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狩人

光一が、通りすがりに、英悟に声を掛けた。

「英悟」とそこから、それは小さな声にした。「今日の襲撃は、司にする。さくらに、司を守るなと言ってくれ。」

そうして、光一は通り過ぎた。

開には聞こえたが、他の誰にもヒトには聞こえていないのは分かっていた。そもそも、皆自分の部屋のドアを開けるのに一生懸命で、こちらを気にもしていない。

開は、とうとう共有者に手を着けるのか、と思いながらも、部屋へと戻って人狼の役職行動の時間を待った。


午前0時。

村役職の行動は23時までで終わっている。

人狼たちの部屋のドアは、音を立てて開いた。

もちろん、そのドアの音は他の部屋の誰にも聞こえない。人狼同士には聞こえたが、ヒトとはそれほどに不便で無力なものだった。

部屋から外へと出て来ると、壮介と光一、英悟も出て来ていた。

英悟が、言った。

「さあ、じゃあ今日はどうする?司となると、あんまり付き合いのない開が噛んだ方がいいんじゃないか?」

開は、確かに友達で同期の他の三人より、自分の方が問題なく噛めるかな、と思ったので頷こうとすると、光一が首を振った。

「いや、気が変わったんだ。司は残しておこう。今日は、部長を噛む。」

開も驚いたが、英悟ももっと驚いた顔をした。

「なんだって?お前が司だと言うから、さくらには司を噛むから部長でも守ってくれたらいいって言っちまったぞ?!あいつ、疑われてたから、共有を守ってたって言わせようと思って…。」

光一は、英悟に向き合った。

「それでも、だ。司を噛むって言ったんだろう?さくらに。」

英悟は、怪訝な顔をしながらも、頷いた。

「ああ。お前がそう言ったんだろうが。」

すると壮介が、脇から畳みかけるように言った。

「今日は部長だ。」と、腕輪を上げた。「今日こそオレが噛む。お前は黙ってろ。」

そう言いながらも、もう壮介は襲撃先を自分の腕輪で入力していた。英悟が、それを止めようと手を出したが、その時にはもう入力を終えていた。

「…入力した。」と、体に薬が回るのを感じる。『行くぞ。10番の部屋へ。』

壮介は、口にカード型のマスターキーをくわえると、さっさとそちらへ向かった。英悟は、同じように人狼の型になりながら言った。

『狩人が守ってるぞ!ドアが開かない。ロックが解除されないからな!』

しかし、光一がその後ろへとついて行きながら、言った。

『まあ見ていろ。恐らく開く。開いたら、お前にとって良くないことが起こってるんだろうな。』

開は、そこまで聞いてどういうことなのか分かった。しかし、英悟には理解出来ないらしく、黙ってついて行く。そういえば、英悟は人狼になると頭が弱くなるのだ。初日に比べたらかなりマシになったが、それでもやはり頭が回らないのだろう。

狼の型の壮介が、器用にカードキーを通して、10番の部屋のロックを開いた。問題は、運営が管理している、ドアの閂のような自動でしまるもうひとつの鍵の方だ。

もし、狩人の護衛か狐ならば、その鍵が開くことはなく、人狼の襲撃は失敗することになる。

狼の壮介がそっとレバーを下ろすと、ドアがすんなりと開いて来た。

『!!』

それには、英悟が驚いていた。混乱したのか、廊下を行ったり来たりし始めたが、暴れているわけでもないので、開はそのまま放置する。

中へ入ると、角治がベッドで安心しきっていたのか、普通に布団から四肢を投げ出して寝ていた。それでも、呼吸が静かなところを見ると、やはり運営から薬が投与されており、ちょっとやそっとでは起きない状態になっているのが分かる。

壮介が、昨日とはうって変わってためらうことなくスーッと寄って行くと、本当にあっさりとと、その首筋に牙を食いこませた。

そして、冷静に血しぶきが上がる位置とは違う場所へと飛び退きながらその牙を引き抜くと、振り返りもせず、さっさとそこを後にした。

一部始終を見ていた開は、目の前でピュッピュと血が溢れるのを見たが、今日は興奮することもなく、なぜか落ち着いていた。

…今夜は久しぶりによく眠れるかもな。

そんなことまで考えていた開は、まだ歩き回っていた英悟を無理に部屋へと押し込むと、自分も部屋へと戻り、その夜は本当にぐっすりと眠りについたのだった。


カチリと何かを棒か何かで打ったような音がする。

開は、ハッと我に返るような形に目を開いた。人狼である彼の体は、既にヒトの型に戻ってはいたが、内包する能力は健在で、すぐに自分が何をすべきか意識に登り、考える暇もなく飛び起きてドアノブに手を掛けていた。

ドアが開き、外の声が一気に鋭敏な聴覚に煩く襲い掛かって来た。開は、あまりの不快さに思わず顔をしかめて、必要な情報を頭の中で選り分けた。

「ああ!部長が…!部長!」

司の声がする。

角治の部屋は開の真隣りで、司はそこで叫んでいるようだった。反対側の隣の部屋に居る光一が、後ろから出て来て開の肩をポンと叩く。開は、小さく頷いてその後ろから来た壮介と、三人で角治の部屋へと足を踏み入れる。

後ろから、他の何人かの気配が来ているのは分かっていたが、それは無視して言った。

「どうして…昨日は部長じゃないはずなのに。」

司は、シーツを真っ赤に染めた中で真っ青な顔で目を閉じている角治の前で、膝をついて言った。光一は、後ろから眉をひそめて言った。

「…どういうことだ?共有者は、人狼と話でもしているのか。」

皆の空気が、一瞬凍る。しかし、司は勢いよく振り返って首を振った。

「そんなはずないだろう!オレ達だって、それなら狙われることもないしここまで悩みはしない!」と、さくらを指した。「そいつに!そいつに騙されたんだ!人狼からオレを噛むって聞かされたって!だから疑われないように部長を守れって指示があったって!全部嘘だったんだ!そいつは人狼だ!」

隣りに居た、園美が慌てて側から離れてさくらを見る。さくらは、真っ青を通り越して土気色の顔になりながら、ガクガクと震えて何度も首を振った。

「そんな!私は、本物の狩人です!人狼に役職を知られて、襲撃されたくなければ言われた場所を守れって言われて!昨日も言った通り、人狼は、英悟さんと開です!」

やっぱりそうか。

開が思っていると、英悟が、列の一番後ろでそれを聞いて、愕然としているのが目に入る。

司は、さくらにつかみかからんばっかりになりながら、叫んだ。

「嘘だ!嘘っぱちだ!見ろ、オレじゃなく部長が襲撃されたんだぞ!英悟と開のことだって、昨日郁人が怪しいと言った二人だから思いつくまま名前を出しただけなんじゃないのか!お前は、人狼だ!絶対そうだ!まんまと騙されて、部長を殺されてしまった!明日はオレだ…きっと、そうなんだ!」

最後の方は、司も混乱してしまっていて自分で何を言っているのか分かっているのかどうかも定かでなかった。そんな司に、貴章が歩み寄った。

「司、落ち着け!とにかく、一度朝飯食って落ち着こう!それから、話し合いをして…7時ぐらいでいいか?」貴章は、皆に同意を求めて視線を送る。皆は、無言で頷いた。貴章は、頷き返した。「よし、じゃあ7時に居間に集まろう。とにかく、今は落ち着こう。」

そうして、その場は解散になった。

英悟はまだ呆然としていたが、開は声を掛けることもなく、光一と壮介に促されて、階下へと降りて行ったのだった。

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