、残りの人狼ともめたか何かでルール違反を犯したんでしょうね。襲撃先とかじゃないですか?自分のために襲撃しないでおこうとか、そんな無理を言って。どんな違反が人狼側にあるのか知りませんが、とにかくこれで、人狼は死んだ。あと一人です。」

司は、同じように苦々しげな顔をしていたが、それでもさくらに歩み寄りながら、言った。

「そうだな。まあチャンスを広げてくれたのだと思って、怒りも抑えよう。さ、手伝ってくれ。ベッドに移さなければ。」

開は黙って頷くと、冷たくなったさくらの腕を掴んで引っ張った。死後硬直していない…?

「…確かに、死んでるんですよね?」

開は、向こう側で反対側の腕を引っ張る、司を見て言った。司は、何を言っていると怪訝な顔をしたが、それでもすぐに、ハッと気づいたような顔をした…そうだ、確かに柔らかい。

今は午前5時、部屋の鍵が開いたばかりだ。死んだとして、恐らく結構な時間が経っているはずなのに、さくらの体は冷たいが、全く硬直していなかった。

「言われてみたら、進もそうだったぞ。」恭一が、ドアの所から言った。「柔らかかった…襲撃を受けて死んだんだから、少なくても一時間以上経っていたはずなのに。」

開は、慎一郎の言葉を思い出した。誰も死なない。死んでいるように見えるだけで、生き返る…そういう処置をされてある。

「本当に死んだわけじゃないのか。」

開が思わず呟くと、司が驚いたように開を見た。

「どういうことだ?確かに、呼吸もしていないし脈もない。体温もない。」

開は、しまったと思ったが顔に出さずに、言った。

「いえ、ほら、ゲームの最初に、勝利陣営なら帰って来られる、と言っていたのを覚えてますか?もしかして、これまで死んでいたみんな、仮死状態なだけで本当に死んでないのかもしれないとふと思ったんです。」

司は、見る見る表情を変えた。希望…そう、希望の光が目に宿ったのだ。

「そうだ、そうだった!つまり、オレ達が勝てば、村人達は戻って来れるってことだな?死んでないんだ!」

恭一も、郁人も目に見えて明るい顔になった。しかし、光一が言った。

「確かに希望はあるが、それでも油断は禁物だぞ。人狼は、まだ一匹残っているんだからな。気を抜くんじゃない。早くさくらをベッドに運んで、今日の吊りの話をしよう。終わらせるんだ。」

それを聞いて、司が表情を引き締めた。

「もちろんだ。さ、早く準備して、居間へ降りよう。」

そうして、開と司に持ち上げられたさくらは、ベッドへと移され、そこへ寝かされてシーツを掛けられた。

しかし開にも、光一にも壮介にも分かっていた…村人は、もう絶望だ。今の人数は、これで7人。人狼が三人、村人が一人。今日人狼を吊ることが出来なければ、その場で勝敗は決する。村人は現状村人が有利だと思っているが、その実人狼に追い詰められているのだ。

開は、気を引き締めてさくらの部屋を出ると、部屋へ一度戻って着替えてから、階下へと降りて行ったのだった。

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