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交錯

空気は、これ以上にないほど重かった。

女子のすすり泣きがあちこちから聞こえ、男達も落ち着かない。何しろ、那恵が明らかに殺害された無残な状態で見つかった上に、この中に犯人が居ると、共有者が言い切ってしまっているのだ。

もしかして人狼の誰かが指定して、こんなゲームに引きずり込んだ誰かが殺していたとしても、そんな風に弁明することも人狼たちには出来ない。自分の正体を村人たちに知らせて、村人達が自分を殺さないはずはないし、信じるはずもないことを知っているからだ。

まだ憔悴しきっている司を横に、角治が言った。

「起きたばっかりで頭がはっきりしないかもしれないが、役職者たちに聞きたい。」角治は、まるで会社での会議のように凛とした様子で言った。「まずは霊能者。昨日の結果を同時に言ってくれ。行くぞ?せーのっ!」

「白。」

「白。」

征司と舞花の二人は、同時にそう言った。角治は顔をしかめた。

「それはまた寝ざめが悪いな。狐ででもあってくれたら、幾分気分が楽なんだが。」と、息をついて他の方を見た。「では、占い師、慎一郎から。誰を占って結果はどうだったか教えてくれ。」

慎一郎は、ソファで座り直しながら、頷いた。

「オレは、篤夫を占った。英悟との言い合いであまりにも目立ったからだ。だが、結果は白だった。」

篤夫は、肩の力を抜いたが、それでも厳しい顔のまま慎一郎を見ずに居る。

角治は、そんな篤夫の様子をちらりと見てから、頷いた。

「君目線だと、篤夫が生きているということからも篤夫は人狼でも狐でもないということだな。」

慎一郎は、頷いた。

「そうだ。」

角治は、次に優花を見た。

「では君は?」

優花は、まだ那恵を見たショックから立ち直ってないようだったが、震えながらも、言った。

「わ、私は、那恵を占っていたの。だって、奈津美と那恵を指定してたのに、奈津美が吊られてしまったから。那恵は、白だったわ。襲撃されているんだから、そうよね。」

司が、幾分落ち着いた感じで黙々と角治の隣りでメモを取っている。角治は、それを横目に見ながら頷いた。

「じゃあ、修は?」

修は、ごくりと唾を飲み込んだ。目が、真っ直ぐに角治を見ている。そして、その据わった目のまま、言った。

「オレは光一を占った。結果は、黒だ。思った通り、光一は人狼だった!」

光一は、眉を寄せた。一気に場が凍り付き、怯えたような目で光一を見る。光一は、そんな皆の視線を受けて、険しく寄せていた眉を緩めると、ため息をついた。

「…なるほどね。進の気持ちが分かるな。身に覚えのないことを言われてみんなに疑惑の目で見られるってのは、理不尽な気分だよ。オレは村人だ。修が偽物か。ということは、慎一郎が真占い師かな…優花はそれっぽくないし。」

シンと静まり返った空気の中で、光一はそれほど驚いていないように、落ち着いた声色でそう言った。園美は、それを聞いて少し気を許したのか、口を開いた。

「…ええっと…そうね。でも、昨日今日の吊りと襲撃の結果を見て、優花の真もあり得るのかもしれないって思ってしまいましたけど。」

皆が園美を不思議そうな目で見たので、園美は逆に驚いて言った。

「え?ほらだって、優花が指定した二人が次々に居なくなってるのよ?奈津美は霊能者が二人とも白だと言ってるし、襲撃されたってことは那恵だって村人だったし…真占い師の占い先を潰して行って無駄にさせてるって深読みし過ぎかな。」

それには、進が大きくため息をついた。

「深読みし過ぎだと思うけどね。たまたまそうなっただけじゃないか。オレから見たら優花だけは偽だからなあ。」

恭一が、隣りで何度も頷いた。

「オレもそう思う。昨日から怪し過ぎるから、今日白いと言われてもピンと来ないよ。指定先が居なくなってるって、じゃあ人狼は自分の指定先を襲撃したら信じてもらえるのかって話になってしまうし、乱暴なことだよな。」

皆が、うんうんと頷いている。園美は、慌てて言った。

「いえ、あくまでも可能性を言っただけなの。確かにいろいろ考えたら総合的には優花が怪しいのは確かだし。」

そこに、征司が割り込んだ。

「それより、黒が二つも出てるってのが問題だろう。そろそろ、占い師をローラーして行くのか、黒を消して行くのか考え始めた方がいいんじゃないのか。吊縄の数を考えても、人外が一人も減ってなかったらかなり切羽詰まって来てるだろう?狼だって、焦って来てるはずなんだよ…このまま、村側ばっかり吊られたら、ストレートで狐勝ちになるからな。狼も真占い師には狐を消してもらえるまで生きててほしいだろうな。噛めないんだから。」

みんなは、顔を見合わせた。いつも仕切っていた司も、今朝はやはり黙ってメモを取ることに終始している。角治が、息をついて言った。

「そうだな。黒が二人も出て来たし、征司が言う通り方針を決めて行った方がいいかもしれない。霊能者にはまだ生きててもらって、一人ずつ吊って行って色を確定させていきたいところだものなあ。」と、司を見た。司は、黙って角治を見上げている。角治は、ため息をついて続けた。「じゃあ、午前中は各自いろいろ考えて来てくれないか。午後、昼食が済んだ13時からここで、また集まってくれないか。そこで、もう一度話し合おう。結果を踏まえて、共有者の間でも意見をまとめておく。じゃ、解散。」

進は、まだ、起きてから誰も顔すら洗っていないような状態だったのを、そこで思い出した。一同は、バラバラと足取りも重くあちらこちらへと思い思いの方向へ散って行く。進も、何か食べ物を持って行こうとだるそうに立ち上がると、隣りの恭一が立ち上がって言った。

「飯にするか?」

進は、歩きながら頷いた。

「ああ。持って帰って部屋で食おうかなって思ってたんだが、今食べるか?だったらここでもいいけど。」

恭一は、進について歩きながら頷いた。

「ちょっと占い結果のことについて話をしたいし、一緒に飯食おう。昨日の投票先のこともあるしさ。」

すると、後ろから追いついて来た貴章が言った。

「なあ、オレも話に入れてくれ。やっぱりお前らが一番信用出来るような気がするんだよな。オレ、さっぱりわからなくなってるから、考えを整理させてほしいんだ。」

進は、あくびをしながら言った。

「おう、いいぜ。オレから見てお前はどうかまだ分からんが、それでも意見交換は重要だもんな。」

すると、向こう側を歩いていた光一も寄って来た。

「オレもいいか?」進が、驚いて思わず視線を向けると、光一は肩をすくめた。「黒出しされてるが、お前だってそうだろうが。オレから見たら同じ立場なんだ。」

恭一が、複雑な表情をする。進は、ためらったが頷いた。

「いいですよ。光一さん、修さんと昨日やり合ってたし、今日黒出しされてやっぱりかって感じがあったんで…これが白だったら、修さんをもっと信用出来たんだけど、黒だったし。人狼とか狂人でも、あれだけやり合ったら黒出すだろうから。」

光一は、表情を緩めて進に追いついて並んだ。

「良かった。お前までオレが黒だって言い出したらどうしようかと思ったよ。じゃ、さっさと食い物を取って来よう。」

そうして、進と恭一、貴章、光一の四人は、皆から少し離れてキッチンの方へと向かって行ったのだった。

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