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動かなくなったブレット

「送り鼬では無いなら鎌鼬の類か?どちらにしても我からしてみたら大したこと無い下等妖怪じゃのー。そんな下等妖怪が故にこのような派手な登場の仕方をしたのか?」


止まらない九十九神の挑発により怒りで我を忘れて最早人間の姿を保っていられなくなったのだろう、銀色に伸びた長い毛が全身を覆い獣人の姿になり裂けた大きい口からは鋭い牙が鈍く光っている。

弟達と呼ばれていた小さな少年達はそんな姿のブレットから今だに気を失ったままの黒イタチを引っ張り即座に離れた。


「九十九神…これ以上何か言ってみろ!今すぐに消してやる!」


押し殺したような低いうなり声が妖気の充満した部屋に響き、張りつめた空気がピキンと割れてしまうのではないかと思うほどの一触即発状態が続いた。

そんな二人の間に入ったのは以外にもセルリアンだった。


「九十九、お前の気持ちも分かるがこれ以上の挑発はやめろ」


すっと二人の間に入り、頭に血が上っている九十九神に冷静になれと言うように視線で促したが、九十九神は聞く耳を持たずに、


「お前ごときに我が消せると言うのか!身の程をわきまえろ」


広げた扇子をブレットに向けると何やら呪文のような羅列の言葉をブツブツと唱え始めた。


「般若…若波……滅波」


一言一言言葉を発する度に扇子が線のような細い赤い光を帯びていく。


「我ここに滅する」


九十九神の凛とした声に調和し真赤に染まった扇子がブレットに向い烈火の如く真っ直ぐに飛んでいく。

通り過ぎる際に扇子に触れたカーテンの焦げた匂いが鼻につくのとブレットに扇子がぶつかるのはほぼ同時だった。

さすがのブレットも避ける時間が無かったのかはたまたその扇子には何か呪いの類いがかかっていて避けられなかったのか、どちらか分からないが一瞬後ブレットは炎に包まれた。


「お、おいちょっと待てよ!」


いくら何でもやり過ぎだろう?

目の前で起きている事実がまるで映画のワンシーンを見せられているように現実味を帯びていなかった。


「俺の研究室で殺生など許さん」


銀狐は手から銀色の御力(オーラ)を解き放ちこれ以上被害が拡大しないように炎の力を弱めようとした。

しかし、さすが九十九神の霊力は強くそんなもので消える筈が無く延々に燃え盛る炎を前にガクンと項垂れるセルリアン。


やがて…。

力尽きて動かなくなったブレットの焼け焦げた躰を見た時に始めてこれは現実なんだと実感した。


「所詮やはりただの下等妖怪であったな」


戻ってきた扇子についたススを払いながら、クスクスと頬笑う九十九神の狂気じみた姿に誰も何も言えない。

セルリアンでさえもその死体を前に首を横に振るばかりだった。

バシャンと音がしたので振り返って見ると廊下から水の入ったバケツを持ってきた黒狐が愕然とした表情でこちらを見ていた。

あまり顔色の変わらない黒狐でさえも蒼白の表情で動きを止めていた。

1000年前たくさんのモノを殺害してきたオレにとって死体を見たところで驚く事はでは無いが今のこの状態はやはり信じ難く身震いが止まらない。

視線をブレットに戻すと、更に信じ難い出来事が起きていた。

さっきまで丸焦げで全く動かなかったブレットが何事も無かったように起き上がっていたのだ。


「つーか、イテーんだけど、何だよ、今の?」


既に怒りがおさまっていたのか人間の姿に戻っていたブレットは縮れてしまった毛先を見てタメ息を吐いていた。


「あーあ、またトリートメントしてこないと…めんどくせー」


「ブレット…」


「おお、セルリアン!何ベソかいてんだよ!おれちんがこんなんで死ぬ訳ないだろう?」


「…でも、今回は…九十九が相手だったから…」


「相手が神だからおれちんが死ぬと言うのか?神も仏もこの世にはいない。いつでも正しいは自分だけだってあの日言ったろう?」


首元にぶら下がっている花弁のペンダントを握り絞めブレットは視線を遠くにやった。


「あの日、世界で一番残酷な願いを受けたあの日から…」








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