思惑
全員が集まって来たのを見て、角治が言った。
「じゃあ、今日の昼の会議を始めるぞ。とにかく遺体はどこかへ持ち去られて、部屋で大変なことになってるわけじゃないことが分かって、オレも安堵してるんだ。この夏にいったい善次の遺体なんてどうなっちまってるんだろうって、オレも見に行くのが怖かったりしたからな。きちんと処置されてるんなら、安心もしていられる。」そして、一度息をついて、続けた。「じゃあ今日は、このまま狐らしい人を吊るのか、それともそれは占い師に任せて、黒の中から吊って行くのか、グレーを吊るのか、意見を聞いて行きたいと思う。誰か、意見を言いたい人は居るか?」
すると、修がすぐに言った。
「黒を吊りたい!オレは黒を見つけてるんだ。狐は呪殺で対応できるじゃないか。せっかくわかってるんだから、オレは黒を吊って行った方が絶対に効率がいいと思う。」
慎一郎はそれに対して首を振った。
「オレだって黒を出してるんだから吊りたいと思うが、でも村人にはどちらが真占い師か分からないんだ。間違った方を吊ってしまって無駄な縄になるぐらいなら、占い先を減らすためにもグレーから誰か選んで吊った方がいいんじゃないだろうか。そうしたら、グレーも減って人狼も狭まって来て追い詰められて行くんじゃないか。」
角治が、うーんと顔をしかめた。
「占い師達の意見は分かった。じゃあ、どっちの占い師も狐は自分達が呪殺するってことだな?」
二人は、同時に頷いた。
「呪殺する。」
修が言う。慎一郎も、言った。
「呪殺したいから、自分から指定させて欲しい。昨日は修に譲ったのだから、今日はオレから選ばせてくれ。」
それには、角治は頷いた。
「ああ、それは司とも話し合ったんだ。平等に今日は慎一郎から先に占い先指定してもらおうってね。じゃあ…それを信じて、狼には真占い師を噛まないで欲しいってことだけ言っておくかな。もしかしたら、狼から見たら真占い師が誰なのか、見えているかもしれない。」と、優花を見た。「それぐらいなら、教えてもらってもいいんじゃないかな?」
優花は、ビクッとしたが激しく首を振った。
「私は何も言わないわ!狐のこと以外、聞かないで!」
修も、慎一郎もそんな優花を鋭く睨む。優花は、そんな視線に晒されて縮こまった。
角治が、ため息をついた。
「分かった分かった、君は他の人狼仲間が怖いんだったな。じゃあ人狼仲間に聞いて来てくれないか。真占い師がどちらか、分かっているかどうかだけでいい。」
優花は、ビクビクと回りに座る者達を見ていたが、頷いた。
「…わかりました。」
角治は、皆を見回した。
「それで、占い師の意見は聞いたが、皆はどう思う?占い師を信頼していいか。」
恭一が、手を上げた。
「それでいいと思います。あの、進がノートに書いて残していたんですけど、その意見を言っていいですか。」
角治は、興味を持ったらしく、言った。
「ああ。進は、何を言い残していた?」
恭一は、頷いて怖がることもなく、血で赤黒くなったノートに視線を落とした。
「進は、修が真占い師だと思ったらしい。根拠と言ったら何もないようなんだが、直感でそう思ったんだと。それで優花が人狼だから、慎一郎が狂人だと考えた時に、どうしても人狼が、狂人と繋がって狂信者のような感じになってしまっているんじゃないかって書いてある。つまり、狂人と人狼が話し合って村人を騙してるんじゃないかって進は考えたみたいだ。オレも、そうかもしれないって思っている。進は、それに気付いたから襲撃されたんじゃないかって、貴章と話し合ってたんだ。その後も、何か書きかけてたけど、そこで襲撃されたようで文章になっていなかったから分からなかった。」
すると、慎一郎がそれに反論した。
「オレが狂人だと考えた進を責めるつもりはない。村人には分からないことだからな。だが、恭一の考え方はおかしい。今の話だと、書いている最中に襲撃されたんだろう。人狼の役職行使時間は0時から4時だ。全員が部屋に帰るのは22時。つまりは、進が何を考えて何を書いているのかなど、人狼には知る由もなかったはずなんだ。襲撃とノートの内容は関係ないと思う。単に、進がいろいろと意見を出すので面倒になって噛んだだけだと思うぞ。書いてる途中で襲撃されたんなら、尚更だ。間違った方向に村人を導くために、進はそれを遺したんじゃないと思う。」
恭一は、そう言われて黙った。角治が、よく分からなくなったのか司を見る。メモを取っていた司は、顔を上げて慎一郎を見た。
「確かに慎一郎の言うことは間違ってないなあ。進がそれを書いている途中で襲撃されたなら、その内容のせいで襲撃されたわけじゃないとオレも思う。恭一は、その内容を進が話しているのを聞いたのか?」
恭一と貴章は、顔を見合わせた。そして、二人とも首を振った。
「…いや。聞いてない。このノートを見て、初めて知った。進は、無駄に自分の考えを会議で言うべきでないと思ったようなんだ。慎一郎が頭が切れるから、まるで見て来た人狼みたいに感じたらしくて…自分も、そんな風に皆に見られたらいけないと思ったようだ。」
司は、恭一に手元のノートに視線を落とした。
「それもノートに書いてあったのか?」
恭一は、頷いた。
「そうなんだ。あいつは、ほんとにいろいろ考えてた。」
恭一は、途端にしょぼんと元気がなくなった。また悲しみが襲って来たようだ。心の支えにしていたようだから、恭一にとっては進の死はかなりのショックなのだろう。
もちろん、他の皆にとってもショックだったが、那恵の死で一度経験しているので、もうあきらめムードになっていて、無感動に近い感情になっていたのだ。
司は、気の毒そうに息をついて、言った。
「そうだな。人狼に襲撃させるほどだから、結構強敵な村人だったんだろうし、オレだって惜しいと思ってるよ。でも、今はみんなのことだ。お前自身は、どう思ってるんだ?」
恭一は、じっと考えてから、言った。
「…オレは進を信じてたから、進が信じた修さんは信じたいと思う。呪殺、早く出してもらって確定出来たらいいなと思っている。狐は吊ってもそれが狐だったと断定する術がないから、吊るより呪殺して欲しいと思ってるし、オレも狐はもう占い師を信じて任せようと思う。それで、修さんの黒を吊りたいと思う。」
角治と司は、顔を見合わせたが、頷いた。
「そうか。恭一の考えはそうなんだな。」と、他の皆を見た。「じゃあ、他の人からも話を聞こうか。番号が早い方から。4番の壮介は?」
壮介は、特に構えることもなく顔を上げた。
「そうだな…オレは、慎一郎が占ってくれてるから、やっぱり慎一郎を信じてるな。そんな直感とか形のないものは信じてない主義だ。命が懸かってるんだから尚更な。慎一郎は、最初から落ち着いていて論理的だったし、それに村のことをよく考えてる。変に執着して取り乱すこともないし、占い師の中じゃ一番信用出来るかなって思ってるよ。だから、慎一郎が言うように、占い先が狭まるんだったらグレーから吊って行ってもいいんじゃないかとも思う。もしみんなが黒吊りを押すなら、オレは当然慎一郎の黒に入れるけどな。」
司は、頷いた。
「そうか、君は慎一郎を信じてるんだな。じゃあ、次は…グレーだから…11番の開。」
開は、顔を上げた。回りに人が集っていて気が立っているが、しかし、昨日よりは落ち着いていた。段々に薬に慣れて来ているのだろうとホッとしながら、開は言った。
「オレは正直慎一郎を信じたいんだが、みんながあまりにも慎一郎を信じてるみたいだし、修さんが真占い師の場合のことも推理しなければいけないと思い始めてる。そう考えると、恭一さんが言った進さんの考えは当たってるような気がするんだよな…。だから光一を吊っても、いいかもとかもとか思い始めてはいます。あとは霊能者が見てくれるし。」
司は、それをメモって頷いた。
「君はどっちつかずでその場その場で判断する感じか。占い師のどっちを信じてるわけでもないってことだな。」
開は、顔をしかめた。
「うーんどっちかって言うと慎一郎なんだけど、頭から決めてしまってるわけじゃないですね。だって、確信なんて持てないじゃないですか。決めてる人って何をもって決めてるのかなって逆に不思議ですけど。」
それには、司がムッとしたよう顔をした。
「それは、人狼の優花が修の黒の光一を吊るのになんの抵抗もない様子だったし、何も考えないで発言していたからじゃないか。ああいう自然な反応は大事なんだぞ。人狼はみんな、相手を騙そうとしてるんだからな。」
開は、困ったように肩をすくめた。
「確かに。オレは疑り深過ぎるのかもしれないですけどね。」
そう言われて、司は少し、不安そうな色を瞳に浮かべたが、すぐに気を取り直して自分のメモに視線を落とした。
「開の意見は分かった。じゃあ次のグレーは…あれ?そうか13番、英悟もグレーだったか。よく名前が出たり言い合いしたりしているから、役職持ちとか占われたとかいう感じだった。」
英悟は、あからさまに眉を寄せて不機嫌な顔をした。
「オレだってこんな面倒な雰囲気の中じゃあ落ち着かないんだ。篤夫にはやたらとこじつけられてケンカ吹っ掛けられるしさ。早いところ占って欲しいぐらいだ。」
司は、英悟に少しばつが悪そうな顔をしたが、続けた。
「いや、まあメモには書いてあるから。で、お前は誰が真占い師だと思う?」
英悟は、修と慎一郎を交互に見た。
「どうだろうな。オレはどっちかというと慎一郎か。修は、さっきお前も言ってた通り、人狼が興味ないところに黒出してるからなあ。だから投票したいのは慎一郎の黒の舞花だな。だがオレは、グレーを狭めるっていう慎一郎の意見に賛成なんだ。それで狼だけでなく狐だって追い詰められるし、後々を考えたらその方が村のためになるように思う。」
司は、真剣に聞いていたが、息をついて頷いた。
「そうだな。お前の意見にはオレも納得するよ。じゃあ次のグレーは、郁人。」
すると、郁人はすぐに立ち上がった。
「言いたいことがあったんだ。」と、優花を指さした。「優花は嘘をついてる。オレは、普段の優花と比べてみて最初から怪しいと思っていたんだ。こいつは、人狼じゃないんじゃないか?」
皆の視線が、優花に向いた。
優花は、怯えたように皆を見返した。




