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共謀

「…もう一人気配がする。」

慎一郎が、小声で言った。いくら人狼の聴覚が鋭くても、この防音設備の中この音量では外まで音は漏れないだろう。光一が、言った。

「あいつは恐らく、オレ達がここに居るのを知っていてここへ来た。だが、何を言いに来たにしても、オレ達まで今、さくらに正体を知られるわけにはいかない。」

慎一郎が、頷いて側のクローゼットを示した。

「こっちへ。英悟にはわかるだろうが、それをバラすようなら、こっちにも考えがある。オレ達二人はこっちへ隠れよう。」

慎一郎と光一は、クローゼットの中へと入った。開は、あからさまに嫌そうに顔をしかめた…ということは、この部屋の主である自分はどうあってもバレるわけだ。

小さくため息をつくと、開は、ドアを開いた。

「…英悟さん。ルール違反じゃないですか。」

開が、隠そうともせずに不機嫌な顔で応対すると、さくらはビクッと肩を揺らした。英悟は、そんなさくらを引っ張って部屋の中へと押し入ると、ドアを閉めた。

「オレにだって覚悟があるってことだ。他にも居たんじゃないのか。」

開は、首を振った。

「余計なことは言わない方がいいですよ。あなたは人狼としての力が弱い。勝てませんからね。」

英悟は、一瞬グッと黙った。しかし、すぐに表情をゆるめると、言った。

「ふん、脅すわけか。ま、いい。」と、さくらを見た。「さくら、同じ人狼陣営の、開だ。」

さくらは、ただ怯えているようだったが、それでも震えてはいなかった。開は、微笑む気にもなれなくて、英悟を睨んだ。

「なんです?あんたらはお互い恋人同士の信頼関係ってのがあるみたいですけど、オレにはありませんからね。自分の陣営の仲間を守るのに精いっぱいで、村役職を守るなんて考えたこともないですし。それで、バラしたのは今夜襲撃するからですか?」

さくらは、表情を硬くする。英悟は、グッと眉を寄せて、きつい声で言った。

「違う。さくらはオレ達に協力すると言っている。オレ達が守るなと言った相手は守らないと。」

英悟は、さくらと小突いた。さくらは、ビクッと体を動かしたが、慌てて頷いて、言った。

「英悟さんと一緒に生きて帰りたいです…私は、あなた達に協力します。」

開は、じっと黙ってさくらを見た。今はそんなことを言っているが、自分が守らなかったために死んで逝く村人たちを見て、恐らくは罪悪感に苛まれることも出て来るかもしれない。今こんなことを言っていても、いつ裏切るか分からないのだ。

増して、自分は誰にも占われていない上、役職にも出ていない完全潜伏の狼だ。そんな自分のことを他の村人などに告げられてしまっては、人狼陣営の切り札が無くなってしまう。

開は、英悟が自分の所にやって来た事実に、イラッとして言った。

「英悟さん、あなたは人狼陣営に多大な障害を持ち込んだんだぞ。さくらが、何が何でもこちらを裏切らないと言えるのか?オレ達は、こちらが危ないと見たらどんな手段を使ってもさくらを消す。それでもいいんだな?」

英悟は、分かっていて捨て身で来たらしい。すぐに頷いて、言った。

「それでいい。さくらは、絶対に裏切らない。オレ達のために、オレ達が求める情報を持って来てくれるはずだ。裏切ったら、オレが責任をもってさくらを襲撃する。」

すると、慎一郎の小さな声が、クローゼットから聞こえた。

《それだけじゃ許せんな。そいつが裏切ったら、お前も一緒に死ね。普段の、何も関係ない時に殺したら、ルール違反で追放になるからな。凶器はキッチンへ行けばいくらでもある。》

その声は、囁くよりもまだ小さな、まるで吐息のような声だった。さくらは慎一郎と開が黙っているので不思議そうな顔をしたが、英悟と開にははっきりと聞こえていた。英悟は、目を見開いて何か言いたそうだったが、それでも、言った。

「…分かった。じゃあ、さくらを信じてくれるんだな。」

開が待っていると、クローゼットの中で何やらボソボソと言っているのが聴こえ、その内容まではさすがの英悟も開も聴こえなかった。そして、慎一郎の声が言った。

《いいだろう。働きを見させてもらおう。じゃあ今日は、慎一郎を守れと言え。オレ達は他を襲撃するからと。》

英悟と、開は真剣な顔をして、視線を合わせた。英悟が、口を開いた。

「…さくら。他の仲間が言うには、今日は慎一郎を守れと。他を襲撃するからと。出来るか?」

さくらは、何も聞こえないのに、英悟と開は分かっているようだったので、戸惑いながらも、何度も頷いた。

「分かったわ。私は、昨日も慎一郎さんを守ったの。だから、疑われないと思う。でも、真占い師を残して大丈夫なの?」

開は、驚いた。そうか、まださくらは誰が人狼なのか知らないのだ。

英悟は、苦笑しながらも、言った。

「ああ。まだ狐が居るから。呪殺してもらわなきゃならないだろう。まあ、まだ人狼の間でもいろいろ意見が合わない時もあるから、誰を襲撃するなんてその日の気分次第で分からないんだがな。お前だけは、避けるから。」

さくらは、段々に気持ちが固まって来たのか、落ち着いた様子で、頷いた。開は、さくらが怖気づかないかと不安だったが、黙ってそれを見守った。慎一郎の声が、言った。

《じゃあ、さっさとおの女をここから連れて出てくれ。オレ達まで知られるわけにはいかないんだ。》

英悟は、開に向かって肩をすくめると、さくらを促して、そこを出て行った。その顔からは、入って来た時のような思いつめた様子は無くなっていた。

二人が出て行くと、慎一郎と光一が、クローゼットから出て来た。

「困ったものだな。開は最後の砦なんだぞ…黒出しもされてないし、完全潜伏の狼だ。それを知られるってことは、後半でかなりダメージになるんだ。オレ達は露出してしまっているから、いつ吊られても仕方ないと思っているが、開にだけは生き残ってもらわないと、オレ達が戻って来れないじゃないか。」

開は、息をついた。

「そうですね。でも、万が一の時は死んでもらうんでしょう。英悟さんは本当にさくらを殺すと思いますか?」

慎一郎は、クックと笑った。

「やるだろうな。オレ達に噛み殺されるぐらいなら、自分が殺して自分も死ぬタイプだ、あいつは。あれだけ必死になるんだしな。オレならさっさと襲撃してるよ。自分の重荷でしかないからな。」

光一は、それでも深刻な顔をした。

「あいつ、オレ達を売らなきゃいいがな。死ぬ前にさ。」

慎一郎は、首を振った。

「そうはさせない。一人、死んでもいい奴が居るだろう。おかしな行動をしたら、あいつに英悟とさくらを殺させる。最低でも英悟を処分させれば、さくらはオレ達が襲撃出来るんだ。心配ない。」

光一は、フッと肩の力を抜いた。

「あいつに英悟が殺せるか?」

慎一郎が口を開こうとしたが、開が先に言った。

「大丈夫ですよ。」光一が不思議そうな顔をしたので、開はニッと笑った。「英悟さんはまだ、ぼうっとしている時がある。その時にオレが気絶させて、襲わせますから。あの人は、人狼化にまだ体が追いついてないんだ。隙だらけですよ。」

慎一郎は、よく言ったとばかりに頷いた。

「ああ。オレ達は引導を渡す必要はない。あの女を使おう。どこまでも馬鹿で案外利用出来るじゃないか。」

光一が、ハッハと笑った。

「確かになあ。オレももしかしたらあいつのお陰で吊りを逃れられるかもしれないしなあ。もう今夜辺りかって諦めてたところだったんだが、案外生き延びる術も出来そうだ。」

三人は、声もなく笑い合ってから、廊下の様子を耳をそばだてて聞き、そうして誰も居ないと確認して、それぞれの部屋へと戻って行ったのだった。

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