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勝負

その夜、生き残った人狼三人は、開の部屋へと一度集まった。

今日の襲撃先を、決めるためだった。

「今日は、負けるわけにはいかないぞ。」光一が、真剣な顔をしながら、言った。「英悟が、遺して逝ってくれたんだ。さくらは、絶対に明日吊らせる。今日は絶対に、絶対に護衛成功させないぞ!」

壮介も頷いている。開は、言った。

「だったら郁人さんや司さんは駄目ですね。護衛に入っている可能性が高い。でも、裏をかいて他を守る可能性もあります。どうします?」

光一は、迷いなく言った。

「恭一にする。いくらさくらでも、黙っている中で誰を噛むかまで分からないだろう。ようは、三択だ。園美、恭一、貴章の。」

しかし、開は怪訝な顔をした。

「でも、それでどうやって残りの人狼を演出します?護衛成功が出ないことが大前提ですけど、もしかしたらがあり得るんです。そのもしかしたら、の時、疑いを向けることが出来るために、理由を考えておくべきです。実はオレに、考えがあるんですけど。」

壮介が、身を乗り出した。

「なんだ?何でも言ってくれ。」

開は、頷いた。

「まず、三択なら園美を()りましょう。さくらが一番守ってそうにない場所だと思われます。あれだけ仲が良かったのに、事態が発覚してからはあからさまに避けてますから、感情的に守らない位置だと思うんです。オレ達が、対抗するのに面倒だからと男を襲撃したがってると思いそうだし。実際、男の発言力の方が強いようでしょう。」

壮介は、うーんと考え込むような顔をした。

「貴章と恭一を残すのか。でも、あの二人はオレと光一をまだ疑ってるんだぞ?護衛成功でもしたら、蒸し返すに決まってる。まずくないか?」

開は、ニッと笑って首を振った。

「考えてもみてください、進さんは襲撃されたのに、貴章さんと恭一さんは仲良く残ってるんですよ。おかしいと思いませんか…例えば、どっちかが人狼で、片方を殺すことが出来なくて、残しているとか?」

それには光一が、ああ!と手を打った。

「そうか!不自然なんだ、あの二人が揃って残ってるってのが。見るからに白いのに、それはおかしい。」

開は、頷いた。

「そうなんです。おりしも、英悟さんが真実と嘘を合わせたら真実に見えると言って死んで逝ったばかりです。あの二人のうち、進さんととても仲が良かったのは恭一さんでしょう。だから、貴章さんを人狼だと設定して、疑ってみたらどうでしょう。白く見えたのは、白い恭一さんと一緒に居たからだとか何とか言って。一人潜伏してたというのなら、これほどお誂え向きの人は居ませんよ。」

光一と壮介は、視線を合わせて、頷いた。そうだ、それで行こう。

「…なら、今日の襲撃は、園美。それでいいな?」

開は、頷いた。

「ええ。さっさとやってしまいましょう。もし、襲撃に失敗した時のために、早く入力して結果を知っておかないと。もしも鍵が開かなかったら、明日の対応を話し合わなければなりませんから。」

開は、腕輪を開いた。壮介と光一が、カードキーを用意する。

「今日は、オレがやります。すみませんが、開錠をお願いします、光一さん。」

開が言うと、光一は頷いた。

「任せておけ。」

開は、頷き返して、さっさと腕輪に番号を入力した。

そうして、三頭の人狼になると、開の部屋を出て園美の22の部屋へと急いだのだった。


園美の部屋の前へと到着すると、光一が慎重に口にくわえたマスターキーをそこへ通した。

ピッと音がして、開錠されたのが分かる。

その後、このドアノブが動いて、ドアが開きさえしたら、襲撃は8割がた成功したということだった。

そう、毎日、これが開かなかったらと、ハラハラしながらも開錠をしていたのだ。

『…行きますよ。』

開が唸るように言うと、大きな狼姿の光一と壮介が、揃って鋭い目で頷いた。開は、どうか開いてくれと祈りながら、ノブを引いた。

…ドアは、すんなりと開いた。

勝った!!

開は、目に見えて気分が高揚してまるで飛ぶように部屋の中へと走り込んだ。

部屋のベッドの上では、園美が普通にシーツにくるまって眠っていた。しかし、普通に寝ているのと違うと分かるのは、就寝中なら必ず見える、呼吸による胸の上下動が驚くほどに少ないからだ。本当にぴくりとも動かないので、既に死んでいる死体を噛まされているのではと思うことまであったが、しかし血しぶきは生きているそれで、死んでいるわけではないのは分かっていた。

開は、横を向いている園美の首に狙いを定めて、そうして、頸動脈目掛けてひと噛みし、この食い破っている牙が抜けた時に血が噴き出すのは分かっていることだったので、回避方向を慎重に考えた。そうして口を離すと、血しぶきを一瞬にして避けて飛び退く。

口には、暖かい皮膚を食い破った感触が残っている。ヒトとしてなら耐えられない感触も、狼としてなら達成感というか、狩りをした後の高揚感のようなものが湧き上がって来る。

開は、なるべくどっちつかずの感覚を持つようにして、ヒトでも狼でもない、自分を保とうと努力していた。

『大丈夫か?お前、ぼうっとして。』

光一の声が聴こえる。開は、答えた。

『大丈夫です。意識ははっきりしてるんですけど、狼に心底なってしまわないように、ヒトの感覚も忘れないようにしているんで。』

光一は、それを聞いても特に表情を変えることはない。もちろん、狼のままなので表情はないのでそんなものだ。

『そうか、お前はそうなのか。オレは、特に何も感じなくてな。ヒトとしてとか、狼としてとか変わらない。オレはオレの感覚のまま。だから、混乱もしないし、最初に人狼になってしまった時も平気だった。』

開は、驚いた。光一は、狼になってからもあまり感覚が変わらないのか。

壮介が、それを聞いていて横から言った。

『こいつはそうなんだってさ。オレも、開と同じでヒトの感覚と狼の感覚の戦いなのに、光一はそうじゃないらしいよ。』

開は、羨ましかった。狼になっても、変わらない感覚とは何だろう。

光一は、照れたような声音で言った。

『いや~鈍感なのかもしれない。しかし、ゲームが終わったらもう狼になることもないのかもしれないと思うと、少し残念な気もするけどな。聴覚も鋭敏だし、怪我したってすぐ治る。ヒトが鈍くさいから、何でも有利に立てるしこのまま元の生活に戻ったら、多分いろいろ便利だと思うんだが。』

開は、そう言われてハッとした。確かにそうだ。ゲームが終わったら、ただのヒト…。

『…本当ですね。それは、考えてなかった。もうこのまま生きて行くような気持ちでいました。』

だが、壮介が言った。

『オレはいいと思う。こんな状態で、いきなり街中で狼になんかなったらどうするんだよ。自分で自分を扱えるようになるのに時間が掛かりそうだぞ?ま、悪い夢だったと思って忘れた方がいい。みんな、全部な。』

開も光一も、そこで黙った。言われた通り、これは悪い夢だ。昼間は投票で仲間が次々に死んで逝き、そして人狼の自分達は職場の仲間を夜な夜な食い殺す。こんなゲームをして、皆今まで通りに仕事が出来るのだろうか。騙された人達は?疑われ、吊られた人達は?襲撃され、消えた人達は?慎一郎は、きっとみんな生きて帰れる、と言っていたが、どこまで信じていいのか分からない。もしかして、勝利陣営以外の人達はみんな、もう戻って来ないんじゃないだろうか…。

勝利は目前だというのに、人狼の三人の足取りは、重かった。

そうして、その日の襲撃は成功して、終わったのだった。

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