登場
「元カレとは可笑しな事を。九十九神よ。お前の頭は真実と偽りも区別できなくなったのか?随分安っぽい神もいたものだな」
強気な物言いだが相変わらず巫女が怖いようでオレの後ろに隠れて服の裾を強く握ったままの言葉だったから全く迫力は無かった。
「ほほー。今カレに元カレの存在を知られたくないと?その気持ち分からなくもないが拗らせる前にちゃんと紹介した方がいいのでは無いか?」
襲ってくる白い獣を華麗な扇子さばきで追い払っていた九十九神だったが振り払っても振り払っても攻撃してくるものだから遂にしびれを切らしたらしく、扇子の要でその中の一匹を叩き落とした。
そこでようやくその獣の姿をはっきり見る事ができた。
白の丸耳、真っ黒な鼻長い髭、フサフサの丸っこく太く長い尻尾。
「これってイタチか?」
叩かれたソレはオレの足元に落ちたので拾ってみると耳が小さく胴の長い白色のイタチだった。
一匹がやられた事により気が動転したのか残りの獣たちの動きが止まったので残りの獣たちの姿も確認する事ができた。
あまりにも俊敏な動きを見せていたため最低でも10匹はいると思っていたがたったの三匹だと言う事に驚いた。
向こうから攻撃をしかけてこないならこちらが仕留めるのは余裕で。
銀狐と黒狐が動きを止めたイタチをそれぞれいとも簡単にひょいと持ち上げた。
「おかしいなこんな小物に俺の結界が破られる訳ないのだが…」
銀狐が茶色のイタチを隅々までチェックし出して、髭を引っ張ったりあらぬ方向に体を曲げたりする物だから、『ギャッ』と奇妙な声で鳴いた。
黒狐も黒狐で黒のイタチを逆さまにしたりグルグルと回したりしていた。
「確かに。こ奴等は大元に操られているに過ぎん。もうそろそろ姿を見せてもいいんじゃないのか?大将さん」
九十九神が口角を持ち上げて天井に向かって言うと、蛍光灯の光がカチカチと点滅し初めたと思ったらパリンと割れた。
キラキラと落ちる破片から身を守るように各々は腰を屈め息を潜めた。
極度の緊張が走る中、ヒンヤリとした空気が部屋中に広がる。
「あいつが来る…」
白い息を吐きながら震えているセルリアンの細い肩を抱いた瞬間。
ドアが破壊される音と共に調子の良さそうな声が響く。
「おいおい。せっかく久々の再会なのにつれないじゃないか、愛しのセルリアン」
どんな大物入ってくるのかと思っていたら、そこにいたのは予想外のチャラ男だった。
ハートを横にしたような形のサングラスを掛け、真赤なスーツに身を包み腰まで1つに束ねられている腰まで伸びた銀髪。
「そんなとこにいたのかオレちんのセルリアン!」
クンクンと鼻を鳴らしながら本棚の影に隠れていたオレたちを発見して…いや、セルリアンを発見したソイツはオレを吹っ飛ばし彼女に抱きついた。
え?え?え?
「ほほー。さすが元カレ!大胆な登場だな」
面白そうに口もとで手を揺らす九十九神。
それとは対照的に青褪めた表情で持っていた黒イタチを手放した黒狐がボソッと呟いた。
「セルリアンさまの元カレ…そんな…いや、これはきっと何かの間違いだ…」