イタチの妖怪
「お前オレの事知ってるのか?」
自分の知らない相手が自分の事を知っている場合多くの者は不審に思うだろう。
特に、学園をこんな風に荒らし破天荒な現れ方をしたチャラい男が自分の事を知っていると言ってきたら誰もが快く思わない事だろう。
しかもコイツはオレの大切なセルリアンの元カレとか言ってるし…。
頭の中が整理つかずモヤモヤとしたまま口から出た。
「ああ。昔セルリアンが言ってたぜ。自分を置いてどこかに行ってしまった妖狐にひどく傷つけられたって」
…。…。…。その言葉に反論する事ができない。
好きで放って置いた訳じゃない。気付いたらそんな状況になっていた。
言い訳がましく聞こえるけど、今だにオレにだって説明できない。
だけど。
1000年もの長い間彼女を一人きりにしてしまったのは紛れも無い事実だから何も言い返せない。
こう言うところが男として情けないとこの時代に来て思うようになった。
1000年前はただ強い事が男らしいと言う事だと思っていた。
誰よりも強くいる事が男だと思っていた。
だけど、この時代に来てそれだけじゃダメだと教えられた。
後ろにいるセルリアンがギュッとオレの服の裾を掴んで心配そうに瞳を動かしている。
強いと言う言葉の本当の意味を今は模索中だけど、昔も今も変わらないのはセルリアンの側にいたい、セルリアンを守りたいと言う気持ちだけだ。
「セルリアン、アイツは一体何なんだ?」
「アイツは…ずっと昔に一時一緒に暮らしていた事があった」
一緒に暮らしていた…。
セルリアンのその言葉に少なからずショックを受けたが過ぎた事をどうの言っても仕方が無い。
「ほほぅ、その送り鼬とまさか同棲までしていたのはな」
九十九神がフワフワと近付き、ほう、と冷ややかに笑うと、ブレットはさっきまでの軽薄な表情を一転させた。
彼の体から白い煙幕が溢れ出て室内の空気が氷に包まれたように冷たくなり、見る見るうちに毛や爪や牙が伸びてきて瞳を赤くし猟期的に九十九神を睨むブレットがそこにいた。
「オレちんをただのイタチの妖怪と一緒にすんじゃねぇよ、九十九!」
そんな恐ろしい見た目になったブレットを目の前にしても顔色一つ変えずに九十九神は悠然と宙を舞い扇子を扇いでいた。
「ほほぅ、その姿は醜いただのイタチじゃな、我が成仏させてやろうか?」
正に一触即発。
そんな雰囲気の中、二人の間に入ったのは意外にもセルリアンだった。