襲撃の真実
1(慎一郎)→21(舞花)
2(司)→25(千秋)
3(貴章)→25(千秋)
4(壮介)→21(舞花)
6(征司)→21(舞花)
7(恭一)→25(千秋)
8(進)→25(千秋)
9(光一)→25(千秋)
10(角治)→25(千秋)
11(開)→15(篤夫)
12(修)→21(舞花)
13(英悟)→25(千秋)
14(郁人)→25(千秋)
15(篤夫)→21(舞花)
17(優花)→25(千秋)
21(舞花)→15(篤夫)
22(園美)→25(千秋)
23(椎奈)→25(千秋)
24(さくら)→25(千秋)
25(千秋)→21(舞花)
進は、今日の投票先メモを見て、もう何時間も考え込んでいた。
ほとんどが舞花と千秋に分かれていたが、しかし舞花と、開だけが篤夫に入れている。
それは確かに、進も迷ったぐらいだから分かるのだが、二人だけというのはどうだろう。それも、片方はなぜか篤夫と敵対している舞花なのだ。
開…。
進は、開の様子を思い出そうとした。しかし、あまり印象に残るようなことはなかった。
初日、司が一人一人に喋らせたとき、意見を言ってからそれほど意見を聞けていない気がする。しかも誰の白でもなく、グレーのままなのだ。
開は、初日何を言っていただろう。…そうだ、優花が偽で、進が白だと言っていた。優花に投票したいとも言っていた。あの時点では、まだ優花が人狼だと分かっていない時だった。ということは、開は人狼陣営ではないのか。
巧妙に隠れている、狐の可能性も捨てきれない。
進は、眉を寄せた。考えながらペンを走らせていたが、どうにも考えがまとまらない。進は、修が真占い師だと思う。ということは、今夜修がもし狐を呪殺したらと考えたら、狼は噛み合わせて来るだろうか?…いや、狼は狐さえ処分出来たら、村人を減らしたいはずなのだ。優花が狼なら修が真占い師で慎一郎は狂人になるのだから、狂人を守ることは無いし、恐らく噛んで来ない。明らかに村人を噛んで、その数を減らすことを優先するだろう。進なら、そうするからだ。何度も言うが、狼が狂人を守ることはない。狂人の仕事は、狼のために吊縄を消費させて死んで逝くことだからだ。
だが、今慎一郎が狂人だとしたら、仕事をしているだろうか。
それを考えた時、していない、と思えた。誰かを囲っているのだろうか。しかし、少しは怪しい所も出さないと、自分が吊られなくてはいけないのに、このままでは狼を追い詰めてしまうかもしれない。それとも、狂人は、狼を知っている…?
進は、ハッとした。
そうだ、普通のゲームではないのだ。もし、狼側から相手が狂人だと確信出来たら、この腕輪でいくらでも通信することが可能だ。つまりは、狼次第では、狂人を狂信者に変えることが出来るのだ。
もちろん、狼からしても賭けになる。もし、相手が真占い師だったり、狐だったらアウトだからだ。余程確信がないと、出来ない手ではあった。
だが、不可能ではない。
進は、その可能性を考えた。慎一郎が狂人で、狼と連携していたとしたら…慎一郎の占い先は、全て信じられないことになる…。
まさか…。
進は、顔を上げた。そうだ、なぜ気付かなかったんだろう。そうじゃない、真実は別にある。そう、きっとそうなのだ。
進は、考えついたことを、とにかく書きとめようとペンを動かそうとして、腕輪の下の皮膚に、チクリと痛みを感じた。
「?」
その痛みに反応するより先に、指からペンが滑り落ちるのが見えた。
そして、なぜか右頬に衝撃を感じて何事かと思うと、自分の頭は力なく机の上に突っ伏していた。
…なんだ…っ?何が起きているんだ…っ?
進がもはや目も閉じられないでいると、突っ伏したまま見ている施錠してあるはずドアが、スッと開いた。
そして、そこからは数人の人が入って来た…はずだったが、なぜかそれは、気が付くと大きな、人の大きさほどもある狼だった。
…そうか。襲撃…オレ…か。
視界が暗くなる。
また首筋に衝撃を感じたが、しかし痛みはなく、進は真っ暗な闇の中へと、ただただ落ちて行った。
最期に見た時計は、0時を指していた。
「うわあああああ!!進!」
恭一が、叫び声を上げた。
進の8の部屋には、他にもわらわらと人が入って来ている。
進は、部屋にある机に突っ伏して、目を開いたまま、こちらのドアの方を見て、血の海の中倒れていた。
恭一が号泣する中、角治が険しい顔で寄って来て言った。
「…そうか…何か書いてる時に、襲撃されたんだな。やっぱり、噛み跡がある…これは、間違いなく襲撃だな。」
恭一は、しゃくりあげて泣きながら、血が染みたノートを見て、言った。
「村、村人のために、自分が考えたこと、書き残すんだって言って…」と、涙も拭わずに鼻水まで垂らしてそれをすすり上げ、言った。「でも、でも途中だ。きっと、最後まで書けなかったんだ…。」
司が、冷静に言った。
「とにかく、ベッドへ寝かせてやろう。このままじゃ、あまりにかわいそうだろう。手伝ってくれ。」
恭一は頷いて、貴章も泣きながら手伝ってベッドへと移動させた。そして、大事そうにシーツ掛けると、その開いた何も映さない目を閉じてやった。
「進は、最後の瞬間を見たんだな。意識を失って、何も見えないって思っていたのに。何を見たのか、聞きたいよ。苦しまなかったならいいけど。」
司が、重苦しい空気の中、言った。
「暴れた様子はなかったし、多分苦しんではないと思う。ただ、意識があったのか無かったのか、目が開いてても見えてない可能性もあるし。」
恭一は頷いて、貴章と共にお互いに慰め合いながら、扉へと向かう。司も、角治に頷きかけて廊下へと向かうと、後方に居た郁人が、きょろきょろとした。
「あれ?…ええっと、これでみんなか?まだ起きてないヤツいるか。」
そこで、ハッとしたような顔をした角治が、慌てて言った。
「ああ、恭一の叫び声で忘れていた。点呼を取るぞ。1番から頼む。」
慎一郎が、向こうから手を上げた。
「1。」
司が隣で言う。
「2。」
そうして、貴章、壮介と続き、征司の声が聴こえ、恭一が答え、進の番号が飛ばされ、しているうちに、最後のさくらまで来た。
「24。あの、私で最後です。」
さくらが言う。司は、頷いて角治を見た。
「皆居ますよ。呪殺は起こらなかったみたいですね。」
角治は、頷いて言った。
「じゃあこの勢いで今すぐ昨日の役職行動の結果だけ聞くぞ。立ち話ではメモも取れないから、一旦下の居間へ行こう。」
皆、そうしてそのままぞろぞろと下へと向かって行く。
恭一と貴章だけが、進の部屋へと寄ってノートを手に取ると、そのまま下へと向かったのだった。
トイレに行く時間だけは取り、皆で居間のソファへと座ったが、全員がまだ、寝間着のままだった。
寝間着と言っても、持って来た服を着ている者も居れば、自室のクローゼットに置いてあったジャージを着ている者も居る。
そんな中、角治が言った。
「今朝は、進が襲撃された。昨日分かった通り、もう優花の偽が分かったから進の黒を信じさせることは無いということで、村に有益な意見が出来る奴だったし、噛まれたんだろうと思われる。では、占い師の結果を、慎一郎から。」
慎一郎は、頷いて言った。
「オレは、舞花を占った。」と、舞花を見た。舞花は占われたと聞いてホッとしたような顔をした。しかし慎一郎の険しい顔は緩まなかった。「舞花は、黒。人狼だ。」
舞花は、息を飲んだ。
他の人達も、驚いて急いで舞花から身を退いた。
司がチラリと優花を見ると、優花は気の毒そうな顔を一瞬したが、それでも、また表情を引き締めてしまってはっきりとは分からなかった。
回りが自分から離れるのを見て、舞花は我に返り、言った。
「そんな!私は人狼じゃないわ!」
「まあ待て。」角治が、それを制した。「次、修。」
修は、硬い表情で頷いた。
「狐だと言う意見を信じて、壮介を占った。だが壮介は、人狼だ。」
角治が、眉を上げる。
「壮介が?慎一郎と、真っ向から対立ってことだな。」
修は、頷いた。
「そもそも真っ向から対立してるがな、何しろ対抗占い師なんだから。でも、そうなるとオレから見ると、初日に壮介に白を出して的確に囲っている所から見て、慎一郎は狂人っぽくない…狼のように見える。狂人だとしたらすごく優秀な狂人だろう。オレは、もう三人の狼を露出させているぞ、共有。優花、光一、壮介。こいつらは確実に黒なんだ、あと二人見つけたら、それを順番に吊ったら終わりだ!」
角治が、息をついた。
「君が真占い師ならかなり優秀だが、しかしあまりに簡単に黒が出過ぎてるしなあ。優花は光一を吊っていいと言ったんだぞ?あの感じ、芝居じゃなかったし。しかも、今回呪殺が出せてないんだ。まだ信用するのは難しいかな。」
修は、勢いよく立ち上がった。
「明日は出してみせる!明日こそ、絶対に!だから、呪殺が出たらオレを信じてオレの黒は片っ端から吊るんだぞ。狂人なんか放って置いていい。とにかく、狼をなんとしても吊るんだ!あと二人なんだ…あと、二人!」
角治は、分かったと手を振った。
「むきになるな、分かったから。じゃあ、霊能、結果を一斉に言ってくれ。」
「「白。」」
舞花と、征司は同時に言った。
「狐でも白と出るらしいし、あいつが何だったかオレにも分からないが、とにかく白って出たぞ。」
征司が、付け足す。司が、頷いた。
「じゃあ、結果は出揃ったので、一旦部屋へ戻って着替えて、朝食を摂りましょう。会議は、例のごとく昼からにします。それまでに、自分の意見をまとめて置いてください。共有者としては、昨日の夜話し合ったんですが、狐も減らしたいが、それは占い師に任せて、狼が多すぎるので黒に手を付け始める方がいいのか、と考えています。賛成なら誰から吊るか、反対ならどうしたらいいと思うか、各自考えて来てください。では、解散。」
皆が、またぞろぞろとキッチンの方へと向かって行った。しかし、恭一と貴章は、そちらへは向かわず、二人で並んで座って、ボーっとシャッターの開いた窓の外に広がる、大海原を見ている。その窓辺には、進の血まみれのノートが、広げて置いてあった。どうやら、乾かしているようだった。
司は、そんな二人に近付いて行って、言った。
「どうした?進のノートは読めたのか?」
恭一は、寄って来た司を見上げて、首を振った。
「いいや。血でまだ湿ってて無理に開くと破れそうなんだ。でも、このまま放置しておくとくっついてしまいそうだし、こうして開いて、時間が経ったら別のページを開いてって感じで、ちょっとずつ乾かさないと。それに、ペンで書いてあるから、インクが滲んで読めないところもあるみたいだ。」
司は、息をついて二人の横へと座った。
「信じてなかったわけじゃないが、あいつが黒を出された後は、どこか黒出しされた奴、って感じで見ていて悪かったと思うよ。よく考えてて、見るからに村人って感じでいたのに。こんなに早く襲撃されるなんてな。オレの方が早いと思っていた。」
恭一は、また涙を浮かべた。
「オレは進の話から、村人だって信じていたから…。あいつは、昨日はこうなることを予感しているようだった。オレ達に、自分の考えを残て行くって言ってたんだ。」と、ノートを見た。「あれをしっかり見て、何としても生き残らないと。村人が勝てば、あいつは帰って来るかもしれないんだから。」
司は、頷いた。
「そうだな。頑張ろう。早く全て終わらせて、夢だったんだと思いたいよ。」
そうやって、それから三人はそこで、進の話などたわいもない話に花を咲かせていた。
それをこちらから、ちらりと見ている影が居ることには、三人共気付かなかった。




