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夏の終わり

『ラビル?どうして起きてくれないの?』


顔の半分ほどある大きな紫色の瞳にいっぱいの涙を溜めている少女は目の前で大木に寄りかかって座り込んでいる全く動かない妖狐の体を揺すっていた。

長い銀髪の合間から見える顔に生気は感じられず、ただ女の子に揺すられているままの妖狐。

不気味なほど静まり返ったその森の中で聞こえるのは降り始めた雨の音と少女の掠れた声だけだった。

この場所には見覚えがある。

そう…。ここは1000年前、瀕死を負ったオレが力尽きた場所だ。


あれはオレだ…。


それはとても気持ちの悪い情景だった。

鏡に移る自分を見るとは訳が違う。


自分の姿を自分が見ると言うだけでも気分のいい物ではないのに。

ほぼ死にかけの状態の自分を見下ろすと言う事はこんなにも気持ちが悪いものなのかと…。


「お願い、ラビル、目を開けて」


しばらくオレを起こそうとしていたセルリアンがオレの手に握られているあるモノに気付き、小さな手でソレに触れた。


ソレはセルリアンが欲しいとオレに願った咲かせる事ができれば何でも願いの叶う魔法の花の花ビラだった。


『コレを…私のために…?こんなの、ラビルがいなければ何の意味も無い。ああ、ラビル、ラビル目を覚まして…』


彼女の瞳から一滴の涙がソレに零れ落ちる。

その瞬間、ネオンブルーの花弁のカケラが目映いほどの金色に輝き出し、目が開けられなくなる。


あれ?これは…。

目の前の景色に違和感を感じた。

これは誰の記憶だ…?

オレはこの時自分の手で花弁に、彼女にもう一度会いたいと願ったのでは無かったか?

だから、こうして彼女に出会えたのでは…?

それなのに、今見ているのはセルリアンの願いでは無いか?

これは一体…。



「おーい、ラビル」


う…ん?誰かがオレの体を揺すって呼んでる。


「ラビル、早く起きないならこのままベッドに縛り付け私の側から一歩も離れられないようにしてやってもいいんだぞ」


それは困る。

聞き慣れた声で語られるのは、淡々とした口調からは想像できないほどの恐ろしい言葉だった。

慌てて飛び起きる。


「何だ起きたのか?」


ぼんやりとした目に映ったのは、少し残念そうな顔をしたセルリアンだった。

大人びた表情の中に時折見えるあどけない顔が1000年前の彼女を思い出させる。


「何かうなされてたけど、悪い夢でも見てたのか?」


うなされてた?オレが?

セルリアンの言葉に首を傾げた。

夢…確かに見ていた気がするが何の夢だったのか全く思い出せない。

首元にかいた汗を手で拭うと、花弁のネックレスに当たった。

元は花弁だったのに、ここに来てからはネオンブルーの石に変わり、オレの首から外れなくなってしまったペンダント。

確か…この花弁に関係のある夢を見ていた気がする…。


「それにしても、お前が私より遅く起きるなんて珍しいな、ほら、早く着替えろ」


「着替えろって?何に?」


「何だまだ寝ぼけてるのか?今日から学校だと昨日言ったろう?」


「え?」


「夏休みは終わり。今日から新学期だ!早く用意しろ」


そう言われれば昨晩そんな事を言われていた気がする。

長かった夏休みも終わりか…。

ベッド横の棚に飾られた海をバックに撮ったセルリアンとオレの二人の写真を見ながら、オレは腰を上げた。


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