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襲撃と

モニターを睨んでいた要は、コツコツと神経質にキーボードの端を叩いた。隣りに居た彰が、コーヒーの紙コップを要に渡しながら、笑った。

「何をイライラしている、要?いい感じに人狼が仕上がって来てるじゃないか。これはいい検体になる。やはり私の最初の調査は間違いなかったって事だな。人狼に適応しそうなDNAを選んだんだ…珍しいんだぞ?さりげなく集めてはいるが。」

要は、彰を振り返った。

「そうじゃないんです、彰さん。良かったんですよ、彰さんのアミノ酸のお陰であれらは定着していい感じに落ち着いて来ているから。でも、ゲームとしてはどうですか?人狼らしくないでしょう。正味殺し合ってるんですから。知的なゲームでなくなってます。」

彰は、ハッハと声を立てて笑った。

「いいんだよ、たまにはこんなゲームもある。そもそも人狼ゲームのプロを選んでいるのではないのだからな。このゲームはもののついでなのだから。ゲームがメインなら、そういうことに長けたヒトを選んで連れて来させるところだ。だが今回は、検体が欲しいんだろう?」

「それはそうなんですけど…」

すると、後ろの扉が開いて、男が入って来た。顔色は良くないが、辛そうでもないようだ。

「どうだ、要?あいつらは、自分達だけでもやってるか。」

要は、そちらを見て言った。

「ええ、襲撃に行きました。今回はあの、一番定着が悪そうだった英悟って人狼もうまくやってるようです。慎一郎さんは、もう起きて大丈夫ですか?結構ざっくり切られてたけど。」

慎一郎は、腕を上げて、それを振って見せた。

「自分で切った後なんでね。体に薬が流れたと思った瞬間にやったので、痛みも感じなかったし。この通り、きれいさっぱりだ。さすが人狼の再生能力だろう?」

要は、やっと微笑んだ。

「人狼の再生能力は、確かに目を見張るものがありますものね。彰さんがそれを利用してヒトの治療にも応用できるようにしていると言っていたけど、本物の人狼には敵わないし。」

慎一郎は、笑って頷いた。

「オレは、人狼は優れていると思う。ヒトに戻りたいという気持ちは、オレには理解出来ないな。真司だって博正だって、結局はこの能力に、頼って今生きているのに。今更鈍感なヒトに戻ったら、きっと気が狂いそうになるかと思うよ。」

それを聞いた彰が、興味を持ったようだった。

「ほう。そうか、おもしろい体験だな、慎一郎。元々優秀な私が人狼になったら、果たしてどんな気分なのか興味をそそる。」

それを聞いた要は、顔色を変えた。

「なんですって?!駄目ですよ彰さん、もう自分を検体にするのは歳もあるし無理だって言ってたじゃないですか!こればっかりは合う合わないがあるんですからね!駄目ですよ!」

彰は、要の慌てふためいた様子に、声を立てて笑った。

「ハッハッハ、知ってるだろう、私は自分の細胞のことは一番よく分かっているのだ。私には、人狼化は出来ない。この薬が出来た時、真っ先に自分を検体にすることを考えて調べたから分かってるんだ。無謀なことはしない。まだ私を信じていないのだな、君は。」

要は、頬を膨らませて横を向いた。

「何をするか分からないから、心配してるんじゃないですか。無茶ばっかりするんですから。」

彰は、まだフフフと笑いの衝動と戦いながら、言った。

「君より私の方が実は慎重だぞ?私は結果が分かっていて検体をやるからな。分からないままに実験体になどなるものか。」と、慎一郎を見た。「それで、この人狼が圧倒的なゲームはこのまま終わるのか?君はどう思うのだ。」

慎一郎は、モニターを見ながら、険しい顔をした。

「…いえ。まだ村人が多い。それに、英悟がさくらを庇っている限り、不安が付きまとっています。人狼陣営が勝利したら、村人陣営は全て死ぬことを、いつ英悟が気付くかってところでしょうか。そこを何とか誤魔化して、何とか過半数まで持って行けたら勝てるでしょうけど。」

彰は、ふーんとモニターを見つめた。モニターの中では、壮介がためらってなかなか踏み出せずにいるのを見た、光一が綺麗に人狼に変化して決められた通り、征司の首筋をひと噛みしているのが映っている。征司の首からは血が噴き出し、見る間に辺りを真っ赤に染めて行った。

そんな状態でも、光一は冷静に血しぶきを避けて、さっさとそこを退避していく。

「…ふむ。そうか、どっちが勝ってももういいがな。この光一という検体は、かなり博正に近い反応をしていて、いい検体になりそうだ。早くこっちへ引き上げて来ていろいろ試してみたい気がするのだが。」

要は、じっとモニターを見ながら、頷いた。

「そうですね。英悟は後々精神に不具合を起こす可能性がありますが、光一と壮介、開の三人は良い感じですよね。こっちへ引き取った後のことを考えて準備しておきましょうか。」

彰は、頷いた。

「ああ。あれらもあの体になったからには協力してもらわねばな。単独で生きるには、人狼には一般社会は難しい場所だ。納得してくれたらいいが。」

要は、チラと彰を見た。

「納得しなかったら、どうするんですか?」

彰は、ふふんと鼻を鳴らした。

「記憶を消して社会へ放逐する。見張りはつけておくがな。だが、いつまでも自分の中の人狼を抑えておくことは出来ないから、いつかは知らずのうちに人狼化して、社会から除外される方向になるだろう。ヒトは理解出来ないものを化け物と呼ぶ。そして、抹殺する。」

慎一郎は、誰にともなく、言った。

「愚かな。そこに人類が進化する鍵があるとは思わないのか。」

彰は、それを聞き取って、クックと笑った。

「愚かなのだ。だがそうでなければ検体になるヒトが居らず我らの研究も進まないからな。良いのだよ、利用価値のあるヒトは愚かでも。」

モニターの向こうでは、早々に襲撃を終えた人狼たちが、さっさと部屋へと帰って行くのが映っていた。



襲撃は、滞りなく終わった。

壮介が、土壇場で噛むのをためらったため、光一が横から首筋を狙ってひと噛みしたのだが、あっさりと血しぶきを避けて、さっさと部屋から引き揚げて来た。

いつものように、皆で黙ってそれぞれの部屋へ帰って体が元へ戻るのを待ち、そうしてシャワーを浴びて万が一血を浴びてしまっていた場合のために着替えると、急いでベッドへと滑り込んだ。

開は、それでも眠ることが出来なかった。

襲撃を見るとそうなのだが、死んだ場面が見えてとかそういうわけではなくて、血を見たことで興奮するというか、神経が昂って目が冴えてしまうのだ。

やっと明け方になってうつらうつらし始めた頃に、部屋の鍵が開く音で目が覚める、という毎日を、ここのところ続けていたので、開は精神的に参って来ていた。

肉体的にはどうかというと、実は全く疲れなかった。

今までなら、自分の意思とは関係なく眠気が来たら眠ってしまっていた開が、今は数日寝ていないにも関わらず、何時間でも集中して物事を考えていることが出来た。

つまりは、今の時点で言えるのは、三日ぐらいなら眠らなくても疲れた顔をしないでいられるということだった。

人狼は、どうやらヒトとは違う能力をいろいろと持っているようだった。

それでも、他のヒト集団たちに、自分達が他と違うことを気取られてはいけない。

開は、良い感じに寝起きの様子を演出しつつ、今日もカチリと音を立てて開いたドアを開いて、廊下へと足を踏み出した。

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