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押し付け合い

慎一郎の白は、壮介と篤夫。そして黒を出したのは、舞花だった。

篤夫は吊られ、舞花は投票に来なかったルール違反で追放になった。

なので、今現在生きている慎一郎のグレーは、貴章、恭一、光一、開、英悟、郁人、園美、椎奈の8人になる。

共有者は、この8人の中から疑わしい人を選んで、今日吊ると決めた。

開は、発言の量から考えて、やはり今日吊られるのは、椎奈ではないか、と思えた。

園美も、後半発言数が減って来ているが、それでも最初に結構積極的にゲームに参加していたのは、記憶に鮮明だ。

貴章と恭一は、進とかなり仲が良く、襲撃を受けて死んだ時のあの取り乱しようを考えても、もしも人狼であったなら、絶対に襲撃はしなかっただろうと思わせた。あの時、別に人狼が襲撃するのは進でなくても他にたくさん居たし、あの二人のうち一人でも人狼ならば、絶対に襲わないだろうと考えられたからだ。

そうやって村人目線で考えて行くと、開自身も、今の共有者との会話で信用度が少し上がっているように見えるし、英悟も同じだった。光一は、狂人と思われている修の黒であり、吊られるとしても後回しになるだろう。郁人は、勘が外れたと共有者に思われて少し信用度は落ちたかもしれないが、それでも今日いきなり吊るほどの落ち方ではない。そうやって消して行くと、最後に残るのが、椎奈なのだ。

開は、わざと考え込むような顔をした。

「そうですね…司さんが言った8人の中から、それぞれに怪しいと思う人に入れたらいいんじゃないですか?それこそ、共有が確信しているならいざ知らず、共有者だって村人同様に分からないんだ。責任を押しつけるのもあまりにも無責任な気がするし、自分の票には責任を持つようにしたら。」

それには、壮介も頷いて同意した。

「そうだな。みんな、共有者に期待し過ぎてる気がするんだ。間違っていたら責めるようなことを言って。それじゃ押し付けてるだけだ。よほど確信があるなら指定してもらったらいいと思うが、分からないならグレランでどうだ?」

英悟が、頷いた。

「確かにな。じゃあ今夜は、慎一郎のグレランってことで。」

司は、それを聞いて角治を見た。角治は、頷いてから、皆を見て言った。

「じゃあ、そうしよう。オレ達だって、本当に誰なのか分からないんだ。郁人と話した時には、開と英悟なのかとか考えたんだが、しかしこの二人の話を聞いていても、誰かを庇う様子もないし、繋がっていそうもない。何より、怪しいと言った郁人自身が、もう今は落ち着いていて嘘をついていないと言う。疑う余地もなくなった。オレ達も他の村人達と同じように、入って来た情報から真剣に考えて、一票を入れるよ。」と、皆を見回して、ひと息ついた。「…じゃあ、まだ投票まで30分あるな。ちょっと休憩しよう。その間に、考えてくれ。トイレも食事もその間に済ませてしまってくれ。解散。」

皆の肩の力が、一斉に抜けるのを感じた。

開は、自分も力を抜くと、ハーッと深くため息をついて、何か飲み物をと、立ち上がってキッチンへと向かった。

園美とさくら、椎奈は三人だけ残った女子で集まって、頭を突き合わせて何やらボソボソと話しているのが目に入ったが、近くに英悟と光一が居たので、どうせ聞いているのだろうと、開は気にすることもなく通り過ぎたのだった。


ペットボトル飲料を手に、開は居間へと戻って来た。

皆、10分前のシャッターが閉まって来るまではダラダラ過ごすと決めているらしく、光一や壮介、英悟達は、こちらのソファへ体を沈めて顔に雑誌やタオルを乗せ、光を遮って横になってじっと動かなかった。

女子達は離れた椅子でまだ何やら話し込んでいる。

貴章と恭一、司と角治は近いソファに腰掛けて何やら小声で話していた。開がそっと光一達の方へと寄って行って座ると、三人はその状態のまま、それは小さな、まるでため息のような声で話し合っていた。

開は、出遅れて急いで聞き耳を立てた。

『まあ、これで恐らく今夜は椎奈だろう。それにしても女子達の、お互いには入れないでおこうって協定に意味があると思うか?どうせ入れるだろう。園美のあの言い方は、疑ってないのに適当に入れたりしない、って言い方だったじゃないか。つまり、疑ってたら入れるってことだろう。』

光一が言う。開は、やっぱり女子達の話を聞いていたんだと思ったが、自分はペットボトルに口をつけて他の村人に、何かを聞いていると思われないように平静を装っていた。

壮介が答えた。

『あれは学生時代の名残だろうよ。マラソン一緒に走ろうとかさ。結局、守られることのない約束ってことだろう。椎奈は自分が吊られたくないから黒を出されてる光一のことばかり言っていたから、恐らく光一に入れるだろうが、さくらはどうするだろうな?椎奈に入れると思うか。』

英悟が、それに答えた。

『入れると思う。恐らく椎奈になるだろうと言ってただろう。それを話して置いたからな。一瞬ヒヤッとしたが、さくらは裏切っていなかった。少しでも疑った自分を殴ってやりたかったよ。やっぱり、さくらは裏切ったりしない。』

開は、自分も同じくさくらを迷いなく疑っていたが、別に自分を殴ってやりたいとは思わなかった。何しろ、あってもおかしくないことだったからだ。

光一が、呆れたように言った。

『妄信するなっての。しっかり見張っておけ。裏切られたら、お前が責任を取るんだからな。いい加減に目を覚ませ。別陣営なんだぞ、あいつとは。』

開が、そんな会話を聞いていると、シャッターが閉まり始めた。本当にいきなりで、カシャンカシャンと窓の外の海と、こちらを遮る鉄の塊が降りてしまって行く。

それと同時に、部屋には照明が点灯し、明るく照らされた。

角治が、立ち上がって皆に言った。

「さあ、椅子へ座ろう。遅れては大変だ。」

皆は、黙って頷くと立ち上がり、それぞれ、自分の番号の書いてある椅子へと座ってその時に備えた。


2→23

3→9

4→23

7→9

9→23

10→23

11→23

13→23

14→23

22→23

23→9

24→23


大きく、ディスプレイには「23」と表示された。

「そんな!」椎奈は、両脇の園美とさくらを見た。「どうして?!お互いに入れないんじゃなかったの?!」

園美が、肩をすくめた。

「疑わしくなかったらね。もう、あなたしか黒い人っていないんだもの。違ったらごめんなさい。」

『№23が追放されます。』

園美の声に重なるように、ディスプレイから声がした。照明が落ち、真っ暗になる。

「嫌よ!」椎奈の声が、暗闇に聞こえて来た。「嫌よ、私は村人だもの!いや…きゃああああああ!!」

機械のモーターのような音と、何かが開く音が聴こえる。

そして、椎奈の声が遠ざかり、いつもの静寂が垂れこめた。

『№23は追放されました。それでは、また明日の投票時間にお会いしましょう。』

照明が着き、感情のない声がそう告げる中、皆は椎奈が居た場所を見た。

そこはもうもぬけの殻で、やはり椅子すら、そこには残っていなかった。

必要な事とはいえ、そうなってしまったことがやはり心に重くのしかかって来るらしく、司も角治も、暗い顔で重い動きで立ち上がった。

「今日も、終わった。何のコメントも無かったんだから、人狼と狐を始末出来てないし、また両陣営の勝利でもないようだ。これから、必要なものを持って、自室へ帰ろう。今日のことも踏まえて、明日からのことも考えなきゃならない。議論の時にも出たように、オレ達共有も、同じ村人だ。お前達と何ら変わりない情報しかない。だから、一緒に考えて欲しい。どちらにしろ、もう終盤だろう。ゲームが終わった時どうなるのか分からないが、最後まであきらめずにがんばろう。」

角治が言うのに、皆は心ここにあらずの状態で頷く。何を言われても、人が一人、自分たちの投票で死んだかもしれない事実は重い。

人狼たちは、また今夜一人襲撃して殺さなければならない覚悟もあって気もそぞろなのは仕方がなかった。

そんな風に、皆が皆自分のことに精一杯になりながらも、自室へと帰って行った。

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