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かく乱

郁人と司が話し込み出したので、角治が提案してその朝の話し合いは一時解散となった。

居間を出て部屋へと帰る時に、チラと見た二人はまだ何やら話し込んでいた。

開は、郁人の勘も大概無視できないものだと思っていたので、その様子には胸が騒いだ。今まで、それほど発言して来なかった郁人も、これだけ人数が絞られて来ると積極的に出て来るだろう。さっき、人狼になってからの自分達を気取れないのだと知った時、郁人は敵ではないと思ったが、しかし最初に日には自分達を観察して、確かにいくらか当てていたのだ。そうすると、その時の記憶を辿って、司に何かを提案するかもしれない。

気になっていると、英悟が通りすがりに小さな声で言った。

「話がある。お前の部屋へ行っていいか。」

恐らく、横を通っていたとしても、ヒトには聞き取れなかっただろう。しかし、開にはしっかり聴こえていたので、小さく頷いた。


開が部屋へと入って待っていると、廊下に気配がなくなってから、英悟がやって来た。開は、サッとドアを開いて英悟を中へと促す。英悟は、入って来てすぐに、言った。

「さくらが疑われた。このままでは、明日にはあいつが吊り対象にされてしまう。どうにか、オレとお前で慎一郎が真占い師説を押して、光一と壮介を吊ってその間に発言力がある奴らをドンドン噛んで行くってのでどうだ。お前とオレが生き残ってさえいれば、人狼陣営は勝つんだろう。」

ずっとそんなことを考えていたのだろう。開は呆れたように言った。

「英悟さん、気持ちはわかるけど、これは考えられたことだと思う。狩人は、こちらについた時点で人狼陣営みたいなものだから、ある程度こういう覚悟もしなきゃならなかったんだよ。さくらには気の毒だけど、襲撃されないなら疑われるから吊られるし、生き残る道は残ってないだろうな。」

英悟は、怒鳴るように言った。

「そんな!狩人になったのは、あいつのせいじゃないのに!なんで殺されなきゃならないんだ!」

開は、フッと息をついて、首を振った。

「英悟さん…もう分かってるはずだよ。共有者に疑われたんだ。さくらは、その命を懸けないと潔白を証明出来ないんだ。オレ達に出来るのは、さくらを真狩人として死なせてやるか、偽狩人として追放されるか、どちらかだ。」

英悟は、苦々しげな表情で開を見た。それは、襲撃して殺すか、吊り対象として殺すかということだ。

「…最後まで、生き残る道は無いってのか?」

開は、頷いた。

「このままで行くと、今日はグレーから吊って、明日は共有者のどちらかが死ぬだろう。さくらが生き残っているのは不自然だから、間違いなく吊り対象になる。それを回避するには、同じぐらい黒い誰かをでっち上げるしかない。残っている村人は五人、狩人と人狼で五人、五対五だから、ギリギリだな。誰かをこっちへ引き込むことが出来たら、さくらは生き残れる。だがこっちの誰かが吊られたら、もうその次の日から徹底的に不利だ。票を合わせてるのが人狼だから、誰が人狼なのかバレてしまうし、言い訳が大変だ。何しろ、篤夫さんを吊ったのと同じメンバーだからな。いくら馬鹿でもわかるだろう。」

英悟は、唇を噛んだ。その時、ドアの向こうから声がした。

『おい、早く開けてくれ。』

開は、それが光一の声だと分かって、急いでドアを開いた。すると、光一と壮介が、なだれ込んで来た。

「すまん、話が聴こえて来て話がしたかったから。」と、光一は英悟を見た。「お前がオレと壮介を犠牲にしてでもさくらを守りたいのは分かるが、人狼陣営が負けたら元も子もないんだぞ。村人陣営がオレ達を吊ったら、もっと間口は狭まる。さくらは、もっと最終日まで生き残れる可能性は下がるんだ。それに、狐だってまだ居る可能性がある。さすがに二人ってことはないだろうが、一人ぐらいはまだ居るかもしれない。椎奈辺りを、オレは吊っておきたいと考えてるんだ。郁人のことは、噛みで判断すりゃあいいと思ってるからな。」

英悟は、光一を睨んだ。

「…本当に、お前達が居ることでさくらが生き残る確率が上がるのか?明日の、投票先を合わせることで?」

光一は、顔をしかめた。

「まあ…そう簡単なことじゃない。明日生き残っていた時点で、村人達はいっせいにさくらを吊ろうとするだろう。それを回避させるためには、本当ならこっちが吊りたい誰かに票を誘導するべきなんだが、それは難しい。だから、あちらの票を分散させることを考える。選択肢の幅を広げるんだ。そうして、村人票がばらけるようにする。そうしたら、一枚岩の人狼陣営は有利だ。何を言われようとも、最終的に全員が一人に入れたらいいんだからな。迷った村人達は、一票でも他に入れれば負ける。それで、終わりだ。」

開は、横から言った。

「…つまり、光一さんと壮介さんの黒を利用して、二人に疑惑を誘導するってことですね。例えばオレが光一さんを疑い、英悟さんが壮介さんを疑って、対立する。共有者達は、恐らくさくらを押すだろう。それだけで、村人は混乱する。一票でもばらけさせたらいいオレ達にとって、有利な展開に持って行ける。」

光一は、頷いた。

「そういうことだ。あくまで、人狼がこれだけ生き残っているからこそできることだ。村人の数が減ることが分かっているから。その夜に村人を噛めば、ゲームオーバーってことだ。」

開は、大きくため息をついた。

「それは…難しいですね。オレが信用され過ぎてもいけないし、英悟さんが信用され過ぎてもいけない。共有まで丸め込んでしまってもいけない。力加減が難しい。」

しかし、英悟は決心したように何度も力強く頷くと、開を見た。

「開、やってくれるか。さくらを、生き残らせたいんだ。オレのために、こちらについてくれたんだ。あいつは、狩人だったのに。頼む。」

開は、じっと英悟を見た。そうだろうか?・・・さくらは、恐らく自分が英悟の言う通りにしなければ、簡単に襲撃されてしまうことを知っていた。だから、こちらに合わせただけのような気がする。そこまで、英悟のことを思っているわけではないのではないだろうか。

しかし、開は頷いた。

「わかりました。でも、それはあくまでも明日からのことです。今日は、椎奈を吊りたい。園美でもいいが、最初からよく発言していた園美を共有者達に疑わせなければならないから、面倒だし。椎奈なら、昨日も共有達に票をもらっていたから、吊りやすいだろう。何より、狐の可能性もある位置だ。英悟さんは、さくらにそう伝えてください。今日は、椎奈に入れるようにと。」

英悟は、ホッとしたように頷いて、表情を緩めた。

「わかった。じゃあ、明日から村人をかく乱するってことで。」と、踵を返した。「さくらの所に行って、さっそくそれを伝えて来るよ。大丈夫、あいつも今日の共有者の様子には驚いたと思うし、こっちに頼ってると思うから。」

そうして、ドアの前で一度立ち止まって外の様子を伺ってから、外へと出て行った。

それを見送っていた光一と壮介が、開に向き直って、声を潜めて言った。

「英悟にはああ言ったが、お前は本当はどう思ってる?」

開は、同じように小さな声で言った。これなら、いくら人狼の聴力でもこの防音設備に阻まれてとても聞き取れない。

「正直、そんなにうまく行かないんじゃないかと思っています。英悟さんはさくらが自分を想って人狼側についていると思っているようですが、さくらから見たら選択の余地などなかった。承知しなければ襲撃されるんですから、こっちにつかざると得なかったでしょう。そう考えると、いつ裏切ってもおかしくありません。郁人さんはとても鋭い目をもっているし、もしかしたら共有ととんでもないことを考えて来るかもしれないでしょう。あちらも、さくらがこっち陣営なら、丸め込んで逆スパイにしようと思うかもしれません。そうなると、オレと英悟さんは人狼だとさくらに知られているから、怖いですよね。オレとしては、さくらはさっさと殺してしまいたいんですけど。」

光一は、フッと笑って開に寄ってさらに声を小さくして言った。

「オレ達もそれは思うところだ。で、今日はさくらを殺すことは出来ないだろう。英悟のその後の行動が心配だ。だが、明日ならいける。さっき話した通り、お前にはオレか壮介のどっちかを疑ってもらう。英悟には、違う方を疑わせる。だが、オレと壮介は、さくらを疑う。さくらを、徹底的に攻撃する。元より村の総意は襲撃されない狩人を吊ることだろう。そして、最終的にオレと壮介の二人は、さくらに投票する。」

開は、驚いた顔をした。

「え…票を、割るんですか。」

すると、壮介が頷いた。

「ああ。今度ばかりはオレ達は村人側につくように見せかけるよ。さくらは、生き残ろうともしかしたら英悟とお前のことを言い出すかもしれない。だが、そんなものは言い訳にしか聴こえないんだ…何しろ、襲撃されない狩人だからな。こっちにしたら、願ったりだ。英悟は、最後までそんなことはないと庇うだろう。だが、お前はもしかしたら、と迷うふりをしてくれ。そうして、最後はさくらに投票を。そうしたら、さくらは確実に吊れる。その後、英悟が何をわめこうと誰も聞いちゃいない。仮にオレ達の正体をばらすようなことを言ったところで、その夜の襲撃で全ては終わるんだ。人狼勝利のために、お前の位置は重要だ。やってくれるか。」

開は、その話を考えた。的を射ている…そうした方が、皆が明日生き残れる可能性が高い。他の誰かを疑わせるにも、材料がないのに、さくらにはあるのだ。

「…分かりました。」開は、頷いた。「明日は、そういう段取りで行きましょう。それで、全ては決まる。」

光一と壮介は、満足げに頷き返した。

開は、もう終盤だなと息をついた。狐は、もう居ないだろう。人狼目線、真占い師だった修が占ったのは、恭一、光一、壮介。なので人狼目線今残っているグレーは、貴章、郁人、園美、椎奈。狐は目立つ行動をとりたがらないだろうから、積極的に意見を言っていた園美や郁人は村人側ではないかとみている。貴章は、何も見えていないからか怯えすぎていて、あの様子は村人だと考えられた。そうなると、可能性があるのは、椎奈。椎奈さえ、殺してしまえば、狐らしき人間は全て殺したことになる。念のため、郁人も噛んでおきたいところだが、それは後の事…。

開は、息を整えた。今日は椎奈吊りを推そう。勝負は、明日からだ。

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