元カレ
今回学園を騒がしているこの妖の事をセルリアンが知っている?
九十九神は一体何を言っているのだろう?
しかし、よくよく考えてみればセルリアン本人も妖の正体を知っている口振りをしていた。
セルリアンに関係のある妖…。それは一体…?
「九十九神。お前は妖の正体を分かっているのだろう?そしてソイツが私と関りのあるモノだと分かっている…さすが神と名のつくだけあるな。だがお前にとってこの学園は守るべきモノに値しないはずなのにわざわざ警鐘を鳴らしてくるとは心境の変化でもあったのか?」
巫女の姿をした九十九神の存在が怖いセルリアンはオレの背中からひょっこりと顔だけを出して言った。
「左様。私はこの学園がどうなろうが知った事では無いが私の大切な友香に何かあったら困るんでな…私はこのバッジの中に封印されてる故、側にいながら何もできないので今回このような姿で出させてもらった」
扇子で扇ぎながら窓の外に目をやっていた九十九神は『おやおや』と目を細めた。
「ここに張っている結界はやはり小物しか効かないようだな。奴らが入ってくるぞ!」
奴ら…?
壁や天井あらゆる場所からカタカタと小さな生き物が歩き回る音が聞こえた。
まるで鼠が歩く音に似ている。しかも1匹では無い。数匹いる。
銀狐は結界を強くしようと身体中から御力を出し部屋中が銀色に包まれる。
「ダメだな…結界が破られる…」
セルリアンの言葉が終わらないうちに。
ピシッ。
僅かに窓に入った亀裂が瞬く間に広がる。グニャと溶けていくように原型を無くしていく窓や壁。
色も様々で白や茶色や黒い数匹の何かが疾風のごとく四方八方に飛んでいる姿が見えたが、その様子はあまりにも早いためそのモノを確認する事ができない。
そんな中で不意に扉が勢い良く開き、
「大丈夫ですか?セルリアンさま!」
髪をを乱した黒狐が入ってきた。
その方向へ白い何かが飛んでいくのが見えた。
「伏せろ。バカシュバルツ!」
「え?」
セルリアンの制止の声は間に合わず黒狐の頬に切傷が浮かび上がり白い頬が赤く染まった。
「…つ…」
冷静沈着な黒狐は咄嗟に痛手を受けたもののふぅーと深く呼吸をする事によって状況を飲み込んだようで向かってくる白い何かを難なく避けてオレの後ろから出てきたセルリアンの横に立った。
「セルリアンさま。お怪我はございませんか?」
「私は大丈夫だ。と言うかコヤツ等は私には絶対手を出さないだろう」
黒狐と同じようにそれをヒョイヒョイと避けながら宙を彷徨っていた九十九神が、クククと冷笑を浮かべていた。
その言葉通り白い何かはオレ達に向かってきてはいたが敵意は無いようだ。
「そうじゃな。元カレが元カノへ危害を加える訳ないじゃろ」
え?え?え?元カレ?元カレって?
白い何かを避けていたオレだったが九十九神の言葉に気を取られ頬に鋭い痛みを感じた。