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役職

進は、8号室へと足を踏み入れた。

入る直前、隣りの7号室の恭一と視線が合ったが、お互いに何も言わずに部屋へと入って来ていた。

部屋は、善治と全く同じ仕様になっていた。小奇麗で普通ならここを一人で使えることにラッキーだと思ったかもしれないが、今の進には部屋のことなどどうでも良かった。急ぎ足で机へと足を進めると、その上にある黒い封筒を手に取った。そして、ゴクリと唾を飲み込んでから、それを出そうとしてハッとした…そうだ、もしも狼だったら…。

進は、急にドアが気になって、封筒を手にしたまま急いで引き返すとそっとドアの鍵を回した。確かに鍵がかかったのを確認してから、進はゆっくりと封筒からカードを引っ張り出した。

そのカードは、真っ黒な地に赤い狼らしきシルエットが描かれた、普通にゲームをする時に使うものと大差ないものだった。

「なんだ、やっぱりただのゲームなのかよ…。」

進は、緊張していた自分が馬鹿らしく思えたが、そのカードをひっくり返してみた。

すると、そこには肩にクワを担いだ平凡な服装の男の図柄が描かれてあって、その下には漢字で「村人」とはっきり書かれてあった。

…村人かよ。

進は、急に力が抜けてドアの側に座り込んだ。村人。何の力も持たない、推理だけで狼を見つけて吊るしかない役職。

「いつもオレってこんなだよなあ…。」

狼とか狐とかの方が面白いのに。

進は、そんなことを思った自分に驚いた。面白いとはなんだろう。さっき、目の前で部長が死ぬのを見たんじゃなかったか。まだ実感が湧かない者達が多いとはいえ、その死体を運んだ自分には分かったはずだ。あれが、確かに死んでたということが。

進は、ブンブンと首を振って頭を切り替えると、カードを封筒の中へと戻して引き出しへとしまった。そして、さっき角治が言っていたことを思い出して、急いで階下のさっきの部屋へと向かった。


そこには、まだ誰も降りて来ていなかった。

ここへ来るんじゃなかったのかと、戸惑いながらもソファに腰掛けると、その後部屋へとおずおずと井上千秋(いのうえちあき)と、新井さくらが入って来て進を見て驚いた顔をした。

「あら、宮下さん?他には?」

進は、手を振った。

「まだだ。オレも今来たばっかり。役職確認っていうのは、そんなに時間が掛かるものなのか?」

千秋が、首を傾げた。

「わかりません。あの、でも狼とか、狐とかだったらお互いに確認のために通信して話してるかも。」

進は、顔をしかめた。

「確かにな。」と言ってしまってから、ハッとした顔をした。「そうだ共有者もだ。お互いに確認してから降りて来ようとするだろう。まだ10時まで時間はたっぷりあるし、これから狼探しするなら共有者にはしっかりしてもらわないとな。」

千秋とさくらは、ああ!と納得したように頷いた。

「そうですね!」

そんなことを言っている間にも、すぐに次々と居間へと皆が入って来る。恭一も、進を探るように見ながら横へとやって来てそこへ座った。

「早いな、進。」

進は、頷いて怪訝な顔をした。

「お前は遅いな、恭一。なんか大層なものが当たったんじゃないのか。」

恭一は、顔をしかめた。

「オレが?いつなり平凡さ。当たりたくても当たらない自分が悔しくて思わず枕に当たっちまった。占い師とか霊能者だったら役にも立てるのに。」

進は、ため息をついた。

「おんなじか。オレもクワ担いでるのがお似合いかってしばらく呆然としちまったよ。」

それを聞いた恭一は、少し驚いた顔をしたが、何も言わなかった。

段々にソファが埋まって来始めたところで、最後に司と、角治が険しい顔をして入って来た。

そして、二人並んでソファの中央へと人を寄せて座ると、角治が重々しく口を開いた。

「…待たせてすまない。で、今ここへ来る間に聞いたんだが、大野が共有者の片割れらしいんだ。だから、これからは大野に進めてもらうことにした。」

隣りで、大野司がメモ帳を片手に顔を上げた。

「そう、オレが共有者だ。相方は潜伏してもらうことにした。それで、小森部長に相談してこのゲームに詳しいし、確定村人のオレが話し合いを仕切った方がいいんじゃないかって事になってね。それでいいかな。」

進は、同期の司の引きの強さに妬み半分、感心もしていた。いつも、こいつはこういう時重要なものを引くのだ。

「…別にいいけど、部長の役職だって分からないんだし、これからはお前自身が決めろよ、司。それと、共有者の相方と。」

司は、進を見た。

「分かってる。急にオレが仕切り出したら、皆が退くかと思って部長に相談しただけだ。これからの事だけど…もちろん、オレは逃げるのを諦めてはいない。だが、今の時点では進もさっき言ってた通り、いきなり殺されないとも限らない。だから、あいつらが松本部長を殺した方法を調べる間、このゲームを進めた方がいいと思うんだ。」

貴章が、言った。

「どうやって調べるんだ?誰もその瞬間を見る事が出来てないんだろうが。」

皆が顔を見合わせる。すると、離れて座っていた慎一郎が言った。

「…考えたんだが。」皆が、慎一郎を見る。慎一郎は怯むことなく、右手を上げて見せた。「腕輪じゃないか。」

それを聞いて、みんな一斉に自分の腕へと視線を落とした。相変わらず一分の隙無くぴったりと腕にくっついて離れない。不必要に分厚いこの金属の腕輪に、何か細工がしてあってもおかしくはない。

「腕輪に、いったい何が?」

ためらうように言う司に、慎一郎は言った。

「みんなも分かっているように、これはぴったりとくっついている。もしここに注射器のようなものが仕込まれていたら、ここから何かの薬品を注射されて殺されたとしてもおかしくはない。この大きさだし、人一人殺すぐらいの薬品なら仕込めるだろう。何しろ、一人一回分だけあればいいからな。」

それを聞いたみんなは、例外なく真っ青な顔をした。自分の腕から離れないこの小さな機械の中に、そんなものが仕込まれているというんだろうか。

貴章が、それに爪をかけて必死に何とか出来ないか格闘し、それでも外れないと見ると、目の前のテーブルへとガンガンと音を立てて腕輪を打ち付けた。

「こんなもの!最初油断してこんなものを着けちまったばっかりに!」

隣りに座っていた、原口修(はらぐちおさむ)が急いで貴章を羽交い絞めにした。

「落ち着け、貴章!荒れても仕方ないだろうが!」

「落ち着いてられるか!原口さん、あんただって今すぐでも殺されるかもしれねぇんだぞ!」

貴章が暴れるのに、進も修に加勢して押さえに掛かった。

「落ち着けって!暴れて取れるんならみんな暴れるぞ!お前はみんなに迷惑かけてるんだ!このままじゃ、あんまり迷惑掛けたら吊られるぞ!」

貴章は、ピタと動きを止めた。そして、途端にブルブルと震え出しながら足元から崩れ落ちて、進にすがるように言った。

「オレは…オレは村人だ!今夜はいいが、明日から狼が何をして来るのかと思ったら怖くて仕方がねぇんだよ!オレは、どうせ臆病だ…!」

女子達も、身を縮めてそんな様子を固唾を飲んで見ている。進は、貴章の肩を抱いて、ソファへと座らせた。

「お前は強いよ。そうやって殺されるかもしれない現実を受け入れたから怖いんだ。怖いからって現実を見ようとしないヤツの方がよっぽど臆病だ。現実からは逃げられないってのにさ。心配するな、みんなで狼を探そう。」

それを聞いて貴章は少し肩の力を抜いたが、逆に角治は険しい顔をした。怯えた空気は残ったが、それでも気力を振り絞って司が顔を上げた。

「じゃあ、腕輪が原因なのかはまだ分からないが、もしそうなら尚更ゲームを進めて行かないと何をされるか分からないぞ。1番から順番に誰が何番なのか書き記して行く。ついでに、誰と誰が親しいのかも知らせてくれ。そうしないと、一緒に居るから狼同士なんじゃないかとか無駄な疑念で本当の狼を見つけられなくなるかもしれないからな。じゃあ、一番から頼む。メモして行くから。」

慎一郎が手を上げた。

「じゃあ、私から。1番だ。」

そうして、司は一人一人から聞いて、書き記して行ったのだった。

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