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責任

「え、英悟?なんだよ、どうしてそんなに笑ってる?」

司が躊躇いながら、どこか怯えながら言うのに、英悟は笑って手を振った。

「ああ、もう隠し通せないって思ったからな。ああ、そうなんだよ。オレは人狼…ただ、さくらの言ってることは真実と嘘の混合だ。分かるか?嘘ってのは粗方真実を言って、そこに混ぜ込んだ方がうまく騙せるんだぞ?郁人も、大したことないな。あいつの言うことを、全部信じるなんてさ。」

郁人は、ためらいがちにさくらを見た。さくらは、慌てて首を振った。

「嘘なんて言ってません!全部本当のことです!」

英悟が、いきなりそんなことを言い出したので、動揺しているようだ。声は乱れ、体が震え出した。英悟は、声を立てて笑った。

「ああ分かった分かった、オレが悪かったって。お前がボロ出して疑われたからって切り捨てようとして。だが、お前が悪いんだぞ?吊られるのが怖すぎるって、勝手に狩人騙りなんかするから。もうこれ以上庇えないって思ったんだから仕方がないじゃないか。」と、英悟は、開に視線をやった。「すまないな、開。こいつ、どうしても死にたくないみたいでさ。お前とオレって感じで言えば、真実と嘘を混ぜられるから、郁人の勘も働かないだろうって考えたみたいだ。それに、そう言っておけばオレとお前、二人を吊る間生き残れて、勝てるって思ったんだろうよ。結局、痴話げんかに巻き込んだようなもんだったな。びっくりさせて、ほんとにすまん。」

開は、戸惑いながらも頷いた。そうするより、無かったからだ。

司が、やっと頭が回って来たのか、落ち着いた様で、言った。

「…つまり、お前とさくらが、人狼ってことか?」

英悟は、サバサバとした風で頷いた。

「ああ。ちなみに他の人狼も教えてやろう。優花、舞花、オレ、さくら。残りの一人は、お前達が考えろ。修が狂人なのか狐なのかはオレにも分からん。そもそも、狐の断定は出来ないが、昨日吊った椎奈がどうも狐だったようだなと人狼の中では話していたんだ。人狼にだって見えないものはあるんだ。」

司が更に訪ねようとすると、さくらが叫んだ。

「違う!私は嘘は言ってない!私は狩人なの、人狼じゃない!」

英悟は、呆れたように手を振った。

「もういいって、さくら。バレたんだよ。どう足掻いても無駄だ。お前は一人で助かるつもりだったみたいだが、オレは二人で死ぬ覚悟はあるんだぞ?」

さくらは、ブンブンと首を振った。

「違う!私は人狼じゃない!死にたくない!」

司が、うるさそうにさくらを一瞥してから、英悟を見た。

「なら、お前達の他に、あと一人人狼が居るってことだな?それで、終わりなんだな?」

英悟は、面倒そうに何度も頷いて見せた。

「そうそう、オレとさくらを二日かけて吊って、その後残った中から一人を探せばいいさ。いろいろ引っ掻き回したんだ、これぐらいは教えてやってもバチは当たらないだろうしな。」

「やめて!その人は嘘をついてるわ!郁人さん、分かるでしょう!」

さくらが叫んでいる。しかし、郁人は戸惑いがちに英悟を見てから、またさくらを見た。そして、弱々しく首を振った。

「…いや。すまない、英悟は落ち着いてて、とても嘘をついてるようには見えないよ。」

開は、それを聞いて驚いていた。英悟は、ここへ来て人狼の能力をフルに発揮している。危機に瀕して、いきなり覚醒したかのように、すっかり平常心で、郁人にすら見破られないように演じ切っているのだ。

英悟は、フッと息をついて、肩の力を抜いた。

「さて…じゃあまあ、オレから吊ってくれてもいい。さくらがうるさいし、オレもこうなったからには観念したよ。さくらは真狩人だってきかないだろうけど、こいつは死にたくないから勝手にCOして勝手に墓穴掘った人狼仲間の中でも厄介者だったんだ。優花といいさくらといい、オレは仲間は男ばかりが良かったとつくづく思うわ。」

英悟は、よっこいせ、と声に出して言うと、立ち上がった。司が、英悟を見上げた。

「英悟、お前がやってたことは許せないが、それでも最後に、ちゃんと言ってくれて助かった。それで、人狼の襲撃は、どうなってるんだ?あの、獣に噛まれたような跡とか。最後に、それだけでも教えてもらえないか。」

英悟は、じっと黙って司を見たが、フッと笑うと、答えた。

「あれは、オレ達が直接やったんじゃないんだ。腕輪に襲撃先を入れたら、あとは勝手にやってくれる。だから、オレ達だって朝起きて初めて入力した相手がどうなったのか分かるんだ。ちなみに、聞いたところによると、薬が注射されて意識を失ったところを襲撃されるらしい。暴れるのを防ぐためだ。だから、襲撃された本人は、まだ自分が眠ってるだけのつもりで居るんじゃないか。」

司は、それを聞いて、泣きそうな顔をした。そして、無理に笑った。

「そうか。何も分からないのか。理不尽に襲撃されるのに、なんだかホッとしてしまったよ。今日の吊り先は、お前かさくらで、皆で話し合って決めておく。」

英悟は、穏やかに微笑んで、頷いた。

「ああ、覚悟は出来てるよ。」

英悟は、そう言うとゆっくりと歩いて、そこから出て行った。さくらは、まだ何か叫んでいたが、誰も聞いていなかった。

開は、英悟を侮っていたことを後悔した。英悟は、言った通り責任を取ったのだ。さくらに裏切られて、ショックで何も出来ないかと思って下に見ていたが、人狼として仲間を守って逝くことを選んでくれた。

光一と壮介も、顔を見合わせている。

開は、慎一郎のためばかりでなく、英悟のためにも、必ず勝って終わろうと心に決めていた。



それからの話し合いは、さくらがうるさいのでキッチンに閉じ込めておこなった。

さすがの郁人も、もうさくらの話を聞こうとは言わなかった。英悟とさくら、どちらを吊るかと話し合った時、光一は冷静で扱いやすそうな英悟を残して先に煩いさくらを吊ろう、と提案したが、郁人が、万が一さくらが真狩人だった時のことを考えて、もう一度チャンスを与えるためにも、英悟から吊ろうと言った。そして万が一、護衛成功が出たり、襲撃されたりしたら英悟は嘘を言っていたということになるので、さくら吊りは考え直せるということだ。

だがしかし、護衛成功が出せない限り、さくらは吊られるだろう。人狼はバカではないので、仮に真狩人だったとしても襲撃するなど考えられないからだ。

開は、これは賭けだな、と思った。ここで、さくらとの読み合いに負けたら、護衛成功が出て一気にこちらに不利になる。英悟の犠牲は、無駄になるのだ。

…念のため、狐フラグを立てておいた方がいいのか…。

護衛成功ではなく、狐噛みだと言えるように。

開は、人狼としていろいろと方法を考えながら、その日を過ごしたのだった。


その日の投票は、皆迷いなかった。

さくらも、その時にはすっかりおとなしくなり、黙って椅子に座って、腕輪に英悟の番号を入力した。

そして、英悟はさくらの番号を入れて、穏やかに、悲鳴も上げることなく、地下へと沈んで行った。誰が見ても、英悟が人狼で、全て覚悟の上だったのだと思わせるのに十分な最期だった。

灯りがついて、英悟の椅子が無くなっているのを見ても、誰も表情を変えなかった。これで、人狼が一人居なくなったのだ。英悟によると、あと、人狼は二人。その二人のうち一人は、狩人を騙って露出している。実質、探さなくてはいけないのは、たった一人潜伏しているという、ラストウルフ…。

司が、郁人と話をしながら居間を出て行くのを見送りながら、開は襲撃に備えていた。今日は、どうしてもさくらに負けるわけにはいかない。どうしても、護衛成功を出させるわけにはいかないのだ。

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